04-10-22:収穫祭#祝祭>悪の影
「ん……」
薄暗い部屋にろうそくの明かりだけが灯るなか、シェルタは目を覚ました。腕をよじるが、縄できつく縛られているのか動かない。それは足も同じで、ただ硬い椅子に縛り付けられているようだ。冷たい感触が痛く居心地が悪い事だけはすぐに解る。
「目を覚ましたか」
「えっ……叔父上?!」
目を見開くけば叔父レンコルの姿と、隣には熊のような大男が控えていた。
だがレンコルの手にあるナイフを見て、流石に異常だと気づいた彼女はとっさに魔法の行使を試みる。だが前段となる
一体何故、怯える彼女に応えるのはぺしりと刀身を叩くレンコルだ。
「ああ、無駄だ。特注の
レンコルはナイフを構え、腰から小瓶を取り出しながら嬉しそうに嗤った。
「全く、やっとこれで終わりになるのだなァ」
「終わりって、どういうことです?!」
「馬鹿な娘だ……何故だなどと聞くんじゃあない。お前がフロウラの者であることが問題なのだよ。ティンダーの血脈にフロウラの血は汚れに他ならん。
リンピオもサビオも、それがわかっておらんのだ。もはや一刻の猶予もなく始末しなければならないというのに……」
瓶から濃い紫色の液体を滴らせ、銀色の刀身を汚していく。純血を犯すような有様にさしものシェルタもそれが何かを察したようだ。
「これはシシュタリウスの毒だよ。通常の10倍に煮詰めてあるから直ぐに死ねる……。
ああ、そうだ。確実に殺さねばならないのだから、これくらいは使わねばな」
「な、何でこんなことを……」
「邪魔だからだよ……ウェルスはティンダー家が支配すべきもの。今更フロウラのものに奪われて貯まるものか。
まったく貴様ときたら兄と同じく今までさんざん手こずらせおって。やはり最後は自らなすのが最善ということだな」
言葉にシェルタの顔が青ざめた。
「ま、まさか……叔父上」
「本当に馬鹿な娘だな、だが無意味だ」
笑うレンコルにシェルタが身を捩り逃げようとするが、縛られた手足は動くことはない。頼みの魔法も使うことはできず、ぎしりと歯噛みし、目には涙を浮かべて睨みつける。だがそれに何の意味があるのか。
ナイフで刺されてしまえばそれで終わりなのだから。
「……レンコル様、お待ちを」
「今良いところなのだ。邪魔をするな」
「誰か来ます」
「……何?」
クマの男が部屋のドアに向かって身構えれば、時を置かずしてぎいと音をたてて開いた。
やってきたのは……シェルタも見知った男である。レンコルの持つナイフに目を向けると、ポツリと呟いた。
「あぁ、穏やかじゃありませんねぇ」
淡々と語るのは血塗れの剣を携えたシオンである。無表情に語る様はなんとも不気味だ。
「てめぇ、何故ここに……」
「そこの2人。お縄につくか、ここで死ぬか選んでください。僕としてはお縄につく事を進めますが……」
静かに告げるシオンから、尋常ではない冷たい殺気が放たれる。思わずシェルタも怯えて息ができなくなるほどだ。
レンコルがシェルタを助けに来たと察し、シェルタに近づいて首元にナイフを近づける。
「ひっ」
「ま、まて。これがどうなってもいいのか?」
だが意に介さずシオンは一歩踏み出す。
「仮に僕が武装解除しても彼女を殺すでしょう? なら盾にする意味がありませんし……」
さらに一歩、なんの気負いもなく踏み出していく。
「どのみち全員殺しますから同じことです。さて、これはなんといいましたか。
ああそう……『世は並べて事も無し』でしたかね。いい言葉だと思いませんか?」
一歩。なんの表情もなく剣身に魔力をまとわせていく。濃厚な魔力に包まれたロングソードは
「レンコル様、今すぐ逃げてください」
「な、何を言っている?!」
「こいつが言ってることはマジだ。そうといえばそうする奴です。
……ただ逃げてください、俺ァそれ以上はフォロー出来ねぇ」
「ッ……」
忠告を無視してレンコルがナイフを振りかぶり刺そうとした所、シオンが忍ばせていたナイフを高速で投擲した。一直線に喉元へと向かう薄い刃は、クマの男が抜き放った剣により阻まれた。次々に投擲されるナイフは数本がすり抜けてレンコルの髪を数本切り裂いて壁に突き刺さっていく。
その全てが必殺の威力を込められており、刃の根元まで突き刺さる程に重い一撃であった。
「おはやく! 何時まで持つか解らねぇ!」
「く、クソっ!」
甲高い金属音を耳にしたレンコルは歯噛みし、一目散に逃げ出した。追うように前に出たシオンの前には、勿論クマの男が立ちはだかる。
「どいてください」
「させねぇ! おりあああ!!」
「おっと」
クマ男の剛力でぶちかましを受け、ドアを突き破り外へと押し出された。後に残されたシェルタは唖然と起こったことに目を丸くして沈黙した。
――ぱちん。
「えっ……?」
突如弾ける音がなったかと思えば、首輪が外れて床へと落ちて転がっていった。
理由は彼女の足元にひらりと舞うぼろぼろのリボンなのだが、彼女はその存在に最後まで気づくことはなかった。
「よくわかんないですが、これで魔法が使えるですね……」
幸い覚えた〈ウォラーレ・シーカー〉を使えばロープを切ることは容易い。早速彼女は詠唱を開始した。
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