04-09-04:Etcetera>Everyday///じょうそうきょういく

 『幸せの長尻尾亭』のやわらかなベッドの上で、ステラは緊張の面持ちで正座している。勿論これから聞くのが『ほけんたいいく』だからにほかならない。


 説明するシオンも若干説明しづらそうである。だが必要なことと割り切って説明を始めた。


「あー、ステラさんはなのですか?」

「どこまでっていうと、なんだ。こう……男のイキり勃つアムル・ノワーレが、女の濡れそぼる迷宮ラビリンスにぬるりと入門して、ウェルウェルミルクを粗相する的な……」 

「すごい説明かぶせてきましたね?! そうではなく……」


「えーさらにその……大当たりがでると『できちゃった』的な……勿論男と女、オスメス話でオスオスとかメスメス的なのだとオギャるだけでオギャーしない的な?」


「そっちでも無いんですが、オギャるとは?」

「いわゆる赤ちゃんプレイ」


「すみません質問が悪かったですね!

 種族特性についてです!」

「え、そっち?! は、早く言ってくれよ!」


 ステラが顎に手を当てううむと悩み、指をくいっと一本立てた。


「小生の国の人間……ヒューマ基準ならいつでも妊娠は可能だが排卵日、つまり20〜30日ごと起こる”月のモノ”を見て妊娠しやすい日は特定出来る。そこで凹凸を口にする的な行為に及ぶとできやすいぐらいかな。

 また妊娠は悪祖とも言って、かなり調子を崩す。最初期はかなり辛いが、ずっと続く人も居るようだな」


「概ねそんなところですが……なるほど、妊娠しやすい日ですか」

「貴族や王族は統計的に知ってるんじゃあないかなぁ?

 あとは、貴族はおいといて恋愛結婚が基本。アプローチは花でプロポーズが鉄板と聞いたぞ」


 ステラは先日テナークスに贈った鉢植えを思い出す。その後経過を見ていないが、うまく行ったのだろうか。便りが無いのは良い知らせとも言うし、フドウが来ないことからも上手く言ったのだろう。


「大まかに言えばそうですね。たとえばメディエ嬢のような翼人族ウィンディアは、ダンスが上手いと好感度が高いですね」

「ダンス……なるほど求愛行動か」


鱗人族リザードは少し特殊で、自作の歌の上手さで決まります。そして卵生なのも特徴ですね」

「やっぱ寒いところは苦手なのかね?」

「みたいですね。概ね温かい地方にいることが多いです」


 どうにも前世における類がもつ特徴がそのまま適用されているように思われる。神からしてつながりがあるのであれば、類の要素を参考に作った、等はあるかもしれない。


「なら、エルフみたいな長命種はどうなってるんだ?」

「比較的子供が出来づらいのは共通します。種族に寄りますが……エルフなら月のモノも年一回前後ですね。それも季節によるもので、大体春先に起こるものです」

「なるほど……言われてみれば小生それんだよね。なるほどこれからなのかぁ」

「ハイエルフの事情はわかりませんが、概ね一緒なのでは無いかと……」

「ちょっと憂鬱だなそれは」


 なるほどなー、とステラは頷くが彼女の場合さらに事情は異なる。この世界において『ハイエルフ』と認識されるに過ぎず、実質この世にあらざる種なのだ。


 既存の考えがそのまま適用できるとも限らないが、欠けたる知識は『なまら』『ごっつ』『やおら』と告げる。軒並みパワー増加系ワードだ、ろくなことではないとはさしものステラでも察している。


「ちなみにドワーフやディアヴロはどうなんだ?」

「ドワーフは携わる分野により変わりますね。鍛冶なら刀剣や冶金、商売なら財産、学者なら研究結果……共通するのは『目の良さ』でしょう」

「ああ、造り手たらんとするなら、生半可な腕ではってことか」


「ええ。なので基本的に一夫多妻ですよ。

 対してディアヴロは定めたを見放すことはありません」

「おお、ロマンチックだな!」

「基本的に魔力に惹かれるようです。その波長が合う相手であることが前提で、容姿はあまり重視されません。とはいえ角の大きな者は総じて魔力も大きいので、美点の最もたるポイントです。

 他には獣人は狩りの上手さ……まあ単純な強さですね。魚人は宝石を贈る習慣が在ります」


「ちなみに幻想系は……なんだろう。わからんな」

「希少種ですからね。基本的に育った環境に依存すると言っていいでしょう」


 ステラの脳裏に年上のお姉さんに告白した少年が思い浮かぶ。竜たる彼がサキュバスに惹かれ、魔人たる彼女が惹かれたのはそれが理由かと頷いた。


(うーん、げんきでやってるかなぁ?)


 大分遠くにある街にステラは思いを馳せる。懐かしいほどの時は経っていないが、小さな友人や大変な事件も沢山あった。今生において故郷と言って良い場所だ、郷愁に駆られたとて不思議ではない。


「……帰りたくなっちゃいましたか?」

「少し寂しいかな……でも」


 ぴしっとステラが指を立てる。


「新たな出会いもまた良い物だよ?」


 にかりと笑うステラに気負いはない。心の底から今を楽しむと宣言したとおり、彼女の笑顔に曇りはなかった。

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