04-05-08_BP-01:Digression>Everyday///眠りのフドウはさらに助けがほしい
ある夜のことである。
月も高く宿泊客の睦言もピロートークに差し掛からんとした頃、窓辺にカリカリとひっかく音がしてステラは起き上がった。シオンを起こさぬようそっと窓をあけると、ずんぐりむっくりの見慣れた猫王フドウが飛び込んでくる。
ととんと足音小さく着地した彼はベッドに乗ってステラに座るよう進める。
それに苦笑しつつ隣に腰掛けると、フドウは『な゛ぉ~』と鳴いた。
『ステラ、たすけてくれ』
『え、どしたの? なにがあった?」
彼はしょんぼり困り顔で途方にくれていた。眠りの2つ名はどこへ行ったのか。
『じつは、おれのごしゅじんのことなんだ』
『インテグラさんか……』
ステラはきっぷのいい老婆を思い出す。品のいいおばあちゃんで、なんとなくお菓子くれそうなオーラがあるステラ注目のニューカマーである。
『こんかいのことで、おれはむりょくをさとった』
『すげえふかいこといいだした!』
『だからくやしいけど、ごしゅじんをあいつに"かしてやる"ことにする』
『あいつって?』
『いけすかないシロいオスだ』
『あゝ〜』
テナークスである。絵に描いたようなロマンスグレーのおじいちゃんで、高確率でお菓子くれそうなオーラがあるステラ注目のフレッシャーである。
『たしかカレはインテグラさんがすきなんだよな』
『ごしゅじんもにくきゅうからずすきなんだ』
両思いじゃねえか。じゃあ早く結婚しろよとステラは爆発系コトダマを漏らしそうになった。
『こまってるのは、ごしゅじんもシロいオスも、くっつこうとしないんだ。わけがわからん』
『あぁ~……おいらくのこいなー。いいね!』
『よくないぞ! だからたすけてくれ……』
全くしょぼんと髭尻を下げる様は、王の威厳もなにもない。本性は山のように大きいけれど、やはり猫は猫なのだ。
ここでステラが思案し、ちょっとしたプランを提案する。
『そういやふたりはおちゃしたりするの?』
『ああ、あのクサいやつか。するよ、はながもげそうになる』
『ならそんとき、テナークスさんにかまってやるんだ』
それにきょとんと目を見開く。猫目がくりっと広がって非常に可愛らしいので思わず撫でた。
真面目な話かと思って我慢してたのだ。
『フドウさんをみれば、インテグラさんがだいじにしてるのはわかる』
『いいだろ〜!』
『ええのう! だからフドウさんがテナークスさんを"みとめた"って、やってみせればいいのだ』
これに尻尾をピョコタンと動かした。
『なるほど……ボスのいげんをみせるのか』
『えっ? あー、まぁ、そう、なのかな? けっかはどうあれへんかはあるとおもうぞ』
『わかった、ためしてみるよ。ステラはたよりになるな』
『よせやいてれるゥ』
『じゃあおれはいくよ。ステラのごしゅじんにもよろしくな』
『はいよぉ、またね~♪』
ご主人は恐らくシオンの事だろう。最早猫界におけるステラは、二足歩行型にゃんこである。
フドウが巨体に見合わずヒュルリと窓際に立つと、『な゛ぉー』とひと鳴きして外へと消えていった。
(ふー、戸締まりしないと)
窓をそっと締めて振り返ると、シオンが身を起こして此方を見ていた。不味い、起こしてしまったか。
申し訳無さに謝ろうと、
「……してらしゃん」
「?!」
しゃん。シオンが『してらしゃん』と言った。ステラに動揺が走り、息を落ち着けてゴホンと咳をついた。
「な、なんでしょう……?」
「にゃーうにゃーんうるさいれす」
「!!?!」
ごもっともだが、『うるさいれす』ときた。あと『にゃーん』て。
ステラは混乱しつつ90度に頭を下げて謝罪する。
「……ご、ごめんなさい」
「よろしい、うみゅう」
「???!?!」
それきりぽふりとベットに倒れて、またすやすやと寝てしまった。
唖然とシオンを見るステラは混乱のさなかにあった。
(うみゅう?! うみゅうやて?! シオンくんが『うみゅう』といったぞ?!)
寝ぼけていたにしては余りに可愛いすぎた。彼の意外な一面に、それはそれは混乱してステラはやはり寝られなかったという。
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