04-05-08:2人は何をするべきか
ステラがパンと手を打った。
「さて、揃ったカードを切る前に、見るべき目的を再確認しよう。
まず我々の目的は何だろうか?」
「ヴォーパル・イェニスターを起こすことですね。
そのためにシェルタさんの問題を解決する必要があります」
「シェルタちゃんの問題とは何だろうか?」
「
「仮面をかぶる直接的な原因はなんだろう?」
「メディエ嬢はハーブ氏を刺殺、或いは相当する怪我を追わせた結果、罪の意識を抱いたのではないでしょうか。
ただし本意でなく事故である可能性が高い」
ステラがコクリと頷く。
「さて、彼女の抱える問題は仮定できたな。
しかし解決すべき道はまだ決まってない」
「それは事件を解決すれば……」
「本当にそうかなぁ?」
疑問にシオンが少し考え、ハッと気付いて顔を上げた。
「なるほど、何となく『事件を解決すれば問題が解かれる』と考えていましたが……。
即ち『彼女の問題が解決するとは限らない』ですね。
犯人が捕まっても彼女はそのままになりかねない」
「うむ。その点履き違えるとしくじるだろうね。なので調べをすすめる前に、シェルタ問題の解決目標を切ろう」
シオンもうなずき同意したた。
「これにあたり共有したい事が一つ有る。
シェルタちゃんはまだイェニスターを携え、ちゃんと武器として使えているということだ」
「え、でも眠っているんですよね?」
「それって半分だけと思うんだよ」
「なんですって?」
ステラ枕元のグラジオラスを手に取り、鞘から抜いて柄をそっと撫でる。相変わらず嬉しそうな喜色を返す愛らしい子であった。
「星鉄の武器は意思を持つが故に、主と定めたものが持つなら軽くなる。
イェニスターはレイピア型とはいえ、本来非力なシェルタちゃんが振り回せるものではない」
「本当に軽い、というケースは考えられないでしょうか?」
「ならグーちゃんを試しに持ってみる?」
片手で差し出された異形の短剣を受け取ると、ずしりとシオンの手に重みを帰した。少なくとも両手で持つ必要がある重さがある。
「振り回せそう?」
「……出来ない事はないですが、両手剣ほどの重さなのであまりやりたくはないですね」
「つまり、イェニスターがメディエちゃんを認めてないなら、片手であんな軽々とは持てないってことだ」
シオンがそっと返すと、彼女は片手でくるくる回してポーズを取った後鞘に収めた。
「ということは……本当に認めているんですね。なら何故眠ったままなのでしょう?」
「だからこそ目を覚まさないのだ。
イェニスターは『清潔』の権能を持ち、『清廉』を好むが故に」
これにハッ目を見開くシオンが焦る。
「……ま、待ってください。メディエ嬢は不本意とは言え、兄を刺してしまったのですよね?
なら清廉と言うには難しいのでは」
これにステラがちっちと指を降る。
「シオン君が言うのは
つまり、イェニスターはそこまで求めちゃいないんだよ」
「……でも似たようなものでは?」
「故国の聖人にて曰く、人は生まれながらにして罪を負うという。如何に避けたとて、生きる事……食べるという事は、他者を退け殺し続けることだ。
ならこの世遍くあらゆる存在は、真に潔白であるはずが無いだろ?」
「だとしたら、何故イェニスターは未だに彼女を認めているのでしょうか」
ステラがウィンクして、人差し指を口元へ持っていく。
「それこそが解決すべきまことの使命だ。
清廉とは心清きこと。私欲なきこと。
だが人は生きながらに罪に塗れ、それでも星の瞬きを見出したから。
イェニスターは『メディエ』を選んだのだろう」
謳うように紡ぐように、彼女が言葉を編んでいく。
「然し星は曇ってしまった。
心を閉ざして死者を騙り、歩みを止めて目をそらす。
故に剣は眠りにふけるのだ」
清聴するシオンは息する間もなく耳を傾ける。
「つまり、彼女が『ハーブ』を名乗る限り。
そしてその時をずっと待っているのだ」
いい女だよな、とポツリとつぶやく。
「……つまり『メディエ嬢がハーブ氏の死を受け入れる』事が必要なのですか」
「うむ。イェニスターが好む『清廉』は、閉じこもるシェルタちゃんでは期待ハズレもいいところだろうよ」
はぁ、とお互い同時にため息をつく。かなり難しい要件で、どう認めさせるか思いもつかない。
「まずはこれを念頭に置いて、切るべきカードの情報を調べてみよう。以外なところから解決の糸口が見つかるかもしれん」
「……彼女の知り合いを当たる、というのはどうでしょうか?
親しい間柄であれば、間接的に情報が得られるかも」
「教会組……というかシチェーカさんか?」
彼女はすこし苦い顔をして唸った。
「あの、どうしたんです?」
「教会は良いんだけど、お地蔵さんが如く拝まれるのだよなぁ……」
「あぁ〜」
件の一件から、ステラはまるでお祖父ちゃんお祖母ちゃんにチヤホヤされるように扱われている。それ自体は良いのだが、とても尊い物を触れるように扱われるので非常にきまずい。
違いますよー思ったほどのステラさんじゃないですよー。
そう訴えたところでシチェーカは聞いてくれない。一見すると扱いはいいように見えるだろう、しかし箸が転んでも笑ってくれる辺りダメ人間に堕ちそうで恐ろしすぎた。
ステラは(お小遣い制だが)もうヒモじゃないのである。
「情報屋から買うと言うのもありますが……少し厳しいかもしれませんね?」
「ん? なんでだ? 君も推奨するプランだったと思うのだが」
「金銭的な問題です。相応の価値が出てきますし、この街の物価に依存するなら情報量もかなり高いでしょう」
「あ゛ぁー」
ステラが眉間を揉む。たしかに高い。串焼きとかなんであんな高いんや、おかしいやろ。お小遣いとかマッハで消える。ヤバイ。街の物価でステラがやばい。
お小遣いを使いすぎて『あのあの』とお伺いを立てるのは非常に心苦しい物が有るのだ。
そこでハッとしたステラが顔を上げる。
「……ならリーズナブルな情報屋はどうだろうか?」
「つまりは腕がそれなりと言うことですし、信憑性も下がりますが?」
「だが嘘を言わない仔の情報なら、概要を得るには十分だ」
仔、という言葉にシオンが顔をしかめる。
「……それって人ですよね?」
「もちろん猫だよ?」
にへらと笑うステラは両手でピースサインをにぎにぎと動かした。彼女はウェルスの街の猫王、フドウと知り合いである。彼に頼めば普通ではわからない情報も得られるかもしれない。
だが所詮は猫の情報であり、どういった粒度の情報を得られるかは未知数だ。
だが実質的にノーコストで得られるならば、やるだけやってみるのも手といえるだろう。
「普通に街の人に話を聞くというのもありだな」
「聞き込みですか? それはそれでアリですけど」
「いんや、知り合いを当たる。インテグラばあちゃんと、テナークスじいちゃんとか。ヴァイセ医師とか。
少なくとも街の事件は聞けそうだよね」
「……意外とコネありましたね」
犬も歩けば棒に当たる。ステラが歩くと事件が起きる。起きた先には知り合い増えて、いつの間にか街の有力者に面識ができているのはもはや不思議以外の何物でもない。
今回の薬草の件もあることだし、少しなら話を聞いてもらえるだろう。
「明日は休みにするんだよね? ならちょうどいいし調べ物の日にしようか」
「本当はちゃんと休んでほしいんですが……」
最近ステラがまともに寝ていない事をシオンは知っている。寝なくていいとは知っていても、眠らなくていいなんてことはないはずだ。
「まぁそのうち慣れるよ。小生もこんな初心だとおもわなんだし……」
「そ、そうですか……まぁ、生活する分には余裕がありますからムリしないでくださいね」
「わかったよ、注意する」
実はサビオの頼み事について、かなり割高な報酬をもらっている。生活する分にはかなり余裕があるのだ。
「それじゃあ手分けして情報を当たろうか」
「手が足りないし仕方ないですね……」
「なら……小生明日は治療院に行こうかな。フドウさんやインテグラさんがいるからね」
「なら僕は教会を当たってみましょう。聞くに辺り名前を出しても?」
「構わんぞ! 存分に使っておくれ」
ステラがパンと拍子を打った。
「よぉし、では頑張っていこうか!」
「ええ、頑張りましょう」
うむりと頷くステラに、シオンが応じてコクリと頷いた。
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