製品でチップが違う

 大昔、初めて家庭用ゲーム機でメインをやった時の話。


 アニメ化もされているキャラクター版権物のアドベンチャーゲームだったのですが、


 オープニングデモで、原作者による画像を使ったキャラクター紹介を入れていたのですね。


 画面いっぱいにキャラの絵が出るのですが、


 まあ昔のテレビ画面の話なので、ドットも大きく絵も今と比べると荒い。


 それでも当時としてはそれが最大のクオリティです。



 画面に出してチェックすると、絵に少しジャギジャギ感がある。


 今はそんな表現しませんが、まあ要するにギザギザしてるんですね。


 ブラウン管なので、色が溶けあったようにボケて見え、逆に小さな点の集まりがくっきりしすぎて返って汚く見えてしまう。


 普通はブラウン管である事を考慮して調整します。



 なので画像加工して元の絵を少しボカし、表示される絵とのギャップを埋める事で差異を少なくします。

 (なんでもボカせばいいというものてはありません)


 いい具合に見えるようになった所でマスター入稿。


 プルーフロムが上がってきます。


 プルーフとはラベルが印刷されてないだけの製品と同じロムです。


 致命的な不具合でも発見されない限りやり直しはない。


 もっと言ってしまえば、致命的な不具合がないと判断されたからプルーフを焼いているのでまずやり直しはない。


 最終確認です。


 確認するのはプルーフとして上がってきたロムが間違いなく最終ロムと同じかどうかだけです。


 要するにプルーフの失敗がないかどうかだけです。

 (最終ロムがそのままプルーフに回るので出し間違いもない)



 上がってきたプルーフロムを実機で確認です。


 製品と同じなのでデバッグ用の機械では動かない。一般流通している製品と同じ機械で確認します。



 確認すると問題の絵がボケボケ。


 何事!?


 デバッグ機で最終ロムを見ると丁度いい。実機でプルーフ見るとボケボケ。


 ロムは間違いなく同じです。テレビも同じ。


 という事は機械が違う。


 デバッグ用の機械というのは最初に作られ、以降変わる事はないですが、


 製品は幾度となく更新されているのです。


 要はグラフィックチップが違う。若干性能が良くなっている。


 いわゆるロット違いです。初期ロットという言葉くらい聞いた事がある人もいるでしょう。



 画像が良く見えるようにハードウェアで若干ぼかし調整が入るようになっている。


 それをソフトウェアでも同じ事をやったから相乗効果でボケボケになった。


 信じられない。そんな事があるのか。


 と思いつつも、修正効かないので泣く泣くマスターです。


 もちろん製品として見劣りする物ではないです。


 初めてその画像を見る人にとっては別段気になるほどのものではない。


 しかし作り手の拘りと言うものは結構なものですからね。しかも最初のメインですよ。


 最善となるよう夜遅くまでかけて調整したものが、想定と違って送り出される。


 最上の料理を作り上げて、それをウェイターにマヨネーズぶっかけられたみたいなもんですからね。


 その怒りたるや。


 しかしメーカーもよりよくなるようにと思ってやってるわけですからね。


 しかし見た目が変わってしまうような手を入れるなんてのは、それよりも前では考えられない事です。



 悔やんでも悔やみきれない経験でしたが、


 今時はあまりそういう局面も見なくなりましたね。


 経験とか対応ではなく、今はそうなっても「アップデートで対応できる」というのをどこかに持っている節があるんですね。


 いや、アップデートいうものは本来そういうものではない。


 最高のものを届ける、という気持ちを持ち続けるのには、そういうのはイカンと思うわけです。

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