3-2-16-8
手首の動きだけで振り回す。バトンを振る少女か、棒を振る少年の趣。〈137〉で作戦に従事する時は、いつも使用していた剣を、今、彼女は握っている。この剣は、鈍器のような見た目であるのに、実際には高周波を放つことで接触した物質の分子間結合を緩める性質を持つ。最も古い武器と最も新しいテクノロジーの、幸福な結婚――。彼女は自分の口角が上がっていることを感じる。
機械仕掛けの蜘蛛の上に飛び乗る。共謀を始めよう――三縁の言葉を思い出す。三縁もまた、思い出しているはずだ。それが証拠に、彼女が背中を蹴るのと同時に、彼の巨体が〈身体拡張者〉から離れていく。かくして剣を振り回すための空間が確保される。
最初の一太刀は袈裟斬り。〈高度身体拡張者〉の少女が手首と肩と腰を利用した斬撃は敵の身体をまず2つの塊に分割した。2つの断面で〈還相〉が作動し、皮膚の形成を開始するが、その終了の遥かの前に、さらに剣が舞い踊り、切り刻む。そして2の2の2の2の2の2の2乗にまで、一瞬で、分割した。
〈還相〉が宿主との構造的カップリングを解消し、宿主の肉を分解していく。〈バーストゾーン〉が終わる。残るのは、〈還相〉の悪あがきのために消費されて溶解していく肉だけ。
黒いエナメルの靴が容赦なく、果断に、桃色の床を踏みつける。四恩はさらに前へと進まねばならない。もう廊下の奥では別の〈身体拡張者〉が、彼女を見つめている。〈バーストゾーン〉が彼の姿を熊のような、しかし八脚の生き物に変えていた。
〈後は国内を自由に移動する力と、金と、そして〈還相抑制剤〉を給付してやるだけだ。これだけで簡単に、テロルを操作することができる。混沌と秩序の期間を決定することが、できる〉
あああああああいあいあいあいあいあいいあいいいいいいああああああああ――。
彼は――彼らは〈還相〉が彼らの体内でそうしているように、環境情報内で彼らにとって最も危険な因子を区別できている。彼があげたのは雄叫びではない。呼びかけ。最優先で排除すべき敵についての情報の伝達。
あああああああいあいあいあいあいあいいあいいいいいいあああああああああああああああいあいあいあいあいあいいあいいいいいいああああああああああ――。
あああああああいあいあいあいあいあああああいあいあいあいいいいいいあいいあいいいいいいああああああああ――。
ああああああああいあいあいあいいいいいいああいあいあいあいいいいいいあいあいいいいううううううあいあうううう――。
塔の内部を〈身体拡張者〉の絶叫が満たした。もしかすると、それは、塔の外にまで伝わった。四恩は想像した。〈活躍の園〉の中で〈バーストゾーン〉に移行した〈身体拡張者〉の全てが押し寄せてくる。
あはっ――。
〈何がおかしい? これより他に、自由になる方法がある?〉
混沌を操作しているのは奥崎謙一ではない。
今や、そうではない。
わたし、だ――。
熊の肩の上に載った人間の頭部が口を開く。頬が裂けていく。歯茎が膨張し、歯が口の外へ飛び出す。〈還相〉が四恩を殺すために、超高速で進化生物学を再現した。
彼の8本の脚の先端はまるで鋭い槍だ。床に穴を穿ちながら、跳ねるようにして四恩へと近づいてくる。真っ直ぐに。彼女もまた跳ねて、彼の方へ。彼女は彼の身体を飛び越えた自分、彼の後ろを取り、切り刻む自分をイメージしている。
つまり、慢心。
彼女は〈還相〉を過小評価している。彼女の左側面、壁が粉塵と瓦礫を彼女に向かって吐きかける。意識のリソースを、その軌道の計算に奪われる。その間に、彼女が飛び越えているはずの敵が槍のような脚で急制動。彼女の前でぴたりと静止。嘲笑うように、今度は雄叫びそのものをあげる。
あああああいあいあいあいいいいいいああああああいいいいああいいあいあいいいいいううううええあいあいあいあいあいあいああああ――。
しかも、それは2つの喉から出たものだ。粉塵と瓦礫の向こう、さらに〈身体拡張者〉が立っている。
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