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 彼と目が合う。四恩は目を逸らさなかった。むしろ、そのまま無限にも近い時間、彼と目を合わせた。その背後にあるはずのものを見通すために。

 四宮四恩は光学操作能力を持つ〈高度身体拡張者〉だった。彼が見ているものを、彼女は見る。彼は今、自分が引き裂いた少女の身体の断面の骨と筋肉と脂肪と皮膚のミルフィーユから溢れていく血液の行方を追っていた。それから大きく、左右に揺れる。しかし確実に、視野の中央へと再度、四恩を捉える。

 四宮四恩は光学操作能力を持つ〈高度身体拡張者〉だった。彼女は彼が見る彼女自身を見た。彼の観察を観察した。彼が世界を観察するために用いる分厚いフィルタを通して、彼女自身を観察した。

 恐怖、という名の、フィルタ――。

 拡張された認識能力と、まだ誰かの父であり子であり友である、ただの普通の人間の意識のままである意識の差異が齎す恐怖――。

 変化することは――時に、死を望むほどの苦しみになる――。

 四宮四恩は光学操作能力を持つ〈高度身体拡張者〉だった。彼女は自分がやるべきことを、今、完璧に、十全に、理解した。

 ああああああああああああいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいああああああああああああいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあああああああああ――!

 声とは、空気を媒介にするコミュニケーションだ。彼の絶叫が突風そのものと化し、四恩の身体を吹き飛ばそうとする。爪先の向きを変える。帽子を手で押さえる。

〈四恩ちゃん!〉

 彼の目を通して多脚戦車の巨体を見た。巨体と巨体が一瞬で距離を詰め、激突する。

 がっちゃああああああああああんんん――。

 どうやら彼の皮膚は既にタンパク質以外の何かで覆われているようだった。四恩は柔らかなものと固いものがぶつかる音ではなく、固いものと固いものがぶつかる音とを聞いた。

 蜘蛛のような対都市ゲリラ戦用の戦車が、蜘蛛のような脚の一つを彼の腹部に突き刺す。そのまま回転を開始。三縁の手はドリルではなく、ガトリングだ。回転式多銃身型機関銃だ。ゼロ距離射撃が始まる。

 ぶううううううううううううううううう――。

 蜘蛛の腹部後端を叩く。本当に蜘蛛だったら、ここに出糸突起があるんだなと四恩は思う。多脚戦車は比喩的な意味でしか蜘蛛ではない。腹部が開閉し、内部を見せる。中には黒いトランクが入っている。取り出して、開ける。中には大きな剣が入っている。平たい剣身は切るというよりは叩くためだ。鎧の中の人間を撲殺するためのデザイン。

「かっこいい――」

〈四恩ちゃん!〉

 あいああいあいあいあいあいあいあああああああああああああああいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあいあああああああああ――!

「名前は――?」

〈四恩ちゃ――な、名前?〉

 ぶうううううううううううううううううううううううううううううう――。

〈ない! そんなもの、ない! ええっと、あっ、製品名?〉

「ナイ――良い、名前――」

〈四恩ちゃん!?〉

「わたしの共犯者は――いちいち狼狽え、ない――」

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