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 まだ少女たちはうつ伏せになっている。だがサクラの姿はもうない。釜石は彼女たちの少なくとも誰か一人が起き上がるまで見ていたかった。彼女たちはあまりにも力というものに対して従順だった。結局、サクラがロールスロイス・ファントムの運転席に乗り込む方が早かった。開閉音もまた、うつ伏せの少女たちには意味あるものと聞こえなかったようだった。仕方なく、彼は武野とともに後部座席に乗り込んだ。武野は彼に運転席の後ろの席を勧めた。

「私は何故殺されることになったのかな?」

 まるで死人の台詞だ、と釜石は思った。

「貴方は鳥栖二郎の協力者だ」

「協力者という言葉の定義に拠るね」

「貴方は奥崎謙一の協力者だ」

「協力者という言葉の定義に拠るね」

「貴方は四宮四恩の協力者だ」

「協力者という言葉の定義に拠るね」

「貴方は三島三縁の協力者だ」

「協力者という言葉の定義に拠るね」

 流れていく森の景色を見ていた武野が一瞬、こちらを振り返った。その顔にはやはりどんな表情もなかった。

「しかし貴方は三島三縁に四宮四恩と接触する機会を与えた」

「あれは彼女にIDカード類を奪われたからで、三島くんのセキュリティチェックが杜撰だったからだね」

「しかし貴方は四宮四恩に奥崎謙一の帰国を示唆した」

「推測を述べたまでだよ。それにあの時は、カウンセラーではなく医療従事者との面談が必要だったんだ」

「しかし貴方は奥崎謙一のクウェートでの司法解剖を中断させた」

「意味がないと思ったからね。もう液体になっていると報告されている検体にメスを通しても生産性はないと判断した。専門職の人の賃金は安くなく、我々の動かせる予算は大きくない」

「しかし貴方は鳥栖二郎に軍内部の情報を提供し続けた」

 ロールスロイス・ファントムの走行音は実に存在しないと言っていいほどだった。キャンプ場が近づいてきた。家族連れの賑やかな声も。全国の人口密集地域では〈バーストゾーン〉に移行した身体拡張者の帰還兵が文字通り人間を食らっているが、ここではそんな事件の余波すら感じることができなかった。日本の強さというものがあれば、これだろう。あの東北大震災の時も、関東以南の地域では震災報道が多すぎてドラマが見れないという苦情があったという。

「彼には私からの提供など、何も、何一つとして必要ないだろう。彼は今でも幾つかの外郭団体と政策会議、審議会に所属している」

「勿論、貴方からの情報など彼は大半、必要としていない。イスラーム・ユニオン発足の事前情報や軍の再編計画、そしてそれに伴って形成されていく軍内部の派閥と〈地下物流〉組織――等々。ただ、奥崎謙一の情報は別だ」

「彼は〈活躍の園〉の初期メンバーだよ。〈活躍の園〉のオペレーションは殆ど、彼が作ったんだ。児童相談所やソーシャワーカー、NPOと連携し、子どもたちを回収する仕組みとかね。奥崎くんとも何度か会っているはずだ。彼は現場にも出ていたから」

「先生、それでは〈137〉での奥崎謙一をどうやって知り得たか、説明してみてください」

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