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〈137〉の基地の地下の地下の、そのまた地下の地下の、地下の地下に四宮四恩はいた。最上階の角部屋から、ここまで、そしてこんな形で離れることになるとは彼女も考えたことがなかった。ミニマックス戦略に従い、いつでも最悪の事態を想定していたつもりだったが、天と地の間には彼女の想像力の限界を示すような地獄がまだまだあるということだ。それは常に口を開けて獲物を待っている。たぶん、そう、こういう発見がライフハック――。

 小林小町の殺害から火葬までを瞬きの間に行った奥崎は四恩を何処かに連れていくことに拘った。四恩は彼をこそ基地へ連れて行きたかったのだから抵抗した。皮肉を言い、腕を噛み、それから、それくらい――? もう少し何かしたような――。

 とにかく運が良かった! 運が良かった。四宮四恩は生き残った。奥崎の固執によって。運が、良かった――! 彼の執心と四恩の抵抗が時間を作り出し、飽和攻撃を可能にした。東堂東子と石嶺磐音が到着し、ロードローラーが飛び、銃弾が奥崎の腹の肉の中を進んだ。奥崎は四恩を置いて、悠々と闘争領域から出ていった。出ていって――もう考えるのはやめよう。運が良かった!

 四恩は今、生きている。生きているということは素晴らしい。生きているということはそれ自体でただちに肯定され、祝福されるべきだ。べ、き、だ――。

 東堂東子はまだ腕の先と脚の先とが膨張と破裂とを繰り返す四恩の首根っこを掴んで〈137〉部隊に引き渡した。

 かくして四宮四宮の冒険は幽霊を追い続けた徒労そのものの、破綻した物語として幕を降ろす。彼女は舞台の演出家、脚本家、主演女優、広報責任者だから、その責任をとって地下の地下の、そのまた地下の地下の、地下の地下で暮らすことになる。

 そこは科学の発展のために被験体となるより他には、全くの無用の者となった高度身体拡張者たちが死を待ち望みながら観想する家だ。

 独居房が円筒を成すように並び、さらにその中心、吹き抜けの部分にはその表面に隙間なくレンズを埋め込んだ柱が天井まで伸びている。まさにジェレミー・ベンサム的刑務所の正統後継者といった趣き――。

 その蜂の巣のように並んだ独居房の、最も床に近い房の1つで四恩は寝起きしていた。

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