2-2-5-2

「質問は1つずつにしよう。僕は1つ、もう答えた。今度は君の番だ。君はどうやって、ここに辿り着いたの?」

「奥崎くんの――墓を、掘り返した」

「大胆だね。そうしたら、もうここに至るのが論理的帰結ということになる。他の人は誰もそれをやらなかった。世界が別様にもありえるってことを、考えてもみなかった。でも君にはその想像力があった。そういうことだね、そういうことなんだね」

 全ては、あの時、あの瞬間から始まっていたのだ。死んで、そこに奥崎謙一が眠っているはずの墓を暴いたあの時、あの瞬間から。そこに奥崎謙一の亡骸はなく、彼が生きている可能性が四恩のいる世界を彷徨い始めた。後はそれを追うだけだった。

 四恩には、奥崎謙一が生きている可能性を確認したことの他にも、この国の優秀な捜査機関や捜査官たちの大規模かつ組織的な捜査よりも先に、彼に辿り着くアドバンテージがあった。それは、四恩が現場で奥崎謙一の亡霊の存在を感じ取ったことであり、その状況証拠を既に積み上げていたことであった。高度身体拡張者、それも水青や結乃のような優秀な高度身体拡張者を殺すことができるのは、やはり高度身体拡張者ぐらいのものなのだから。

 その先に進めたのは、墓荒らしの協力者がいたからだ。東堂東子――〈ありえたかも知れない高度身体拡張者〉。水青が、そして四恩が働きかけられたようにして、東子もまた、あの内務官僚に働きかけられて、別の事件を追っていた。不正蓄財疑惑――。課税所得の捕捉と国内大資本へのビッグデータ売却のために発達したマイナンバー制度のために、現代日本では不可能とされている不正蓄財――その疑惑を追っていた。東子は既に、その蓄財を可能にする地下市場を可能にする地下物流を見つけていた。それは、中東から、その中身を調べることが忌避されるようなコンテナ――戦死した戦士の棺桶を用いていた。奥崎謙一も、そのルートで帰国したのだ。

「別に僕は歩いたり泳いだりして帰っても良かったのだけど。終わりなき戦争は、既に地下物流網を、その最下流、資金洗浄のルートまで完成させていた。だったら、その船に乗って帰ろうと思ったんだ。快適だったよ、棺桶の中は。砂漠に似ているんだ。何もない。何もないだけが、あるんだよ」

「〈137〉の解剖は、どうしたの――」

「僕はね、アレッポ奪還のために侵攻してきたシリア軍と親政府武装組織〈クドス旅団〉の攻撃を受けて、跡形もなく消し飛んで死んだことになっている。これは派遣軍の総意だった。クウェートの安全な所にいる〈137〉の科学者たちの解剖技術がどんなに優れていても、派遣軍というフィルターを通してしか中東を見ることができないのだから、彼らの目を盗むのは本当に簡単なことだった」

 四恩と東子は、帰国していた地下物流の実際の担い手たちのグループの中で、さらに最近の通院記録を欠如した〈身体拡張者〉の集団を追うことに決めた。彼らこそ、奥崎謙一と協働することが可能であり、協働せざるをえない者たちだったからだ。

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