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 四宮四恩、四宮四恩、四宮四恩――!

 シ――ノ――ミ――ヤ――シ――オ――ン――。

Shion四恩, light of my life,我が命の光 fire in my loins我が腰の炎. My sin, my soul我が罪、我が魂

 棒のように華奢な体躯の少女を下から上まで、見る。待ち望んだ少女。それになんという幸運だ? 〈137〉の国家社会主義のコスチューム・プレイじみた制服を捨てた彼女の姿を見るなんて――。靴からスカート、ベストからネクタイに至るまで黒、黒、黒、黒。それは葬列に並ぶ少女にも似て。それから黒い革の手袋。あのファッションなら返り血も目立たないな、と奥崎は思う。

 ゆっくりと、しかしようやく大きく開かれていく彼女の瞳の中に、奥崎は彼自身を見出す。それで、感嘆とともに呟く。

「ようやく、来てくれた――」

「動くな!」

 四恩の後ろから飛び出してくる少女。短くした髪に、猫のように切れ長の目。靭やかな身体動作。無駄のない動きで構えた拳銃は。IMIマイクロウージー! 最後の審判まで続くであろう宗教戦争が鍛え上げた短機関銃! 奥崎はその武器の選択とあまりにラフな射撃姿勢に思わず微笑。微笑して、彼女はしかしなお、正確に射撃できる能力を有しているという可能性を思う。

 その銃口が向けられているのは――自分と、隣に立った男。すなわち鳥巣博士。すなわちチェシャ猫の笑みで状況を観察する男。

「何笑ってるの? 気持ち悪いわね。両手を頭の後ろへ」

 短髪の少女、奥崎と鳥巣の双方に銃口を向けたまま、ホールの階段を降りていく。その手には、肺と心臓が動くことによる微細な揺れすらない。高度身体拡張者では。だが、彼女も人間を辞めている――。

「まさか、こんなに早く来るとはね。完全に想定の範囲外だよ」

 想定の範囲内のような落ち着いた口振りで鳥巣が言った。

「でも『次』はあるんでしょう?」

「もちろん! 『死ぬまでは次がある。常に次はあり続ける』。彼女たちは正規の部隊ではない。正規の部隊ではないから、こんなに早くここに来た。それなら、恐れるに足りない」

 言って、革靴で床を鳴らし、踊るようにして回れ右。鳥巣博士は講演を聴き終えたの聴衆のように、歩き出す。

「動くな!」

 少女の警告射撃。天井に向けて。

 だあああああああああ――。

 奥崎を見つめている四恩。牽制、されている。

 少女、四恩を信頼している。奥崎を無視して、鳥巣にそのまま近づいていく。微笑ましい連帯。

「あなたは一体、誰なの?」

 顔を歪めながら、少女が言った。奥崎は彼女の網膜の上、スマートレティーナが表示しているであろうデータを想像する。それはなるほど、顔を歪めたくもなるかも知れない。

「私は何者でもないし、何者でもあるんだよ」

「そんな――」

「神に似ているだろう?」

「あなたは、自分のために、偶像を造ってはならない。上の天にあるものでも、下の地にあるものでも、地の下の水の中にあるものでも、どんな形をも造ってはならない。それらを拝んではならない。それらに仕えてはならない」

 出エジプト記――。少女の引用。恐らくは自らを奮い立たせるための。スマートレティーナ上、顔面は明らかに鳥巣二郎である男をデータベースで照合するたびに、別の人間のプロフィールが表示されているのだろう。

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