第三十二話 マシュー、商売敵に出会う
其の一
ラグナント王国随一の貿易港であるザカールの都には、湾岸沿いに無数の倉庫が建ち並んでいる。その数たるや、正確に把握している者はもはやこの町にはいないのではと思えるほどのものだ。無論、それだけの数ともなれば存在を忘れ去られ使われなくなったものもあり、あるいはそれはおあつらえ向きの密室として機能することもある―――
「こ…ここは…?」
金貸しのドワーフ、ドンドが覚醒とそこは辺り一面の暗闇であった。目を開けてもさほど変わらぬほどの真黒な視界で様子を窺うことはできない。ただ、自分の身体が鎖のようなもので椅子に括りつけられているという状態だけは感じ取れた。
「いったい、どういうことだ?」
不可解極まる状況に戸惑いながらも、ドンドは必死に先刻までの記憶を洗う。確か今夜は債務者の家へと赴いていた筈だ。
このドンドという男、金貸しとしては悪辣な部類であった。法外な利息を騙し取るのは基本として、それを返せぬ者への追い込みが何よりも苛烈で、この晩も人々が眠りにつくような時間にわざと催促に行っていたのだ。
もう寝る時間だから、近所にも迷惑だから、金は必ず返すからと債務者が泣きつくもかれこれ小一時間ほど恫喝。最終的に精神が疲弊しきったのをいいことに、幾分かの金目のものを巻き上げ帰路についた。彼もそこまでは明確に覚えている。
そうしてドンドが頭を悩ませていると、ぼうっ、と暗闇にようやく光が指した。淡い蝋燭の光がこちらへ近づく。それがランタンを持った人間だとわかったのは、2メートルほど手前まで近づいた辺りであった。
「久しぶりだな、ドンド。」
「お、お前は…!!」
そしてそれはドンドも良く知る人物―――かつて彼が金を貸した人間の男であった。無論暴利で一切の所持品を貪り、一家を離散させ、ボロ雑巾のように捨てその後については杳としては知れない、そう記憶している。そんな男が今、身動きの出来ない自分の目の前に立っている。
ランタンの光のお陰でようやく明らかになった周囲を見渡せば、横に置かれたテーブルには明らかに人体を苛む形をした金属製の道具。これから自分に降りかかるであろう出来事が容易に連想され、ドンドは身を震わす。
さらに男の背後から仮面とマントで身を隠した三人組が現れた。男は
「どうもありがとうございます。これでやっと、積年の恨みを晴らすことができる。この男が私に、妻に、娘にしてきたことへの仕返しができる。本当に…本当に…」
「そこまで感謝していただけるなら私どもも冥利に尽きるというもの。ささ、どうぞ存分復讐をお楽しみください。ここは滅多に人の立ち寄らぬ廃倉庫、いくら悲鳴を上げさせても大丈夫ですので。まあ、万に一つの事を考えて私どもも見張っていますが。」
覆面のリーダーらしき人物が、感極まって泣き崩れる男を支えると、マントの下の装束がちらりと見えた。ドンドはそれに見覚えがあった。いや、この街の人間どころかラグナント王国全体でも心当たりの無い者は存在しない、そんな恰好―――
―――州衛士隊配給の革鎧である。
と同時にドンドの記憶も蘇る。今夜の債務者への取り立ての帰り道、夜回りの州衛士に呼び止められた。職務質問か、面倒な事だとそちら側へと近づくと、瞬間、腹部に衝撃。
そう気付いた時には、憤怒と愉悦の表情を湛えた男が錐状の道具を持ってこちらに近付いてきている。逃れようのない終末の運命に震えながら、ドンドは叫んだ。
「ま、まさか…お前たちがあの噂の…WORKMAN!?」
踵を返し見張りに向かおうとしていた覆面の男が足を止め、彼の問いに答える。
「いいえ、私どもはそんな時代遅れの都市伝説ではございません。
―――『討たせ屋』、街の皆からはそう呼ばれております。」
覆面が再び歩み出すと、その背後では惨劇が幕を開けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夏も盛りに入る7月末日、ザカールの港にてひとつの水死体が上がった。
底引き網漁に偶然引っかかったそれは、その身体的特徴から先日から行方不明だった金貸しのドンドと判明。恐らく殺害から日が経っておらず遺体の腐食が進んでいなかったが故に手早く身元を特定できたわけたが、かと言っても綺麗な死体だったわけでもない。
「おえぇ…うぷっ…」
「すいません隊長、私もちょっと向こうで吐いてきます…」
検分にやってきた州衛士たちが次々に吐き気を訴える。大なり小なりこういうものに馴れがあるはずの彼らですら耐え難いほどの死体の状態。
引き上げられたドンドの身体には、凄惨な拷問の跡が残っていたのだ。
全身にはおびただしい数の切り傷と刺し傷、瞳は薬か火かはわからぬが酷く爛れている。指の何本かは切り落とされ、残った指もご丁寧に全て爪を剥がされていた。他にも特徴的な外傷は見受けられるが、それらを事細かく連ねるのも嫌になる、それほどに酷い状態であった。そしてその執念深い外傷は、これが怨恨による殺人であることを雄弁に物語る。
「あまり良い噂は聞かなかった男でしたが、こうもなれば流石に気の毒と言うか可哀想と言うか…あっ私も吐き気が。」
隊長のベアが眉をしかめながら忌憚のない意見を述べる。確かにドンドは悪辣な金貸しだった。多くの弱者を食い物にする、いつこのようになってもおかしくない悪党だった。しかしここまでされる謂われはあっただろうかと問われれば難しいところだろう。
(しかしここまでする程の恨み、わからんでも無ェんだよな…)
そして後ろからその言葉を聞いていた州衛士マシュー・ベルモンドは、見ず知らずの加害者の行為にひとつの理解を示していた。その裏の顔はこの世の尽きせぬ恨みを晴らす暗殺ギルドWORKMANが一員、殺したいほどの恨みというものは嫌というほど目にしてきた。事の是非はともかく、そこに至る心根は痛いほどにしている。
(だからって、手前ェの手で殺っちまうってのもなァ…)
「おやベルモンドさん、どうしたんですが柄にも無く真剣な顔して?」
「あっ、隊長…いやね、私だってこんな悲惨な遺体を見たら、そりゃ柄にも無く真面目にもなりますって。ハハハ。」
復讐代行のプロフェッショナルとしてこの惨殺体に思うところはある。そんな心境がつい表に出ていたようで、妙に思ったのかベアが声をかけてくる。一見すれば部下を慮る良い上司だが、マシューは隊長がこう不自然に優しく接してくる時というのはどういう展開が待っているのか身に染みていた。
「そうですか。普段と違って真面目にやっていただけるなら何よりですねぇ。では真面目なベルモンドさんには、この哀れな遺体を教会まで運ぶという大任に就いていただきましょうか。」
「やっぱりソレですか…いやちょっと待ってください!毎度毎度私一人に押し付けないでくださいよ!せめてもう一人誰か手伝ってくれる方が…」
「我々はこれからこの死体と連続金貸し失踪事件の関連性を調べるので忙しいんですよ。こうやって一人が死んでるとなると他の連中も生きてるかどうか。となれば一刻も早く下手人を探し出さなきゃならない。雑用に割ける人手はありません!」
実のところ、ベアの言う通りザカールでは最近金貸しが次々と姿を消している。とはいえおしなべてドンドの同類のような連中であり、人情としてまともにとりあおうという気は州衛士隊内部にも無かった。しかしこうやって消えた金貸しの一人が死体になって帰ってくれば本腰を入れて調査をせねばならないだろう。
とはいえ流石のベアも、この炎天下の中ひとりで荷車を引かせるような真似はイビリが過ぎたと思ったのだろう。辺りを見回し適当に使えそうな人員を探す。と、そこでひとりの小男に目をつけた。
「あっそうだ、ザーゲントさん、でしたっけ?ちょっとベルモンドさんのお手伝いお願いできませんかね。」
「えっ、僕ですか?」
男らしからぬか細い声で答えたこの男、フィル・ザーゲント。この春より急死した父親に代わり家督を継いで州衛士隊に入った、まだ
「面倒でしょうがこれも勉強だと思って、ね?」
「まあ別に、構いませんけど…」
「そうですか助かります!ではベルモンドさん、後はよろしくお願いしますね!」
そのベアの言葉を号令とするかのように、州衛士の皆々は足早に現場を去っていった。残されたのは、目立たない新入り州衛士と、
「んじゃ、参りましょうかザーゲントさん。」
「あ、はい…」
手際よくドンドの死体を荷台に乗せると、マシューたちは手押しの車で教会への道を歩み出す。現場となった港からは割と距離があるうえに、坂道も多い。照り付ける夏の日差しもあり、二人がかりでもかなり過酷な仕事であった。
「しっかし、災難ですねザーゲントさんも。」
「何がです?」
途中、沈黙に耐え兼ねたのかマシューはフィルに話しかけた。話す機会も稀で口数の少ない男とは知っていたが、少なくともどこぞのダークエルフとは違い打てば返事を返してくれる人間のようで内心ホッとする。
「いやね、私みたいなおミソの手伝い押し付けられたことですよ。隊長からの扱いがこんなんじゃ、出世は厳しいんじゃないかと思って。」
「なんだ、そんなことですか。別に構いませんよ、僕もそういうのに興味は無いので。」
マシューの自虐に対し、フィルは事も無げに答える。若いのにあまりがっついていないというのは州衛士隊の中では珍しい。そういえば、彼の早逝した父親もあまり出世に拘っていなかったな、とマシューは思い返す。
「それこそ最低限、日々の飯代だけ稼げれば充分ですよ。血相変えて頑張るような仕事じゃないと思ってますし。」
「へぇ~、若いのに随分と悟ってますねぇ。」
「悪いですか?」
「いやいや、むしろ好感ですよ。私も同じタイプなんで。でも齢の近い同僚にこういう考え方の人間が居ないんで肩身が狭くて狭くて。だからザーゲントさんみたいな人が仲間にいると思うと気が楽になりましてね。」
「ハハハ、一応、褒め言葉として受け取っておきますよ。」
教会へ向かう小高い丘に梃子摺りながら、死体を運ぶ二人はそんなことを話しながらすっかりと打ち解けていた。夏の太陽は丁度真南に昇る頃の様子である。
「いやァ、そんなわけでなかなかに見どころのある新入りだったぜ。」
「あまり関心できる傾向ではないと思いますけどね。」
州衛士マシュー・ベルモンドが右手を団扇代わりに扇ぎながら言う。ドンドの遺体を運び終え、フィルを一人で帰らせたあと、この州衛士隊一番の怠け者はそのまま教会に
「しかしですがベルモンドさん、査定のほうは大丈夫なのですかね?こうも不真面目だとその最低限の稼ぎにも影響が出るでしょうに。」
「そこなんだよなァ。俺もメイド二人食わせてかにゃならない身、先立つモンだきゃどうにかしなきゃとは思うんだが…なあ神父様よ、なんか『景気の悪い話』は無ェか?」
彼の言う「景気の悪い話」とは、もちろん裏の「仕事」のことである。決して人には言えぬ彼らの副業、バラツキはあるとはいえ実入りは悪くないのだが、他人の不幸で成り立つこの「仕事」を「景気がいい」と表現するのもいい気はしない。故にマシューはこのような言い方をするのだ。
しかし、臨時の収入をあてにしたマシューの期待も空しく、神父はただ首を横に振るだけであった。
「かァ~、どうしたもんかねェ。もうかれこれ一年半くらい『仕事』入ってねェんじゃねえか?」
「たかだか半年ちょっとですよ…そこまで間が空いてはいませんって。」
年明け前のスパーラ州での「仕事」を最後に、しばらくWORKMANへの依頼は訪れていない。その最後の仕事も実質赤字覚悟で受けたようなものだったので、金欠もかなり切実なものとなっていた。
しかし金を貰って人の恨みを晴らす稼業が儲かるということは、裏を返せばそれだけ世に恨みが溢れているこのとの証左だ。逆に流行らぬのならそれに越したことは無いというものまた事実。マシューも神父も、困惑の中に少しの安堵を覚え頬をわずかに緩ませた。
「まあ確かに、便りが無いのは元気な証拠とも言いますしね…」
「残念じゃが、そういうわけでもないらしいぞ。」
ふと、古風な喋り方に似合わぬ幼げな声が割り込んで来た。戸を開けて入ってきたのは魔族の末裔カーヤ・ヴェステンブルフト、幼子のような容姿ながら下町で何でも屋を営み、そしてマシューたちと同じ副業に組する少女である。
「悪いが立ち聞きさせてもらったぞ。儂もちょうどそのことで話があっての。」
「確かに聞こえの良さそうな耳してやがるからなァ。で、何だその話ってのは?」
「うむ、儂らの『仕事』が来なくなったことに関して、街中で妙な噂を耳にしてな。とはいえ表立って話せるようなことでも無い。だから夜中に全員でまた集まるよう神父に頼みに来たところじゃ。お前さんに伝える手間は省けたようじゃがの。」
カーヤはよく聞こえそうな大きな狐耳をぴんと立て、周囲を警戒しながら神妙な面持ちで二人に言付けをする。最早この「仕事」に足を踏み入れた頃のような軽率さは感じられない。言うだけ言って足早に去っていく彼女の後姿に、神父は頼もしたと同時に申し訳なさを感じるのだった。
「同業者だぁ!?」
そしてその夜、教会の地下霊安室にWORKMAN全員が集められ、カーヤの口からその噂の内容が語られた。最近「仕事」が来ないまさかの理由に、ギリィ・ジョーは驚きの声を上げた。
「うむ、この街で金を貰い恨みを晴らす裏稼業を行う連中がおると、そんな話を人づてに聞いたんじゃ。無論、儂らの事で無くな。正式に名を名乗ってはおらぬが、人々からは『討たせ屋』と呼ばれておるようじゃ。」
この街に住んで一年ちょっとだが、何でも屋という表の職業と人懐っこく世話焼きな性格が幸いしてか、カーヤは街の人々ともすっかり打ち解けた。それ故に何かと世間話が入ってくることも多く、今ではかなりの情報通と言える存在である。これは、どちらかと言えば人付き合いが下手な他のWORKMANメンバーには無い強みだ。
「成程、競合相手に客を全部取られちまったってことか。そいつァ何とも世知辛ェ話だな。」
「………でも、皆が皆そちらを選ぶってのも不思議。」
リュキアの疑問も尤もである。殺し屋と並べて喩えるには微妙だが、大通りに青果店が二件あったとして全ての近隣住人が片方のみを利用するだろうか。仮にそうなるならば何かしらかの差別要素がある、と考えるのが自然だ。そしてそれは、確かに存在していた。
「儂もおかしいとは思ってそれとなく情報を集めていたのだがな、どうやら連中は頼み人の手で的を始末させるらしいんじゃ。」
「………頼み人の手で?」
「うむ、的を拘束し頼み人の前に差し出し、どうぞ煮るなり焼くなりご自由に、とそこから先を委ねるシステムじゃそうだ。」
その説明を聞き、マシューの頭に真っ先に思い浮かんだのは今朝のドンドの惨殺死体であった。思い返せばおかしな話だ。それまで金貸しにいいようにされるがままの債務者が一転、攻勢に出て金貸しを拘束、拷問にかけるというのも不自然この上ないこと。
しかし、裏でその「討たせ屋」とやらが画図を描いていたと思えば合点がいく。的を拉致し、人知れぬ場所に監禁し、拷問道具と共に頼み人に引き渡す。なるほどプロフェッショナルの手際あってこそだ。
加えてベアの言っていた連続金貸し失踪事件。これらを全て「討たせ屋」の標的になったと仮定すれば、今回のドンドはたまさかに死体が引っ掛かっただけであり、プロらしく完全な隠匿により失踪として処理されてきたということなのだろう。
「だとすりゃあ相当な数の依頼を
「なるほど、やはり世に恨みの種は尽きまじ、ということだったのですね…」
マシューがそれら表仕事の情報を吐き出すと、神父は少し悲しそうに呟いた。結局世の中に変わりは無く、他者を殺傷に至らしめたいと思うほどの恨みはまだこの街にも溢れている。ただ、依頼の対象が自分たちWORKMANからその「討たせ屋」に変わっただけの事なのだ。なんだかんだで、かつての理想に燃えた自分を捨てきれぬ神父には少し残念な知らせだった。あるいは、マシューやリュキア、ギリィも大なり小なりそのような感情に襲われているのかもしれない。
しかし、そのようなセンチメンタルだけでは納得できぬ者がひとりいた。
「して神父よ、儂らもどうしたものかの?」
「…と、言いますと?カーヤさん。」
「何を寝ぼけておる。奪われた客を取り戻す算段に決まっておろう。」
そう心境に語るカーヤの面持ちとは真逆に、周囲の表情は冷ややかだった。
「いや、客を取り戻す算段と言われましても…」
「悠長なことを言っておる場合ではないぞ!競合相手が新しいサービスを打ち出したのならこちらも新規を開拓するべく新しい路線を打って出る!これが輝世暦の自由な競争社会というものではないか!?」
「どこでそんな言葉憶えてきやがったこのバカ。」
ギリィが心底呆れ返りながら呟く。しかし彼女がここまで必死になる理由もわかる。公務員、国教の僕、気鋭の飾り職、これらに比べカーヤの表仕事である何でも屋では実入りが安定しない。日々をつつがなく暮らすにあたって、裏の「仕事」の収入が占める比重は他のメンバーよりも重いのだ。そりゃ必死にもなろう。とはいえ、昼間にはこの「仕事」に馴染んだカーヤに申し訳無さを覚えた神父も、このいり込みようを目の当たりにしては別の意味でこの「仕事」に引き込んだことを後悔するところだろう。
そんなリーダーの心境など知る由もなく、カーヤは熱弁を続けていた。
「まあ差別化など一朝一夕で思い浮かぶものでもないし第一失敗した時のリスクも高い。ここは安直だが連中と同じサービスを始めるというのはどうじゃろう?なあに、『討たせ屋』とやらがいかほどのものかは知らんが、儂らも幾多の困難な『仕事』を乗り越えた手練れ、決して後れを取ることは―――」
「………で、仮にそれを始めたとして、どうやって人に伝えるの?」
リュキアの切れ味鋭いツッコミに、カーヤの早口のご高説がぴたりと止まった。夏場でもひんやりとした霊安室に、更なる寒気が差し込む。
「まあリュキアの言う通りだな。俺達の稼業は人に言えないどころか半ば都市伝説見ねえなモンだ。仮に変わったとして宣伝のしようが無えわな。」
「いや、それはその、アレじゃ…口コミ?」
「人の
「ううう…」
思い付きの子供の浅知恵に、容赦なく大人たちのダメ出しが突き刺さった。画的にはかわいそうなことこの上ないが、実年齢はこの娘こそ最年長だったりする。いよいよ追い詰められた高齢の魔族の少女は、唯一言い返してこなかった男に助け舟を求めた。
「お、おいマシューよ!お前はどうなんじゃ!?昼間も先立つモノが欲しいと言っておったじゃろうに!」
「―――」
「フィアナとフィアラを食わせていくには、この『仕事』にも抜本的な改革が必要、そう思わんか!?」
「―――
「なんなら表の仕事で奴らをしょっぴくといくのも手じゃぞ!商売敵も消えておぬしも特別賞与でウハウハ!どうじゃ?それなら儂も手伝うぞ!」
「―――ああ、悪ィ。聞いてなかった。」
マシューの沈黙は、賛成でも保留でもなく、ただの無関心であった。このあまりにもあまりな返答にカーヤはずっこけ、いじけ虫と化した。
しかしだ、カーヤの言うような改革は論外にしても、「討たせ屋」の登場によりWORKMANが存続の危機に瀕しているというのは無視できぬ問題の筈だ。それを差し置いて
「どうしましたベルモンドさん、何か考え事でも?」
「いや、その『討たせ屋』って奴らのことでよォ…連中は頼み人に的引き渡して殺らせるっつーんだろ―――
―――それって、裏稼業としてやっていけんのかね?と思ってよ。」
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