近場は楽だがペケを引く
扇町みつる
第1話
佳世子、覚えてる?そう、高校生の時に参加したミリタリーコスプレサークルやってたしてたあの人!SNSで再会して友達登録して、しばらくそれっきりだったんだけどさ、久しぶりに行った基地祭でバッタリ会ったのよ。
それでね、十年…じゃきかないか、二十年ぶりくらいにお茶飲んだ訳ね。頭がすっかりツルツルになっていたけど、相変わらずイベントで軍服着てるって。
あの時は、私達が高校生であの人はもう二十代半ばくらいだったっけ。だから今は四十代半ばか。まあ、時の流れは早くて残酷よね。
でね、そうそう、相変わらずのコレクションっぷりよ。今は勲章集めて旧軍の軍装してるんだって。
その日は九段の神社にお参りして、展示物を見てきたのね。オタクだけあってそこでの解説はまあまあ分かりやすかったのよ。その後、どこかでお食事をってなってさ、スマホで調べ始めたの。何かと思ったらポイントのつくファミレスを検索してたのね。
一番近くてひと駅近く距離があったんだけどさ、他の店には目もくれず歩いてったの。疲れたよ。
で、そこで延々と軍服と勲章と変なアレンジのコスプレ話よ。数時間続いたわ。私は仕事は何してんのとか聞きたかったんだけどね、私がどうにか割って入って聞いてもスルーよ。信じられる?
それでお世辞にも美味しいとは言えない料理を食べながら延々延々勲章と軍服と特撮話。
そうこうしてる内に日が暮れて外はもう暗くなっちゃったの。なもんでお開きって事になったのよ。そしたらさ、スマホの電卓でお勘定の計算を始めたの。一円単位まできっちりとね。それはまだいい。その次よ。
私が払う金額を私から徴収しました、そしたらクレジットカードになってるポイントカードを出したのよ。ちょっと引いたわ。
それでもその場は言うとおりにお金も出したし何も言わなかったけどさ、問題はお店出てからよ。
駅に向かう途中、何組かカップルとすれ違ったのね。そしたら何て言ったと思う?
リア充爆発しろ!
だって。さすがの私もキレたよ。
そんなんじゃ一生リア充になんかなれるか!このポイントケチ!
ってさ…。
「言っちゃったんだ」
「そうよーだってさー、あまりにも腹が立ったんだもん」
「まあ、分からなくもないけどね…」
私の話を聞いてくれた佳世子は頷いた。
「美味しくもないファミレスで延々と自分語り聞かされてさ、割り勘の挙句にポイントせしめるなんて呆れるわ腹立つわで殴りたかったよー」
「私もポイントカード持ってるのよって言えばよかったじゃん」
「そういうのじゃないのよー、下二桁くらい切り捨てて、この金額でいいよって男女関係なくそうならない?そしたらこちらは、それじゃ悪いならポイントつけてってなるのよー。女同士で食事したってそうだよ。男だからじゃないのよ」
「そういうのってさ、オタク同士の付き合いしかして来なかったからなんじゃない?」
佳世子は冷めかけたフライドポテトをつまみ上げながら呟く。
「確かに、イベント帰りに大人数でファミレス行った時そんなんだったけど…、そこの常識そのまま持ち込む?普通。いくつよあの人」
「変わってないんじゃない?二十年以上経ってもさ」
「うわぁ〜最悪だわ…。時間無駄にしたわー」
「また新しい出会い探しなよ」
「もうなんだか疲れたわー。あのハゲのせいで」
「あ、そろそろ保育園お迎えの時間だから、またね」
「またね、佳世子」
二人は支度をして席を立つ。
「あ、ここは私が払うよ。あのハゲオヤジのようには、なりたくないの」
佳世子はクスリと笑い、
「じゃあ、ポイントはつけなよ」
二人は笑い合った。
近場は楽だがペケを引く 扇町みつる @xxlacrimosaxx
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