第270話 ジャージ戦隊★キントレン

【第一話】


〈シーン1 食堂、お昼頃〉


 高タンパク低カロリーが売りのお肉のプレート定食を美味しそうに頬張る、食いしん坊イエロー・かおるちゃん(以下、黄)。向かいの席に眠たそうな顔の美マニアピンク・ピエロさん(以下、桃)が座る。



黄「おう、ピンク。おそようさん」


桃「イエロー、朝っぱらからよくそんな重たいの食べれるよー……」


黄「何言ってるんだよ、もう昼だぜ。ていうか、お前、青汁一杯だけとか、腹に溜まらないだろう。そんなの、筋肉も悲しむぜ」


桃「いやだなあ、イエロー。これはスムージーだよ? 最先端ヤングにして美マニアなら、抑えておくべき飲み物だよ!」


黄「本当に〈最先端ヤングで美マニア〉なら、〈アサイーボウル食いながらシード系ドリンク〉をチョイスすると思うんだがな」



〈シーン2 同・食堂入り口〉


 鬼軍曹・ケイティー(以下、軍曹)が険しい顔つきで来店する。



軍曹「二人とも、ここにいたのか。緊急事態だ。今すぐ来るように」



 食べ物を残したまま、軍曹と共に慌てて出ていく黄と桃。食堂を経営する”みんなのお母さん”・マッコイさん(以下、母)が心配顔で三人を見送る。



〈シーン3 ヒーロー達の作戦会議室(という名の、筋トレルーム)〉



 筋トレルームの隅には大きなキャットタワー。その最上部は小さな小屋となっており、そこから顔を覗かせてぐっすりグリーン・にゃんこ(以下、緑)が昼寝をしている。

 大画面モニターを背にして軍曹が腕を組んで立つ。彼女と向かい合うように、桃、黄とプルプルブルー・もふ殿(以下、青)が並ぶ。



軍曹「みんな、揃ったか」


黄「グリーンが起きてこないが、いいのか?」


青「起こしたのだがの、起きてくれぬのじゃ」


軍曹「というわけだから、諦めて放ってある。……とにかく今は、こちらに集中して欲しい」



〈シーン4 モニター映像〉


 番組アナウンサー(広報部ニュース担当)、速報原稿を受け取る。



アナ「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです。先ほど御狐町の上空に現れた黒い球状の物体に動きがありました。現場からの中継です。五歩ごぶさん?」



 現場映像に切り替わる。不自然に揺れる映像。周囲からは悲鳴と爆発音。黒い球体からは続々とロボット兵が排出されている。現場アナの五歩さん(受付のゴブリン嬢)はマイクを手に何かを伝えようとするも、一言も発することができぬままロボット兵に取り押さえられ、映像はそこで途切れる。



〈シーン5 作戦会議室〉


 モニターでは今もなお、ニュース番組のアナウンサーが情報を流し続けている。キントレンたちは映像を愕然とした顔で見つめる。青は人一倍ぷるぷると震えて泣きそうになっている。



黄「御狐町といったら、ブルー、お前んのある町じゃあないか! おうちの人に連絡してみたか!?」


青「うむ……。しかしの、電話してみても繋がらないのじゃ……。とても不安なのじゃ……」


桃「これは、あちしたちに出動要請、来ちゃう? 来ちゃう!?」


軍曹「うむ。まさに先ほど、本部より連絡があった。ジャージ戦隊キントレンよ、毎日の筋トレの成果を披露するときが来たぞ! ――キントレン、出動せよ!」


黄・青「おう!」


桃「合点承知の助だよー!」



〈シーン6 御狐町〉


 破壊活動を行うロボット兵達。そこに、小さな四人の影。



青(声のみ)「わらわの町に、何をするのじゃ!」


緑(声のみ)「お前らのせいで、叩き起こされたのね! 覚悟するのね!」


青・緑・黄・桃「トウッ!」



 動きを止め、振り返るロボット兵。ジャージ姿のキントレン四人が太陽を背にジャンプする。地面に着地するキントレン達。彼女達の頭上に黒い球体が姿を表し、そこに悪の科学者ビット(以下、科学者)の顔が映し出される。



科学者「待っていたぞ、キントレンよ。私は、プロフェッサー・ビット。人間どもを機械の体に改造し、筋トレの要らぬ世界を創るべく降臨した。筋トレなどしなくとも美容も健康も保てるだなんて、とても魅力的であろう?」


桃「やだ、ちょっと魅力的ぃ……。これでもう、あちしもエンドレス人体錬成から解放されるってこと……?」


黄「ピンク、惑わされるんじゃあない。筋トレの必要がないということは、逆を言えばそれ以上高みを目指せないということだぜ」


緑「たくさん動いて、たくさん食べるからこそ、気持ちよく眠れるのね! 機械の体じゃあ、そうはいかないのね!」


青「そういうことだからの、お主の悪だくみは阻止させてもらうのじゃ! わらわの町のみなを返すのじゃ!」


科学者「返してほしくば、力づくでかかって来るがいい。――ゆけッ! オーガニックキマイラ・クレマンドラレム!」



 黒い球体から科学者の顔が消える。それと同時に、ドオンと音を立てて〈頭部に喋るマンドラゴラが突き刺さったクレイゴーレム〉が降り立つ。キントレンたちはロボット兵をなぎ倒し、クレマンドラレムに挑みかかるも呆気なくやられてしまう。

 黄は派手に転んで今にも泣きそうにぷるぷると震える青を起こしてやりながら、悔しそうに歯ぎしりをする。



黄「一時撤退するぞ!」



 悔しそうに、クレマンドラレムに背を向けて這々の体で逃げ帰るキントレンたち。



〈シーン7 作戦会議室〉


 手当の済んだキントレンたちが俯いてしょんぼりとしている。緑はキャットタワーで熟睡している。



黄「俺の筋肉が重たい系ではなく、もう少ししなやか系だったらもっと形勢も変わっていただろうに……」


桃「イエローの体のどこに、重たい筋肉があるっていうのさ」


黄「俺、ガタイ的にも重たい系になりがちなんだよ。でも、個人的には軍曹や食堂のマコママみたいな靭やか系が好みでさ。二人の筋肉はもう本当に、いつでもいつまでも撫で回していたいくらいに素晴らしくて――」


桃「いやいや、だから。イエローのどこに筋肉があるっていうのさ」


黄「これは、もう一度、鍛え直したほうがいいんだろうか」


青「町を取り戻すためにも、もう一度〈たいいくのおじかん〉でおさらいしたほうがいいかのう?」


軍曹「お前ら、体どころか心も弱々しくしぼんでたるんでしまったの? お望みとあらば、鍛えなおしてやろうじゃあないか」


青「でも、間に合うのじゃろうか……」


桃「あのポンコツ金ピカ、あちしらが撤退する時に猶予は三日って言ってたんだよ!」


軍曹「お前ら、私を誰だと思っている。今のままのお前らでは、ダンジョン内で斧をひたすらに振りまくる脳筋戦士になるのが関の山だろう。だが、私にかかれば、お前らを戦士なのに盾役もこなせるオールラウンダーにまで育て上げることなど造作もない」


黄「そうか……! 筋育はサイエンスの時代! バランスと効率で、たった三日という短期間でも……!」


桃・青「たった三日でも?」


軍曹「結果にコミットだ!」



〈シーン8 筋トレを行うキントレンと軍曹〉


 一生懸命に、様々な筋トレやランニングを行うキントレンたちのカット。合間に、トレーニングをサボって軍曹に怒られる緑。それを見て笑う他の三人。みんなで仲良くお風呂に入ったり、食堂で美味しい食事をもりもりと食べたり、五人で仲良く眠る風景も。



〈シーン9 御狐町・黒い球体の直下〉


 人気のない町。黒い球体の下半分は檻となっており、町民達が肩を寄せ合い怯えている。

 上半分に科学者の顔が映し出される。



科学者「来たな、キントレンたちよ。怖気づいて、姿を現さぬと思っていたぞ」



 四人、並んで立つキントレンたち。ぷるぷると震える青の肩に、黄が手をポンと置く。



黄「大丈夫だ、ブルー。修行の成果、見せてやろうぜ」


青「う、うむ……!」



 キントレンたちに差し向けられるロボット兵の群れ。それらをバッタバッタとなぎ倒し、ポーズをキメて名乗りを上げる。



青「怯えてぷるぷる、緊張してぷるぷる! でも、やるときはやるのじゃ! プルプルブルー!」


緑「とっとと解決して、ぐっすり眠るのね! おさぼり大好き、ぐっすりグリーン!」


桃「美容のためなら、どこまでも! 永遠の美少女、美マニアピンク!」


黄「エンゲル係数、気にしない! カロリーオーバー? 気にしない! 筋トレで調整、食いしん坊イエロー!」


青「四人揃って!」


青・緑・黄・桃「ジャージ戦隊キントレン!」


黄「今日もひと汗、レッツ・パンプアップ!」


科学者「ゆけッ! オーガニックキマイラ・クレマンドラレム!」



 鬨の声を上げて、ロボット兵を従えるクレマンドラレムに突っ込んでいくキントレンたち。修行の成果もあり、見事クレマンドラレムを倒す。



科学者「ふふふふふふ、これで終わったと思うなよ。――再構築リアセンブリーッ!」



 巨大化するクレマンドラレムを目の前にして驚くキントレンたち。すると、背後からも地響きを伴って何かがやって来る。振り返り、黒光りする兵士風の巨大ロボを見て勝ち誇った笑みを浮かべるキントレンたち。



緑「グレートソルジャーなのね!」


青「あれで一気に、片付けるのじゃ!」


青・緑・黄・桃「トゥッ!」



〈シーン11 巨大ロボ・グレートソルジャー内〉


 各々の席に座って操作を始めるキントレンたち。クレマンドラレムの攻撃を受け、激しい揺れに悲鳴を上げる。黄は苦い顔を浮かべて揺れに堪えながら、目の前のボタンに拳を叩きつける。



黄「マッスルバンドチェーン!」



〈シーン12 どこぞの採石場〉


 クレマンドラレムと対峙するグレートソルジャー。脚部の収納からストレッチ運動などに用いるようなゴムバンドが飛び出す。持ち手の部分に重しがついており、グレートソルジャーはそれをフレイルのように振り回す。チェーンでの攻撃を受け、クレマンドラレムはよろける。



〈シーン13 巨大ロボ・グレートソルジャー内〉


青「今なのじゃ!」


緑「必殺!」


黄・桃「マキシマムマッスルラブボンバー!」



 四人揃って、胸の前でクロスさせてポーズをとる。そして、その腕をV字に伸ばす。



〈シーン14 どこぞの採石場〉


 光るグレートソルジャー。バンザイをした状態でクレマンドラレムへと突っ込んでいき、まるでクレマンドラレムをハグをするかのような動きをする。ハグをされたクレマンドラレムはその力強いハグに耐えきれず、爆発四散する。爆煙から滑るように、胸の前で手をクロスさせ片膝をついたような状態で颯爽と現れるグレートソルジャー。



〈シーン15 巨大ロボ・グレートソルジャー内〉


 勝利したことに、その場で飛んだり跳ねたりしながら喜ぶキントレンたち。



青・緑・黄・桃「うおおおおおお、ビクトリーッ!」



〈シーン16 食堂〉



 二人ずつ、青と黄・緑と桃が向かい合うように座っている。そこに、母が料理を運んでくる。



母「はい、みんな、お疲れ様。マコママ特製、ビーフオムハヤシよ」


青「ふおおおおおお! すごいのじゃ! くまさんが卵のお布団に入っているのじゃ!」


軍曹「みんな、よく頑張ったな。今日は私のおごりだ」


緑「追加注文してもいいのね!?」


軍曹「もちろん!」


黄「じゃあ、俺、デザートにスペシャルパフェ頼もう!」


桃「あちしも今日は、美意識低めで、好きなものを好きなだけ食べちゃおー!」



 幸せそうにがっつくキントレンたち。可愛らしい四人にメロメロの軍曹。



緑「ああああ、美味しいのね~!」


青「家の者も無事に助かって、わらわの町も元通りでホッと一安心なのじゃ!」


黄「本当に良かったよな。じゃあ、余計に美味いと感じるだろ」


青「うむ!」


桃「それにしてもさあ、あのポンコツ金ピカ、これで諦めてくれたかなあ?」


緑「もう、お昼寝の邪魔をされるのは勘弁なのね。もしまた現れて邪魔してくれたら、ギッタギッタなのね!」



〈シーン17 悪の組織〉


 暗がりで目をピカピカと光らせる科学者。



科学者「あれは前哨戦に過ぎぬ。キントレンよ、これで勝ったと思うなよ。ふふふふふふ……ふははははは!」




【第一話 完】




   **********




「ていうか、台本通りに進んだのって、一話だけだったな」



 完成前の関係者内試写を眺めながら、死神ちゃんはため息をついた。というのも、三話で完結だというにも関わらず、二話目からビット所長が悪ノリを始めかき乱しまくったのだ。



「三話のあそこで形態変化するって台本にもあったけどもさ、まさか三段階変形して面影もないくらいになるとはね……。レーザービーム砲が放たれてセットの一部が消失したときは、さすがにどうしようかと思ったよ」


「しかも、あの変形、レプリカを用意してとかではなくて、所長自ら体を張ったそうなのよ。戻すのが大変だって、部下の子たちが嘆いていたわよ」



 ケイティーとマッコイがそう言って呆れ返ると、後ろの席から「素晴らしかったであろう!?」とビット――しかも、頭部だけ。部下が膝の上に抱えている――が声をかけてきた。死神ちゃんたちは振り返って頬を引きつらせると、ビット(頭部だけ)をじっとりと見つめた。



「所長、体はどうしたんですか」


「うむ、元に戻すのに時間がかかってな。まだ調整中のため、頭部だけ馳せ参じたぞ。まさか夢の超合体・超変形を行える日が来るとは、思いもよらなかったな。ところで、小花おはな薫よ、約束通り巨大ロボに乗せてやったが。乗り心地はどうだったかな?」


「一人乗りだったらなお良かったですね。やっぱり、一人乗りロボに乗ってメインカメラがやられた云々言ってこそだと思うんですよ。おとこのロマンってやつは」


「うむ、心得ておるぞ。今回のこの全三話は、いわゆるパイロット版というやつだそうだからな。来月放送の視聴率が良ければシリーズとして作っていく予定があるそうなので、そのときには一人乗りロボットを出そうではないか。そしてそれらがこう、少しばかりダサい感じで合体して一体の巨大ロボになるのだ。これもお約束であろう!?」



 死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、それとなく相槌を打った。ビットのさらに後ろではにゃんことピエロが〈自分のキャラクター設定に異議がある〉と広報部の面々に文句を並べ立てていた。確かにあれはひどかったよなと死神ちゃんが思っていると、側にいた天狐がもりもりとポップコーンを食べながらあっけらかんと言った。



「たしかの、〈あてがき〉という方法で書いたと聞いたのじゃ」


「まあ、そうだろうな。出演者のほうが先に決まっていたわけだしな」


「それでの、わらわがセリフで困らぬように、普段通りの感じで書いてくれたらしいのじゃ。ありがたいのう」


「はあ!? 俺は断じてあんなに〈筋肉しか見てない〉って感じじゃあないし、食べてばかりでもないぜ! しかも、あんなボケキャラみたいなさあ。俺、どっちかっていうとツッコミのほうだし!」



 死神ちゃんが盛大に顔をしかめると、マッコイとケイティーが「いつもあんなもんだ」というようなことを口を揃えて言った。死神ちゃんは愕然とすると、にゃんことピエロの抗議に加わるべく、勢い良く席を立ったのだった。





 ――――天狐の城下町などに多く住まう〈社員の子供たち〉向けの、夏休み特別企画番組なのDEATH。

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