社会科見学

 2学期に入り2週間ほど経ち、ようやく夏休みボケが抜けてきた頃。

 3時間目が終わった後の中途半端な時間に6年生は校庭へと集まる。

 外には既に貸し切りの通勤バスが待機してあり、生徒達は次から次へと乗り込む。


 これから授業というか、どちらかというと遠足に近い『社会科見学』が行われる。向かう場所は近所にある『うどんの生産工場』だ。



 この片田舎にある工場は、以外と規模が大きく馬鹿にできないらしい。

 なにせ関東有数のうどんチェーン店での生産をこの場所で行っている。

 そしてうちの県は、うどん生産量が全国第2位ときている……

 だが、正直に言うとまったく実感はない。


 この場所が選ばれた理由は、おそらく近いからだろう。

 そして他に工場見学を行っているような場所が見当たらないという理由もある。


 通勤バスに乗る事、およそ15分目的地の工場へと到着した。


 バスから降りると、目の前に3階建の古いビルがある。

 その外観は市役所や公民館のように見え、あまり工場っぽくはない。

 しかし、工場販売をしているようで、おきまりのうどん店のロゴがあるのでココで間違いはないらしい。

 我々は二列に整列をして、ビルの中へと入る。


 中には白い食品用の作業着で身を包んだ社員の方が出迎えてくれた。


 まずは大きなプロジェクターのある部屋に通され、動画を見せられる。興味津々で画面を見入る子供達。

 しかし流れてくる映像は、企業理念や衛生管理をうたった映像ばかりで、映画のような派手な映像を期待していた子供達は大いにガッカリしたようだ。



 動画が終わると、いよいよ工場内へと案内される。

 といっても、見学通路から工場の様子を眺めるだけなのだが、いつも見慣れぬ光景に子供達は食いつく。


 大きなガラス越しに見れる工場内は、人の姿は少なく、大きな機械がひしめいていた。

 粉を練ったり、打ち付けたり、伸ばしたりと、それぞれは単調な動きをくり返しているが、次から次へと行程によりマシーンが素材を受け渡し、流れるようにこなしていく様子は大人が見ても面白い。


 特に男子は食い入る様に見ている。先日の消防車といい今日の工場見学といい、男の子はどうもメカっぽいものであれば何でもいいらしい。私も先日の消防車などは格好いいとは思うが、さすがにうどんを吐き出す機会に憧れを抱くのはいかがなものかと思う。



 そしてゆっくりとした見学が終り、この手の工場見学には付きものの、試食の時間となった。


 しかしココのうどんは、お世辞にもあまり『美味しい』と言えるものではない。

 もちろん食べられないほどマズい訳ではないが、この店の最大の売りは値段と量であり、味は二の次三の次あたりの代物であった。コシの全くない麺は給食と大差はない。


 出された出来上がったばかりの麺を食べてみると…… なんとかなりうまかった。

 ハリとコシがあり、いつも店で出されている少しのびたような麺とは大きく違っている。


 他の生徒達も「うまい」「おいしい」と口に頬張っている。


 聞くところによると、店では時間を短縮する為に、一度下ゆでした物を茹で直して出しているらしい。

一手間を惜しむだけで、こうも食感が変わるとは……

 これは時間に余裕のある人には、こっちの麺をだした方が良いだろう。なんとも勿体ない。

 能ある鷹は爪を隠すという言葉があるが、出し惜しみをする様な事はしない方がよさそうだ。


 ひととおり、食事が終わると、お土産のうどんをもらい帰路に着く。

 クラスメイと達は腹と好奇心を満たされ、とても満足そうだ。



 さて、自宅に戻り、さっそくその夜はうどんとなる。

 もらった物も美味かったのだが、続いて出されると飽きてしまう。


 噂に聞くところによると、うどん生産量が第1位のあの県は毎日のように食べているという。

 全く信じられなかったが、ずいぶんと前に私が四国へ出張に行った際にその事を地元の職人さんに聞いたところ、まんざら嘘でもないらしい週に3~4回くらいは食べているようだ。さすがに同じものでは飽きると思うのだが……

 実際に見学をした工場ではうどんだけではなく、そばやラーメンも作っていた。


 うちの県は生産量が第2位らしいが、あの県を越えることは無理そうだ。

 仮に越えようとするならば、毎食うどんだけになってしまう。それだけは勘弁かんべん願いたい。

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