社会の授業 2
今日は社会の歴史の授業でクライマックスともいえる部分が始まる。
もっとも面白い時代、安土桃山時代について、
「はい、では教科書の137ページを開いて下さい、それでは行きますよ」
今日の美和子先生もいつになく気合いが入っているように見えた。
教科書を開くと、織田信長を筆頭に家臣が、羽柴秀吉、柴田勝家、前田利家、明智光秀。
戦国大名には、武田信玄、上杉謙信、徳川家康、真田信繁(幸村)、伊達政宗、島津貴久、毛利元就、石田三成など、
この時代については、丸々一年を費やしても授業の内容が尽きることはないだろう。
戦国大名や武将の逸話を入れると、3年以上かかるかもしれない。そのくらい濃厚な時代だ。
現に某国営放送で作られている犬河ドラマでは、大名や武将について深く掘り下げて、一人あたり一年を費やしている。
この教科書にでてくるメンツだけでも少なくとも10年分は作れそうだ。
しかし教科書はせせこましい。この時代を7ページに収めている。
美和子先生の解説が始まる。やはりいつもより熱が入っている。
一方、子供達は退屈そうに話を聞いている。もったいないと言わざるおえない。
この時代を過ぎると次に面白い時代がくるのは、およそ300年も後の幕末で、それまでは退屈な時を過ごさねばならないというのに。
冷ややかな反応の生徒達の中から手が上がる。それは何かと授業を不必要だと難癖を付けてくるそうすけくんだった。
「はい、なんでしょう、そうすけくん」
美和子先生はこの子の発言をゆるしてしまう。
「この人達、全員おぼえないといけませんか?」
言われれば登場人物が多い。それまでの歴史の授業ではせいぜい多くても5人ぐらいで物事を動かしているのだが、この戦国時代は一気に増える。
確かにたいして興味もないのに、この人数を覚えるのは酷かもしれない。
本来なら一人一人の逸話でも語っていけば、興味をもって覚えやすく楽しいのだろうが、そんな事をしていたらとても時間は足りないだろう。
ここでいつもの展開となった。
「大人になったら、この人達でてこないでしょ、おっさんに聞いてみようぜ」
馬鹿な質問をする。浅はかとしか言いようがない。
私はひときわ大きな声で答える。
「歴史ドラマなどで、毎年のように出てきますよ、むしろ出ていない事の方がすくないです」
しかし、思わぬ答えがそうすけくんから返ってきた。
「そんなに出てたっけ?」
慌てて聞き返す。
「君たちは犬河ドラマとか見ないの?」
「見ない~」「見ないよ」
そんな返事が帰ってくる。
なんという事だ、あのドラマを見ないというのは受信料をドブに捨てるようなものだ。
「数年前にやっていた真田九とか面白いよ」
私がそう言うと思わぬところから賛同の意見があがる。
「『決まっておるだろう。真田九よ!』と言ってオープニングに突入した時は震えがきましたね」
それは美和子先生からだった。思わぬ援軍に私も応えざるおえない。
「私も、鳥肌がたちました」
「その後の展開も凄かったですよね」
「あれは大作でしたね、はじめは舞台の監督ですこしコミカルな部分があって、心配しましたが」
「ええ、最後はキッチリと締めてくれましたね」
「俳優もよかったです」
「そうですね、初めはすこし違和感がありましたが、終わってみればとても素敵なキャスティングでしたね」
「やはり犬河ドラマはこうでないと……」
気がつくと、大人二人だけで意気投合して盛り上がってしまっていて、周りは水を打ったように静かだった。
完全に置いてけぼりにしてしまっている。これはよくない、必死に突破口を探す。
「ほら、織田信長なんかはよく他の小説やマンガやアニメやゲームに出てくるでしょ? この時代は面白いよ」
この必死の弁解がいけなかった。なかでも『ゲーム』この一言は致命傷だった。
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