アラフォーの手習い 2
火曜の放課後、今日は初めてのピアノ教室へと向かう。
しかし厳密に言うならば私はこの教室で学ぶのは初めてではない。小学校と中学校でもここにかよっていたのだが、中学卒業以来はまったく鍵盤に触れていなかった。実に22年ぶりのピアノ教室となる。
これだけ時間が空いているとすっかりと忘れていて、またゼロから学び直さねばならない。
商店街を通り抜ける。外の街路樹の葉はすっかりと落ちていて、その様子からは秋なのか冬なのかはうかがい知る事はできない。
日が落ちて気温が一気に下がる。しかし私の手はすこし緊張していて汗ばんでいた。
すこし昔の事を思い出したからだ。
当時、小学生だった私はこのピアノ教室というモノにあまり良い印象を抱いていなかった。楽しい思い出よりも、辛かった思いでしか出てこない。
それというのはおそらくピアノの先生のせいだろう。
ここのピアノの先生は歳は50前後だっただろうか。けっこう年配の方でそれはそれは厳しい方だった。
記憶をたどってみても褒められた記憶は片手で数えるほどしかなく、ほどんと怒っている印象しかない。
しかも授業中は、はえたたきの様な棒を持って立っており、間違えるとぴしゃりと手を叩かれる。まあ、そんなに痛くはないのだが、当時はこれが嫌で嫌で仕方が無かった。
昔だったら許されていたが、もし今そのような事をしたら体罰として訴えられそうだ。
あの厳しい先生は、どうなっただろう? あれから20年以上も立っているので今は70歳前後だろう、お元気なのだろうか?
昔の事を思い出しながら、ピアノ教室のガラスのドアに手をかけ薄暗い室内へと入る。
すると待合室には主婦の方が3名ほどおられた。
「はじめまして、あなたもここで授業をうけるの?」
主婦の方から声を掛けられる。
「ええ、小学校で使うような簡単な楽曲を弾けるようになれればいいな、と思いまして」
「教師の方ですか?」
「いいえ、お手伝いとしてですね」
「そうですか、お互いに頑張りましょうね」
「ええ、お願いします」
私が小学生という事はあまりおおっぴらには言いたくない。適当にはぐらかして答えた。
ピアノの教室というのは複数の人数で行う。
よくドラマなどではワンツーマンで教えているシーンなどがあるが、あれは間違いだ。
いや、まったくの間違いではないのだが、個人レッスンというのはとんでもなく高い。
ここでの月謝は週2回のコースで月に計8回、一回の授業は1時間程度で料金は16000円だが、個人レッスンとなるとこの値段で一回しか受けれない。
もっともドラマで出てくるような人物は、お金持ちが多いので間違っていないのかもしれないが、一般庶民だと数人まとめて受ける事が普通だと言える。
少し主婦の方と会話をする。
私が少々口下手だと気がついたらしく、その後はほったらかし気味になった。私もその方が楽でたすかる。
会話を聞いていると内容はめまぐるしく変わっていくのだが、そのほとんどは分からなかった。
まず、出てくる登場人物が理解不能で、ゴシップニュースにうとい私はその名前が芸能人なのか、地元の人のなのか判断がつかない。話を注意深く聞いていると、最後の方でようやく芸能人なのか身内なのか判断できたが、分かった頃にはまた別の話題に移っている。
会話は途切れることなく続いた。主婦の方々はピアノの上達という事よりも、この時間が楽しみでここに来ているのかもしれない。
ほどなくして教室のドアが開く。授業の始まる時間が来た。
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