第104話 『田園交響曲』 ベートーヴェン

 あいかわらず寝られなくて、明け方に規定量の倍、睡眠導入剤を服用して、やっとこさ寝たのは良かった(よくないだろ!)けれど、もうお昼です。


 これじゃ、会社とかには、そもそも行けないな。

 

 とはいえ、ぼくの目の前には、べー先生の『交響曲第6番』の中版スコアが広がっております。40年以上前に、定価1,000円で買った豪華版です。


 この曲は、1808年12月22日に、『第5交響曲』や『合唱幻想曲』などとともに、大混乱の中で初演されました。


 怒り狂ったような『第5番』と暖かなやさしさに満ちた『第6番』は、双子の兄弟のようなものなのですが、それは、『金剛力士像』さまと『観世音菩薩像』さまのような・・・


 初演の混乱にもかかわらず、この2曲は、合わせて聴くのがよいのかもしれません。


 ならば、その順番や如何に?


 まあ、その時の気分でしょうねえ。


 現世的に徹底的にぶったたいてもらいたい時は、『第5番』が、あと。


 結局は慰めていただきたい時は、『第6番』が、あと。


    **  **  **


 第1楽章は4分の2拍子へ長調。


 例によって、あたまに8分休符が一個あります。


 第1ヴァイオリンと第2バイオリンが追っかけっこしながら、ゆるやかに進む中、ヴィオラとチェロは3小節に及ぶ、なが~~い音を引っ張っています。


 これ、この先大事なモティ-フ。


 やがてオーボエが主旋律を奏して、クレッシェンドすると、全合奏で大きく主題が広がるのです。


 フルートが、細かい装飾音のついた音を繰り返します。


 小鳥の鳴き声にも、実際、聞こえます。


 この曲は、表題音楽だけれど、実景の描写ではなく、『絵画よりは感情の表現』と、べー先生はおっしゃたそうな。


 宮沢賢治様風に言えば、『心象風景』なのでしょう。


 よって、この曲こそ、究極の『癒し』音楽となるのであります。


 第2楽章は、なんと8分の12拍子。『小川の辺の風景』。


 たしかに、8分音符と16音符の流れは、スコアを見ているだけでも、じゅわーと流れて行きます。


 最後、フルートが明らかに鳥たちの鳴き声を聞かせてくれます。


 しかし、このころは、すでにべー先生のお耳には、直には聞こえていなかったかもしれません。


 そう思うと、いささか、神妙な気分にもなるというものです。



 第3楽章は、近在の村人たちの楽しい踊り。4分の3拍子。


 フラットは一つだけれど、た・た・た・た・た・た・・・と刻んだあとの旋律は二長調みたい。


 中間部は2拍子になって、大もりあがりし、また3拍子になって元のダンスが繰り返されると、突然空には暗雲が立ち込め、嵐がやって来るのです!


 ここは4分の4拍子。♭があたまに4つも付いてる。


 激しい雷雨が去った後、フルートの上昇音階に次いで、ついに、この世で最も美しい音楽がやってきます。(やましんは、そう思います。ついでに個人的な思いを言えば、もうひとつこの世で最も美しいのは、シベ先生の『第6交響曲』。どっちも『6番』なんです。別世界ですけどね。)


 クラリネット、ペットが小鳥の声を聴かせる中で、ヴァイオリンが世にもすがすがしい主題を流します。


 もう、幸せの絶頂期です。


 いったいこれ以上の何が望めるのでしょう?


 その後、ちょっと変奏曲のような形をとりながら、テクニックの限りを尽くして盛り上がって行きます。


 そうして、ついに、永遠の終結部・・・、237小節目からです。


 この世の深遠を覗き込ませる・・・、恐ろしくも、あまりに深すぎて、やましんにはその底が見えない・・・・あの、場面がやって来ます。そうして、その永遠の穴を眺めながら、ベースのゆったりとした音の刻み(偶然に聞こえた、時間の音です。)と、流れ下る16分音符(時間の流れと共に、その深淵に永遠に落ち込んでゆくすべての事象です。)を聴きながら、静かに終わるのです。


 しべ先生の『第6番』『第7番』『タピオラ』と同様、この後には、なにも残らないのです。


 永遠の終結に向かうのであります・・・・・


 

 と、いうわけで、『うつうつ音楽』(癒しの音楽)、最高峰の作品であります。

























 







 

 

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