第85話 『パガニーニの主題による狂詩曲』 ラフマニノフ

 ヴァイオリン界の鬼才、パガニーニ先生の『24のカプリース』第24番の主題による、事実上の変奏曲。


 元曲自体が変奏曲なので、別の変奏曲を作ってしまった感じ。


 しかし、この曲は単なる変奏曲というわけでもないところが、ミソ。


 主題と24の変奏曲からなるわけですが、第7変奏曲に、なぜかグレゴリオ聖歌の『怒りの日』が現れるのが大きな問題。


 学問的なことは、ほぼ何も調べてもおりませんが、この旋律が出てくることによって、この作品の性格が単なる変奏曲じゃなくなるのです。


 しかも、ベルリオーズ先生の『幻想交響曲』と同様に、最終部分で、大きく扱われることも特徴。


 でも、これがあることで、音楽に、まるで、かすがいが打たれたように引き締まるのです。


 『怒りの日』の有名な旋律は、13世紀後半の作品だろうということですが、あまりに印象的な旋律なので、なんとなくぼんやりと聞いてしまうグレゴリオ聖歌の中でも、一発で頭に焼き付いてしまうおそるべき傑作。


 『怒りの日』は、多くの作曲家による『レクイエム』のなかでも、重要な位置を占めることも多く、モーツアルト先生や、ヴェルディ先生の例はあまりにも有名。


 でも、フォーレ先生は、さらっと触れただけ。


 実際、このテキストを読んだだけで、震いあがってしまいそうにもなるのは、日本の地獄の描写に通じるもの。


 ただ、カトリックで、昔は、『煉獄』というものが考えれていたようですし、1972年に「第2ヴァチカン公会議」を経て、リベラ・メ(我を解き放ちたまえ)とともに、『怒りの日』は、廃止されたとのことです(歌うこと自体が禁止されたのではないとのこと)が、このあたりは、専門の資料をどうぞ。


 やましんは、異教徒ですが、前にもどこかで書いたように、『怒りの日』は、健康上の状態がらみで、上司に囲まれて、ねちねちと叱られている感じになるので、非常に苦手です。


 とはいえ、ことこの曲に関しては、大きな音楽的効果を発揮します。(まずは、ことばが入らないのが、大きな違いですが。)


 ときに、人生の美しい夢のような『第18変奏』は、あまりにも有名です。(ただ、いつも、ここだけしか聞かないのは、ちょっと、もったいないです。) 


 ラフマ先生も、十分にそこは自覚していたと見え、ここの部分には、結構時間を割いていますし、名残惜しそうな終結といい、この曲全体の大きなポイントです。


 でも、その直後に、『怒りの日』で、締めくくるのですから、やはり、やがて来る、『死』といふものに、大きく気持ちが行っていたと考えるのが自然でしょう。


 パガニーニ先生は、超絶技巧と引き換えに、悪魔に魂を売った、などどいうあり得ない噂を立てられてしまったのですが、考えてみれば、ラフマ先生も時代は違えど、超絶技巧派ピアニスト。(人と違ったことを、あまり言ったりやったりすると、『悪魔』と言われることがあります。ただし、成功したら、よい『悪魔』。)


 いささか、思うところが、あったのかも。


 作曲は、1934年(意外と最近・・・)


 革命の祖国から離れ、放浪のラフマ先生が亡くなったのは、その9年後のこと。


 録音がたっぷりと残っているのが、近代人、ラフマ先生の特徴。



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