第12話  J.L.ドゥシェク:ピアノ協奏曲ト短調&変ロ長調

 先に書きましたクラーマーさんのところで、ちょっと顔を出したドゥシェクさん(ドゥシークだったり、ドゥシェックだったりデュシェックだったり。1760~1812)のピアノ協奏曲であります。


 このかた、なかなかの美男子で色男で、ボヘミアのお生まれですが、ロシア~ドイツ~フランス~イングランド~ドイツ~フランスと遍歴し、その間にはハープ奏者で作曲家として今日でも結構有名なクルムフォルツさんの奥さんと駆け落ちし、クルムフォルツさんは自殺。でもその彼女も捨ててしまい、別の女性に走る。その相手とも別れたり、また戻ったり、またまた事業が破産して結局捨ててしまったり・・・。いろいろスキャンダラスな人だったようです。でも、なぜか救ってくれる人が常に現れて来ていたようなのですが、そこは不思議です。美男子で才能が豊かだったゆえなのではありましょう。けれども、晩年はかなり厳しく、寂しく人生を終えたようであります。


 しかし・・・・・・


「うつうつ」は、そのあたりにはさほど興味はありません。


 この方の「ピアノ協奏曲ト短調作品49」を聞くと、そうは言いながらも、そう思って聞くと結構危ない音楽です。ト短調と言う調性は、モーツアルトさんの例からも、ある種危険な雰囲気が漂う調性ですが、この第一楽章はかなり危ない。何か切羽詰まったような雰囲気が強く、英雄的であるよりも、一発勝負の冒険家的な雰囲気です。なぜか、最後ティンパニに一発叩かせて終わるのですが、これが怪しさを一層助長します。


 第二楽章は非常に抒情的な音楽でありながら、中間部にとてつもない激情が走り抜けます。

 どこか、スウェーデンのフランツ・ベルワルドさんの音楽を思い起こさせるようなマジシャン的な要素があります。


 第三楽章は、なかなか興味深い音楽で、なんとなくボヘミア風の民族主義音楽の雰囲気を漂わせているのがおもしろい。このあたりは、やはり結局「天才」という言葉が当たってしまう音楽です。


 一方変ロ長調作品22のピアノ協奏曲は、ちょっと(かなり)モーツアルト的な音楽で、ト短調の曲のような危なさよりは、割と安定感がある音楽です。

 なので「うつうつ」的には、こちらがお勧めです。

 とは言え、ここがやはり、ドゥシェクさんなのでしょう。展開部にはやはり、激情がほとばしる危ない音楽が出現します。

 が、これが、なかなか魅力的な音楽なのであります。

 最後は、まあ安心の終結で、次の楽章に移ります。


 第二楽章。これが美しい! なのに、なんだか少し変だぞ。

 クラーマーさんならば、楽章全体が平穏なままで推移しそうなところが、途中にちょっとびっくりする転調。シューベルトさんやモーツアルトさんの様な、癒しを伴う転調ではありません。素人の言い草で、お叱りを承知であえて言えば、「棘で刺されたような痛み」を伴う転調です。


 でも、突然第三楽章。


 これはもう最高です。


 調子のよいモーツアルトさんにも、そうは負けない、安定した(ちょっと変わった転調はしますが)音楽が繰り広げられます。ここは、実に良い音楽です。心地よいのです。この危険がいっぱいの、ふたつのピアノ協奏曲において、唯一安心して聞いていられて、何か夢が沢山あって、なかなか楽しい音楽です。おまけに結構短い!

 ここが聞きたいがために、このCDを取り出す。のような感じです。


 ちなみに僕が聞いたこのCDには、「タブロー”マリーアントワネット”作品23」という作品も入っております。歴史的には、恐らくこれが大変貴重なモノかと思います。

 なにしろドゥシェクさんは、マリー・アントワネットとも親しかったようなのです。恐るべき美青年だったのでありましょう。

 




 

 






 

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