Valuable Debt

白金 将

デスサイズ/覚醒

 人は死んだらどうなる?


 臨死状態を経験した者によれば、死後の世界は白い光に包まれた暖かい世界らしい。どうやらそれが合っているかもしれないことを俺は身を持って体験することになっていた。とどのつまり、今にも俺は死んで身体から魂が抜けようとしている。


 一言で言うなれば、浮いているような感覚だ。

 確かに辺りには白い光が満ちていて、なんとなく暖かいような気もする。だが、何かが起きるような気配はない。死後の世界はこのように退屈な物だろうか。そんな風に思っていた時だった。



〈汝は、力を望むか〉



 男の声が聞こえてきた。若々しい声ではないが、老人の発するような声でもない。ずんと腹の底に響くように低い声だった。その正体について頭を巡らせていると――もしかしたらもう「頭」もないかもしれない。再び声がする。


〈もう一度問う。汝は、力を望むか〉


 お前は誰だ、ここはどこだ、と考えてみる。

 するとそれが通じたのか、次の言葉が響いた。


〈いいだろう、先に名乗るのは礼儀だ。我が名はデスサイズ。人間の言葉で言うなれば「死神」という存在。もう一つの質問に答えると、ここは汝の意識だ〉


 そんな事を言われても俺はさっぱり分からなかった。俺の意識の中というのもどうも信じられない答えであったが、何しろ「力を望む」という言葉には胡散臭さしか感じられない。それはどういうことだ、と聞いてみる。


〈質問が多い気もするが、状況が状況だ、仕方あるまい。今、汝は生と死の間を彷徨っている。辛うじて生きている状態だが、このままでは汝の身体は死ぬ。普通の人間であれば、このまま緩やかに死へ向かっていくだろうな〉



 成程、新鮮な魂を刈り取りに来たという訳だった。実に死神らしい発想だ。


〈確かに汝の魂は欲しい。だが、我はただ待ってるだけのようなつまらないやり方はしない。我はこの後汝に「生きる力」を貸そう……そしてその後、更に上質になった汝の魂をこの我が頂く〉


 その「力」を手に入れないと俺はこのまま死ぬ、ということらしい。死の先延ばし程度にしかならないが、俺はその要求を呑むことにした。それしかあるまい。無駄な抵抗をした所で死が早まるだけなのだ。

 ところで、先程から会話している相手だったが、姿が見えない。

 姿を見せろ、と尋ねてみる。


〈良かろう。これも交渉の内だ〉


 目の前に背の高い人影が立った。これが「デスサイズ」の姿だろう。

 黒いローブでフードを被って、背中には死神らしく鎌を差している。顔の辺りは影が入って良く見えないが、まさに人間が思い浮かべる死神の姿そのままだ。ここで実は女の子の見た目だったという変化球があれば面白いとは思ったが。


〈……それではもう一度聞こう。汝は、力を望むか〉


 俺は更に生きたいと思った。こんな所で静かに死んでなどいられない。その旨を伝えた。だが、俺が得られる力とはそれ程に強力な物なのだろうか。


〈力の強さは約束しよう。その答え、確かに聞いたぞ〉



 意識が遠ざかっていく。視界が暗転した。身体が落ちていく――









「奇跡的に復活、か。そういう物は信じないクチだったんだが」

〈ほう、奇跡か。悪くない言葉の響きだ〉

「……それで、状況から説明してくれるか?」


 俺がそう尋ねると、デスサイズ――どこにいるのかよく分からない死神は低い声で語りだした。奴の声が頭に響き始める。


〈汝の名前は隻影 神羅(せきえい しんら)、年齢は27、無職。交通事故により8年間昏睡状態にあった。その間に世間では政権が変わり、スマートフォンと言う物がより普及し、インターネットが個人の物になった〉

「8年……そうか」


 4、5車線の道路の脇に伸びている、見上げる程に高いビル群。煩い程に自己主張してくる看板と、眩暈がする程に多い人の数。飲食店と服屋と携帯会社と金融関係の企業がごちゃごちゃになったこの道は8年前から全く変わっていなかった。

 この空気を吸うのも随分と久しぶりだ。電光掲示板の広告には「2017」とはっきり記されている。街ゆく車のデザインも様変わりしたし、歩いている人々は何やら薄い端末に夢中だ。あれが新しい携帯電話なのか。

 夏の日差しが強く差してくる中、俺は変わり果てた街を一つ一つ確かめるように練り歩く。知っていた道も改装が進んで景色が一変していた。一か月見ないだけで様変わりするのだから、それも当然か。


「8年も眠ってりゃ世間も変わるな。平べったいよく分かんない端末が世間には普及したようだが、それがお前の言うスマートフォンという奴か。前は持ってる奴は多くはなかった印象だけどな」

〈驚かないのか? 汝はひどく落ち着いているようだが〉

「お前よりも奇怪な事があるか。だが……世間から取り残されたのは、少し寂しいな」


 退院する前に病院の人から聞いていたことだが、俺と同じ車に乗っていた恋人は俺より先に退院したらしい。その動向を掴めないかと情報を集めようとはしたが、どういう訳かあいつは自分から消息を絶ったそうで、誰も彼女が何をしているかは知らないと言う。


〈この世界にお前のことを知る者はいないのか?〉

「誰もいねぇよ。家族もみんな俺が死んだと思ってるはずだ」

〈我が聞いた話によれば、家族とは互いを思いやる共同体だったはずだが。会いに行けぬか?〉

「人によるな、それは。会いに行こうにも今の俺には金がない」

〈人間の世とは難しいものだ〉


 8年も眠っていれば、かつて俺を愛してくれた人も愛想を尽かすだろう。彼女の家に押し掛ける訳にもいかない。病院を出たはいいが、早速自分の居場所を失ってしまった。幸いにも時間はたくさんある訳だが……


〈どこへ向かうのだ?〉

「昔の家だ。いちいち聞いてくるな」

〈そうか〉


 電車に乗って十数分、そこからさらに数分歩き、俺が前に住んでいたアパートを訪れた。時間の流れからかいささか外見は古びたような気がする。砂ぼこりで前より汚れた自分の部屋の扉の前に立って鍵を使おうとしたが、鍵を差し込もうとした時に気が付く。


 鍵が、合わない。途中までしか入らない。


「……」


 何かの間違いかと思って鍵の向きを確かめた後にもう一度差し込んでみたが、駄目だった。


「……畜生」

〈長い時間が経ったのだ。薄情ではあるが、致し方あるまい〉

「ん、あなたは……?」


 扉の前で四苦八苦していると外廊下に一人の女性がやって来た。そのストレートヘアの姿が一瞬だけ昔の彼女に重なり、思わず視線を逸らしてしまった。だけど、彼女は俺のかつての恋人ではなかった。あいつは見れば分かるんだ。


「ああ、ええと、昔の友達がここに住んでて」

「ここの人は数年前に消息不明だそうですよ。それで大家さんがかなり怒ってしまったらしくて、部屋の中の物も処分されたって話ですが」

「……そうですか」


 心に冷たい風が吹き付ける、という感覚は、今まさに俺が感じているような物だろうか。自分が本当に居場所を失ったのだ、という現実を突きつけられ、俺は彼女が通り過ぎて行った後も一人呆然としてしまっていた。

 やりきれなくなって足早にアパートから離れる。デスサイズが語り掛けてきた。


〈嘘をつくのが下手だな、汝は〉

「黙れ」

〈この分だと先は明るくないと見るが……さて?〉

「銀行の口座を見てみよう。いくらか使える金があるかもしれない」


 すがるような思いでアパートの近くにあった銀行に向かい、そこにあるATMに持っていたキャッシュカードを入れてみる。残高照会で口座の残金を見てみたが、予想以上に口座の中は少なくなってしまっていた。

 ああ、ガス代や電気代を直接引き落とすようにしていたから、俺がいない間もその基本料金を払い続けていたのだろう。それに、入院中の金の動きもよく分からないから俺の口座の金が使われたのかもしれない。


「……クソッ」

〈知っていた結末だろう〉

「知ってたよ、知ってた」


 財布に入っていたのは三万円。これでどうやって居場所を作ることが出来るのか。三万あればもしかしたら三日か四日は生きられるかもしれないが、流石に第二の人生を生きていくにあたっては少なすぎる。まるで有名RPGの主人公のようだ。ゲームとは違って勝利は約束されてはいないけれど。





 あれは使えない、これも使えない、と考えながら俺は街を歩き続け、とある一級河川に沿った土手の上にある木陰のベンチまでやってきた。桜の時期もとうの昔に終わったためか緑色の葉のみが連なる味気ない光景が広がっている。この辺りは周りには誰もいないから少し大きな声でデスサイズと話をしても良いだろう。


「ホームレスだな」

〈まだ決まった訳ではあるまい〉

「……もう希望は持ちたくない。嫌だったらお前がどうにかしてみせろ」

〈我の力はそのような事に使うような物ではない〉

「あのな、新しい命を貰ってもスタートがこれじゃ死神にだって頼りたくなるんだ」


 死人が生き返る話はいくらか聞いたことはあった。でもその話には他にも家族や友達と言った登場人物がいて、その人には家がある。今の俺にはその何もかもがない。酷く疲れた身体を落ち着ける場所すらない有様だった。

 空っぽになった心が寂しい。寒かった。夏を控えたこの季節だったら、もう少し暖かいはずなんだけど。


「そこまで言うなら言ってみろよ。お前がくれた『力』ってのは何に使うんだ」

〈汝が信じるかは分からないが……〉


「こんにちは、いいお天気ですね」


 俺がデスサイズに話しかけている横からある男が突然話しかけてきた。独り言をしているように見えたのだろう、サングラス越しに俺のことを不思議な物を見るような表情で見ている。


「誰だ」

「近所の者ですよ。よくこの辺りには来てるんです」


 そうして彼は俺の隣に座る。その図々しさに何も思わなかったわけではなかったが、無闇にことを荒立たくはなかったため何も言わないことにした。彼は俺の方を見ると、まるで昔からの友達に会ったかのように笑った。

 ここで初めて彼をよく観察した。サングラスをかけた青年で、髪も短くきちんと整えられている。少し彼が話した言葉からは物腰柔らかそうな印象を受けたが、その底に眠っている恐ろしい何かがうかがえるようで、俺は迂闊に言葉を発することが出来なかった。


「ここの川は綺麗だと思いません? 人も来なくて、私のお気に入りの場所なんです」

「そう、だな」

「ふぅむ、もしかして川よりも山の方が好きですか」

「まだ川の方がいいな。山はいい思い出がない」


 脳裏にあの交通事故の記憶が蘇る。そうだ、俺はあの事故で全てを失った。あの時、車の操作を誤ったから……いや、操作を誤ったきっかけがあった。車のフロントガラスに張り付いてきた片目のない男――

 奴の顔は思い出すだけでも吐き気がする。奴さえいなければ俺はここまで苦しむことは無かったのだ。あの事件が無かったならば俺は恋人と共に幸せな生活を送ることが出来ていたかもしれないのに。


 俺の表情が変わっていたのだろう、男は心配そうな口調で尋ねてきた。


「何か嫌な事でも?」

「……いろんな物を失った」

「私も様々な物を失って生きてきました。友達も今や片手で数えられる程しかいません」

「いる分だけマシだろ。お前の話は今は聞きたくない」

「そうですか、それは残念です。ところで」



 男の声色が変わった。



「先程は、誰と話をしていたんです?」



 男の口元は笑っていた。

 只者じゃない。何故だ、何故その質問をする?

 何かを知っている。一歩ずつ、俺を追いつめてきている。


「……ただの独り言だ」

「へぇ、独り言ですか」


 妙に背中に汗をかいてしまう。突然この男はどうしたというのだ。仮に俺がデスサイズに話していたことを彼に説明したとしても分かるはずがないというのに。


「私も結構独り言が多いんですよ」

「……何が言いたい?」

〈その席から離れろ!〉


 デスサイズの声が頭に響く。俺は思わず前に転がって彼から距離を取っていた。





 寸での所で上から俺の背丈ほどもあるような大剣が降って来て、先程俺が座っていた場所に突き刺さった。ベンチは鈍い音を立てて割れ、大剣は地面へ垂直にその刃を埋めている。あそこにいたら……


「何する……!」

「惜しいですねぇ、あと少しで貴方の魂を頂けたというのに。ねえ、『アイアン・ブレード』?」


 アイアン・ブレードと名前を呼びながら男はベンチを貫通して地面に突き刺さった大剣を両手で抜く。そして、それを肩に軽々と背負いながら、呆然と立っている俺の前でニヤリと笑って見せた。


 狡猾――何の気なしに近づいて来て警戒心を解き、相手が気を抜いた隙に殺しにかかる。騙し討ちなどというレベルではない。デスサイズの言葉が無ければ今頃は臓器を地面にぶちまけていたことだろう。


「不意打ちには失敗しましたが、このまま貴方を殺せば同じことですね?」

「どうすりゃいいんだ……逃げるか?」

〈戦え〉

「戦うって、丸腰であの馬鹿とやり合うつもりか!」

〈そのために汝は力を得た。違うか?〉


 大剣を持った男がゆっくりとこちらに迫ってくる。男がサングラスを外した。

 その男は、片目がなかった。


 それは彼が、俺が最も憎悪を抱いている人物であることの証明であり、俺が復讐したいと心の底で願っていた相手の目だった。8年間もの時間を奪い、それだけでなく住む場所や財産全てを奪い取った因縁の相手。


「……デスサイズ」

〈どうした〉


 両手に否が応でも力が漲ってくる。8年間眠っていたショックで失われた感情が蘇っていく。煮え立った溶岩にも似たそれは怒りなどという言葉では生温い。憤怒、嫉妬、憎悪……違う。全てが「殺意」だ。


 俺は、こいつを、殺したい。生まれて初めて抱く、血みどろの欲望。


「何にも残ってないと思ってたが、どうも復讐心だけは残ってたみたいでな。戦えって言うなら武器の一つくらい出せるだろ?」

〈その程度なら〉


 デスサイズがそう言ったと同時に空が光った。そこから何かがクルクル回りながら落ちてきて、俺の前に突き刺さる。長い棒の先端に切れ味の鋭い刃が付いた武器――大鎌。その刃には冷たい殺気が満ちていた。死神には相応しい武器だ。


「貴方に会うのは8年ぶりですか。あの時のあなたの表情は良かったですね! 長い時間が経った今でもよく覚えてますよ」

「生きて帰れると思うんじゃねぇぞ……!」


 腸が煮えくり返る思いだった。目の前にいるこいつが、俺の人生を滅茶苦茶にぶち壊した張本人。どういう訳で俺の前に立っているかは知らないが、こいつをぶち殺せるなら今の俺は何だってすることが出来る。

 大鎌の持ち方は知らなかったが、デスサイズが「力」を与えてくれたせいか何となく扱い方は理解できた。身体中に溢れるこの暴力的な衝動を抑えることが出来ない……!


「成程、それがあなたの武器ですか」

「お前はこの状況を知っているみたいだな。後でたっぷり解説させてもらおうか」

「それはありません、あなたはここで死にますからね!」


 大剣――「アイアン・ブレード」が勢い良く横一文字に薙ぎ払われる。後ろへ下がって躱した時に感じる更なる風圧で髪が揺れる。。だが、こちらの身体能力は8年前より格段に上がっている。これがデスサイズから受けた「力」なのか。


〈ある程度なら戦えるよう我は力を与えた。だが、さらに力を望むなら汝の大切な物を頂こう〉

「大切な物……?」

〈汝の、寿命だ。それを少し〉


 大剣を振った時の反動で動けない隙を狙って大鎌を横に振るったが、相手はそれを予期していたのか剣を自らの後方の地面に突き刺して身を上方へ飛ばし、宙返りするように華麗に回避する。空しくもこちらの刃は空を切った。

 戦いの場数の多さは圧倒的に相手が多い。それは先程の動きから見ても明らかだ。相手は幾度となく戦いを生き延びてきた強者。それに対しこっちは今解き放たれたばかりの右も左も分からない青二才。まともにやってもこれでは勝ち目がない……!


〈決断するのだ、時間もあるまい〉

「どうしても寿命を削らないといけないのか……!」

〈必要ないならそれでも良かろう。死んでは意味ないがな〉


 デスサイズは俺を嘲笑っている。宿敵を相手にしてもなお本気で勝ちにいかない俺を笑っているんだ。俺から8年と居場所を奪った宿敵を相手にしてもなお、寿命を削ることが出来ない臆病者を蔑んでいる。

 それは臆病なのか? 長く生きたいと願うのは誰も同じ……


「ぼやっとしていると死にますよぉ!」

「くっ!」


 横に転がる。先程俺が立っていた場所に轟音が響いた。容赦なき一閃。大地が抉られ、土埃が舞う。


「あと一人……あと一人倒せば私の願いは叶う……」

「何を言っている……?」

〈契約を結んでいる者を9人倒すと其の者の願いが叶えられる。汝も例外ではない〉

「そういう大事なことはもう少し早めに、っ……!」

〈聞かれなかったのでな〉


 重い大剣の一撃を転がって躱しながら、今置かれている状況を整理していく。

 向こうは「あと一人」と言っていた。だとしたら、奴は既に8人をその手に掛けたことになる。納得の実力だ、逆立ちしても勝てるわけがない。先程の不意打ちも含め、どうやれば相手を殺せるかを熟知している。


 このままでは、勝てない。

 俺は殺されるのか? よりによってこいつに? 文字通り全てを奪われるとでも?


「貴様ぁ!」

「いいねいいねいいね! そういう表情大好きだよぉ! でもねぇ!」


 奴は「アイアン・ブレード」を両手で持って切っ先を天へ向けた。


「私はここで全身全霊を賭けてあなたを倒すと決めた!」

「何をする……?」

「アイアン・ブレード! 私はここで『因果』を捧げる! 奴を殺す力を私に!」


 空気が歪んだ。その直後に来るのは強烈な吐き気。

 視界が揺れ、膝を地面に付いてしまう。立ち上がれない、何だこの苦痛は……!


「私のことを知る者はほとんどいなくなる! だがもう後には下がらない! ここでお前を殺し、私は私の願いを叶えよう! 来い! 『冷酷な処刑人 アイアン・ブレード』!」



 男の隣の地面が波打った。そこから同じ大剣を持った者が上ってくる。

 血にまみれた仮面、赤と黒に染まったエプロン。人間というよりは「化け物」だ。

 何人もの人を叩き斬って来たであろう剣はもはや固まった血糊で切れ味が失われており、あれで斬られたら楽には死ねないと直感で分かった。



「その因果、しかと貰い受けた。我が刃、常に汝と共に有り」



 男が処刑人と共に大剣を構える。剣の扱い方が先程よりも軽くなっていた。先程の攻撃でも苦戦していたというのに、相手の攻撃頻度が上がり、更には2人を相手にしなければならなくなった。このままでは敗北以外の道はない。


〈今の状態で二人を倒すことは不可能だと思うがな〉

「分かってる……ああっ!」


 寿命を犠牲にするのは気が引ける。だが、あくまでそれは言い訳にしか過ぎない。

 全てを奪われた憎しみは隠すことは出来ても消えはしない。俺はそれに真正面から向いていなかっただけだった。寿命をいたずらに失うことを恐れて、するべきことが見えなくなってしまっていた。


 俺には憎悪がある。殺意がある。

 今ならば、手遅れにはならない。今からでも、まだ間に合う……!


「デスサイズ」

〈何だ?〉

「――命ならやる、奴を殺せるだけの力を俺に寄越せ!」


 前方から二本の刃がこちらへゆっくりと迫ってくる。デスサイズの声が響いた。



〈その答え、確かに聞いたぞ〉

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