第7話

「ねー みてみてぇ! 新しい体だよぉ!!」

 ブラウニーたちに人形を作るよう指示を出してから数日。

 パイヴァーサルミに出来た新しい建物の視察を行っていると、エディスが新しい体に入った状態で俺のところにやってきた。


「ほう、可愛いじゃないか」

「ほんとぉ?」

「あぁ、顔と髪型がよく合っている」

 エディスが宿ったことで補正がかかるのか、俺の作ったものとほぼ同じに見える。

 ふむ、目の大きさは若干ブラウニー製のほうが大きいかな。

 だが、一番の違いはその衣装である。


「いい服だな。 デザインはルスケアレーミネンの赤牛うかべこたちの着ている服にそっくりだが、これもブラウニーたちが作ったのか?」

「ううん、ちがうのぉー

 服のデザインは、ルスケアレーミネンの人たちにお願いしたんだってー」

 なるほど、自分たちは人形の素体つくりに専念して、服飾は専門家に任せたというわけか。

 実に良い選択だ。


「じゃあ、他の人にも見せてくるからまたねー!」

「あぁ、気をつけてな。 慌てて転んだりするなよ」

 だが、俺は気付いていた。

 新しい衣装を着て街をうろつくエディスの姿に、観光客たちがひそひそと話をしながら好意的な視線を向けていたことを。


「ふむ、エディスが服を着て街を歩けばよい宣伝になるようだな」

 あぁ、そうか。

 人形をたくさん作っておいて、エディスに日替わりで使わせればいいのか。

 そして使っていない人形はそのまま服ごと店の軒先を飾ってやればいい。


 公営のブティックにエディス用の人形を並べておいて、人形が動き出すところもイベントとしてしまえば、観光客にも受けがいいだろう。


「あとは、その服を見た観光客が店を探しやすくなるように一工夫しておきたいのだが……」

 そうだな。 それはむしろエディスのほうをあわせたほうが良いか。

 服のチラシを用意して、エディスにそのチラシにある服を着せて宣伝を行ってもらうというやり方がよさそうだな。


「喜べ、駄目精霊。 お前に仕事を与えてやる」

 なお、この企画については、後にエディスから盛大に文句をいわれることになるのだが……だったら他の精霊にやって貰うぞといった瞬間に土下座をしながらそれだけはやめてと言い出した。

 ちなみに、その企画にもっとも乗り気だったのが、アーロンさんだったとは伝えておこう。


 そんなわけで、木工の得意なブラウニーたちは次々にエディスの人形を作り出し、やがてそのほかの人形にも手を出し始めた。

 街には男女様々な美しい人形が立ち並び、観光客の購買意欲を欠きたてたのは言うまでもない。


 そんなある日の事。

「……なに? 人形劇をやりたい?」

「はい。 人形を作っているうちに、暇な奴等が人形で遊び始めまして……これが思いのほか評判がいいみたいなんです」

 そう言い出したのは、人形を作っているブラウニーを含めた三十人ちかい妖精たちだった。

 しかも、服飾担当の赤牛あかべこたちの姿まで混ざっている。


「なるほどな。 だが、人形劇でつかうものは、服屋の飾りで使う人形ともエディスの乗り物として使うものともことなると思うが?」

「そのあたりは心配ございません。

 すでに試作品が出来ておまして……」

 ブラウニーが手を叩いて合図をすると、ホブゴブリンやシルキー、さらにはミノタウロスたちまでもがなにやら簡素な舞台のようなものを運び込んできた。


「ずいぶんと用意がいいな」

「へへへ……実はけっこう前から準備をしていたんでさぁ」


 やがて始まったのは、かつて俺が知り合いの劇団のために書いた脚本の一部だった。

 なるほど、ゴブリンたちが音楽を担当して、声はシルキーとホブゴブリンか。

 人形の操作はブラウニーのようだが、こちらは少しぎこちないな。


「どうだったでしょう、旦那」

 いくばくかアレンジされた寸隙が終わると、代表らしきブラウニーがおそるおそる俺の顔をうかがう。


「なかなか良かったが、改善点は色々とあるな」

 あぁ、そんなにおびえなくてもいい。

 怒っているわけではないのだ。


「たとえば、お前たちはこれをどんなヤツに見せるつもりだったんだ?

 俺はこの脚本を、恋に憧れるデビュタント前の乙女や昔の恋を懐かしむ女性たちのために書いたつもりだ」

 だが、おそらくこいつらは子供向けの出し物を想定して練習してきたのだろう。


 別に大人たちが人形劇を見ないというわけではないだろうが、声の出し方や脚本のアレンジなどを見るとどうもうまくかみ合っていない。

 大人向けの出し物を子供向けの演出でやっても、それは違和感をかもし出すだけだ。


「え……それは……」

「子供たちに見せるなら、もっと題材も演出も選べ。

 とは言っても、お前たちだけではなかなか難しい部分もあるだろう」

「えっと……もしかして」

 妖精たちの顔がパァッと明るく輝きだす。

 そもそも、なぜこの俺を最初から企画に誘わない?


「案ずるな。 ここにいるお前たちの主はその道の天才だ」

 子供向けの出し物はほとんど手を出したことは無いが、なかなか面白い分野である。

 いったいどんな話を書こうか、俺は久しぶりにワクワクとして気持ちを味わっていた。

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