第四章29話:無為 - Belated treatment -
◇◇◇
街の広場で手をこまねいていたフィアーは、目の前に現れた数騎のマギアメイルの参戦によりその窮地を救われた。
こちらへと迫りきっていたマギアバディは、砂賊のマギアメイル『
あいにくその方角は騎士団の船が停泊していた場所とは真逆であったが。
(少なくともここより、何倍もマシだ)
フィアーはそう内心に呟き、すぐに次の行動に移る。
本当なら助けてくれた皆に礼の言葉をいうところだが、状況が状況だ。
彼らの実力は騎士団に勝るとも劣らない、どころか凌駕してすらいる。
ならばこの戦い、負けるはずもない。お礼の言葉も思い出話も、勝利の暁に全員揃ってすればいい。
「ヘパイストスが来てくれたなら、きっと大丈夫だ」
「フィアーくん、あいつら知ってるの?」
「うん、信頼できる人たちだから……とにかく、今は皆を助けないと」
エルザにそう促すと、彼女は周りを見渡して言う。
「そうね、私は残ってる樹を焼き払ってくる!フィアーくん達はできる限り、戦闘の被害を受けないところへみんなを避難させて!」
彼女は単身で魔樹の排除に向かおうとしていた。
この先マギアバディに襲われるかもしれないことを考えると若干不安は残ったが、そもそも魔樹を焼かねば奴らはずっと湧き出てくるのだ。
マギアバディやマギアメイル相手には、如何にエルザといえども太刀打ちできないのは証明済み。となればそれを断る理由はなかった。
「わかった」
フィアーが頷くと、エルザは直ぐ様行動を開始した。
それに合わせて、フィアーも広場でどよめく一同に対して、声をあげた。
「私達の村が……いったい、これはどういう」
「説明を後にさせてほしい、今は皆の安全が最優先だから……とにかく、戦闘から離れなくちゃ」
「わ、わかりました、この先に避難用のシェルターがあります、ひとまずはそこに」
突然のことに混乱する、洗脳を受けていた村人たち。操られている間の記憶はほとんどないようで、突如戦場の最中に放り込まれたように、慌てふためくばかりだった。
フィアーとそんな彼等と共に、昏倒している騎士団を背負いシェルターへと向かう。
……洗脳されていたとはいえ、加害者が被害者を安全地帯へと運ぶ奇妙な絵面だ。
しかし一行はそれに構わずがむしゃらに、シェルターを真っ直ぐに目指す。
だがそんな道中、何事もなくとは当然いかない。
「うわぁ!?」
―――突然、最後尾の村人が悲鳴をあげる。
それに一同が振り向くと……一騎のマギアバディが、こちらに目掛けて疾走してきているのが見えた。
鉄仕掛けの6本脚で街道を破壊しながら、土埃をあげ向かってくるそれに、一行は一時恐慌状態に陥った。
その動揺の広がり方たるや、一部の村人が騎士を置き去りにして逃げようとするくらいだ。
「ひぃ!?」
「いやだ、しにたくない……!」
「駄目だ、騎士は降ろさないで!今降ろしたところで、逃げられるはずもない!」
そう、この距離であれに襲われたなら、いくら走って逃げたところで踏み潰されるのがオチだ。
なら、最後まで背負い続けていても変わらない。それに……
(大丈夫、ヘパイストスの皆や、エルザさんなら)
彼等が「助ける」といってくれた。
あれ程の実力者たちが、自信を持って。
ならそれは最早宣言ではなく決定で、覆されることは。
「だめだ、もう―――」
『オォラァッ!!!!!!』
誰かが諦めの声をあげた瞬間。
フィアー達とマギアバディの間に、一騎の『悪党』が颯爽と現れる。
手にした小盾からして、グレアの兄貴分であるジャイブの機体だ。
そして彼の機体は突進してくるマギアバディを弾き飛ばし、横転したそれに向けて腰の手榴弾を投擲する。
―――見事、撃破。
爆発、炎上するマギアバディを呆然と見つめ一行に、フィアーは発破をかける。
「大丈夫、皆が守ってくれる!だから最後まで、皆で走ろう!」
感情が、溢れ出す。
これほど大声を出す機会など、マギアメイルに一人で乗っているときくらいだったから、新鮮だ。
ともかく、ようやくフィアー達は一個の目標に向けて一つになった。
最早逃げ出そうとする村人はいない。いま自分たちを守護する存在の頼もしさを理解したからだ。
彼等でも守りきれないのなら、それは自分たちでもどうしようもないこと。
ならば最後の瞬間まで、やるべきことを。
そんな決意が、伝播していた。
◇◇◇
やがて一行は、山岳に築かれたシェルターの前へと到着する。
それは鉱山化されてない小山をくり抜くようにして築かれた、魔導鉄製の鉄の箱だ。
ワルキア王都のものとは当然比べようもない規模のものではあったが、ここにいる村民と騎士団を収容するには十分すぎる大きさ。
一行はそのなかに逃げ込み、内部に備蓄された医薬品や、回復術を使える者の力で治療を開始した。
「う、うぅ……やっと手足が動くようになってきやがった」
「グレア、大丈夫?」
「そこらの騎士連中よかな……」
治療を受け、苦痛に顔を歪ませながらも話せるようになったグレアに、フィアーが声をかける。
彼はある程度回復したが、他の騎士たちはまだまだ満身創痍。グレア自身の自然治癒能力の早さが為せる技だろう。
「それより、「ヘパイストス」が来たんだよな」
痛む身体に触れながらグレアは尋ね、フィアーはそれに頷く。
「うん、エメラダさん達が。多分……船ごと来てるんじゃないかな」
「へ、ぜってぇおっさんにどやされるなぁ……」
ぼやくグレアの表情は、その内容に反して嬉しそうな顔をしていた。
なにせ最愛の家族が、窮地に助けに来てくれたのだ。その喜びも頷けるというものだ。
おそらく、グレアが帰したエリンが自分達の置かれた状況をヘパイストスの面々に伝えたのだろう。
よく考えれば、当然だ。
グレアは砂賊団「ヘパイストス」の主力も主力、専用機持ち。
そんな彼が好き勝手にフィアーたちに着いてきて、そのままにしておくはずもない。
「ボクは外に出て通信ができるかどうか、様子をみてくる。皆はここで待っていて」
フィアーはそう言い、一人でシェルターの外にでる。
ヘパイストスがきたなら、グレアの状況も説明せねばと思ったからだ。
先程まで通信は使えなかったが、今なら回復しているかもしれないと思ったからだ。
通信を阻害していたのは例の、魔樹から伸びた木の枝だろうとフィアーは推理していた。
それらをエルザが手筈通りに焼き切っていれば、必然通信も復活しているはず。
その考えのもと、フィアーは騎士団から借りた通信機を操作して、交信を試みた。
端末表面の画面に表示された術式起動の表示枠をタップし、起動をさせる。
だが、その瞬間。
<警告:体内魔力に深刻な汚染を確認>
医務室の魔力測定器でもみた、不穏な警告文が表示される。
「……」
だが、今はかまっていられない。
フィアーはその警告を無視して、操作を続行する。
幸いにして汚染されているものでも魔力としては認識されているらしく、術式は正常に起動した。
そしてフィアーが登録されているいくつかの回線から、騎士団専用の通信回線を開くと、読み込み中の表示が浮かび……数秒で、声が聞こえた。
『―――とにかく、俺らヘパイストスはあんたらを援護する。グレア達がいったほうにも、俺らの部隊を向かわせている』
フィアーは開いた瞬間聞こえた声は、つい最近に聞いたことのあるものだった。
そして「ヘパイストス」、「俺らの部隊」という言葉。それらを符合させ、フィアーは声の主がガルドスであると確信する。
「あ、ガルドスさんと赤鳳の皆、聞こえる?」
発した言葉のあと、一瞬の沈黙が広がる。
そしてすぐに。
『ふ、フィアーさん!?無事だったんですね!よかった……!』
『おぉ坊主、久しぶりだな!』
『え、砂賊のおっちゃんあいつとも知り合いなの?どうなってんの?』
『フィアーさん、キ、キュイさんは無事なんですか!?騎士団のみんなは』
『あぁそうだ、馬鹿グレアもいんだろ、あいつも―――』
一斉に、声が大音量で響いた。
懐かしいような頼もしいような。
そんな万感の思いと共にフィアーは苦笑いで耳を抑えつつ、声色をそのままに告げる。
「一斉に叫ばないで……みんな無事だよ。グレアさんもすぐに動ける状態じゃないけど、だいじょうぶ」
通信越しでもわかる、一同に安堵が広がる感覚。
それを肌で感じつつ、フィアーは次に、聞くべきことを聞く。
「それで、皆は無事?リアは―――」
『――――っ』
「え」
確かに、聞こえた。
それは息を呑む声だ。
だが、どうして。
ボクはリアの現在の状況を、安否を聞いただけだ。
最愛の義姉を、自分を家族だと言ってくれた人を。
その安否を気遣うことに、なにかおかしいことがあるだろうか。
フィアーはそう疑問を抱きながら、改めて質問をする。
考えない、考えたくない。
自分は何にも、思い至ってなどいない。
「あの、テミス……リアは無事?今、どうして―――」
『っ、リアさんは』
『確認中、確認中なのですがその、リアさんが……』
『敵に、攫われた可能性が』
「―――は?」
手から、通信機が落ちる。
信じられない言葉だった。
信じられない事実だった。
……信じたくない、現実だった。
どうしてリアが。
戦闘に参加してるはずもない、赤鳳騎士団の面々も健在ということはアティネになにかがあったわけでもない。
だというのに……どうして?
「戻らなきゃ」
思わず、駆け出す。
ここから艦船の泊まっている平原まで、どれほどの時間がかかるだろう。
否、そんなことは関係ない。
今の自分にできる、最速最短で向かうことが大事だ。
間で戦闘が起きていたところで、知ったことか。
「リア―――!」
そうしてフィアーは、リアが居たはずの場所へ向かって、走り出した。
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