第四章13話:討伐 - lust of Queen -



 ブランとテミスが会話を繰り広げている、ちょうどその頃。


 先程まで「ペルセフォネー」と通信を接続していた赤鳳第一部隊の専用戦闘艦「アティネ」。そこで艦長ら騎士達が戦闘を指揮する最中、フィアー達もその戦いの行方を見守っていた。


 通信を終え、一拍。

 そこにいた面々のなかで、最初に口を開いたのはリアだった。


「テミスの正装、初めて見たけど……本当にお姫様って感じだったなー!」


 そんなリアの何気ない会話。それは一見、空気が読めていない能天気なものにも思えたが……その実、緊張の糸を解そうという意図があった。

 それに艦橋の人々も気づき……そして、温和な笑顔をもって受け入れる。


「……」


 ―――しかしそれに対してただ一人、フィアーだけは上の空な様子だ。


「?、フィアー?」


 リアの声にも見向きもせず、彼の視線は真っ直ぐに戦場へと向けられていた。

 戦いを繰り広げるマギアメイル達と魔物。その一進一退の、いつ誰が死んでもおかしくはない命の奪い合いへと。


「どしたの、フィアー?」


「え、あぁ……」


 ……再度かけられた声に、ようやくフィアーは反応する。

 その顔は、すこし暗い。

 表情のまったく変わらなかったフィアーの顔が、不安と焦燥がないまぜになったかのような、そんな顔になっていたのだ。


「……ずっと、リアもこんな気持ちだったのかな」


「え?」


 その変化に気付いたリアが二の句を継ごうとしたと同時に、フィアーは静かにそう呟く。

 リアはキョトンとして彼を見る。そしてフィアーは傍らの空席に、倒れるように座りこみ、浮かない顔で続けた。


「心配、なんだ、グレアやエルザさん達が……マギアメイルで、魔物達と戦って。もしかしたら、命を落としてしまうかもって」


 ―――それは再三、リアが彼に訴え続けていたのと同じ不安だった。

 これまで彼は『無銘ネームレス』、『騎士ナイト』、『騎士応急式メイクシフト』、そして『異訪者ストレンジャー』と様々な機体に半ば成り行きで搭乗し、無茶を繰り返してきた。

 もちろん命を落としもせず。無事に事態を解決して。

 それはある種、彼にとって自負のようにもなっていたのかもしれない。戦いに向いたこの身体なら、リアを守れる。そんな驕りにも似た、自信を抱いていたのだ。


 だが……それが全て綱渡りの奇跡によって切り抜けられてきただけだということが、目の前の光景から改めて、理解できてしまった。


 <敵が、多すぎる!ぐ、うぁ!?>


 <後退しろ!迎撃は我々に引き継ぎを、お前たちは一旦整備へ!>


 <くそ、赤鳳の英雄様とあの傭兵はまだ帰ってこないのか!>


 <機体の腕が、腕が―――>


 <騎士様、ここは我々が!>


 <義勇軍の!?まて、迂闊に前に出ては!>



 ―――数多の悲鳴と怒号、そして咆哮。


 それは戦場というものの本当の恐ろしさを、ありありとフィアーへと報せた。

 独断専行ばかりで、他のマギアメイルとの通信など結ぶべくもなかったフィアーにとっては、聞いたこともなかった世界。

 そのなかに―――彼の知り合いが、彼を守ってくれた騎士達が、彼を切り札と信じて着いてきてくれた義勇軍の面々が。

 艦で、街で、様々な場所で出会った人々が、一様にして命のやり取りへと身を置いている。


 そう思うと……フィアーは、飛び出すこともできなくなってしまった。


「もしも、誰かが居なくなったら……そう思ったら、なんか」


 ―――それは本来、当たり前の不安だったのだ。


 誰かが命を喪うのがこわい、誰かに死んでほしくない。

 今まではその一心で、恐怖を捨て去って衝動によって戦いを続けてきた彼。けれど、本人がその無鉄砲をよしとしていても、周りは気が気ではない。


 特にリアは……自分を家族にまでしてくれたリアのその心労と心配は、自分のそれとは比ではないのだろう。

 それを知った気で、尚無茶ばかりをしていた自分は、なんと愚かだったことか。


 そう思うと、フィアーは申し訳ない気持ちで一杯だった。ただでさえ、先の一件で迷惑をかけとおした後だというのに……また改めて、自分の無鉄砲さと、その罪深さを自覚してしまう。


 そんな反省と自己嫌悪の連鎖。

 誰もが、自身を責める権利がある。命さえ取られたとしても、仕方がないくらいに。

 そう思い込んでしまうほど、彼の心中は黒い感情に染め上げられていたのである。



 ―――だが。




「大丈夫だよ、フィアー」


 少女の声が、彼のドス黒く染め上げられた心に……一点、白い色を溢す。


「え……」


「大丈夫」


 席についていたフィアーの頭を、リアはゆっくりと撫でる。

 その手の仄かな温かみ、確かな熱に……フィアーは、この世界の生というものを、改めて実感する。


「みんな、ちゃんと帰ってくる。フィアーがそうだったみたいに……絶対!」


 その声に顔をあげると……前にあったのは、最愛の義姉の明るい、爛漫な笑顔。

 ―――あぁ、それを見ると、自身の心が洗われる気がする。

 真っ白く……などとは行かなくとも、灰色くらいに。そう……自身の髪や、『異訪者』のように、銀色に。



「うん……そう、だよね」




「分かった、信じて待とう。みんなが帰ってくるのを……」


 だから彼は決めた。

 本当に、心から……改めて。


 リア・アーチェリーを、心から親愛なる家族……自身の、本当の姉のように想うと、強く。




 ◇◇◇



 燃え盛る炎は、その壁を、床を……洞窟の一切を焼き払い、迫り来る敵を灰と還した。


 そのなかで『海賊偽装式フェルシュング』と『戦乙女バルキリエ』―――グレアとエルザは―――最早僅かとなった第二陣の敵を一掃し、洞窟の只中を進んでいた。


『そろそろ、終点かな』


 エルザは機体の索敵術式盤を眺めながら、そう呟く。

 外部との通信術式は魔力濃度の関係かできないが……簡単な索敵、調査くらいならある程度は可能なのだ。

 薄い魔力の波を発し、それらが接触、反射した地点から地形を認識する。それはさながら、イルカの反響定位と同様の機構だ。


 そしてその調査の結果、二人はついに洞窟の最深を感知した。

 それはなかなかに大きな大広間のようで、そこにいる魔物の強大さも知れるというもの。

 そんな、強敵の存在を前に……グレアは目を輝かせながら呟く。


『どんな奴がいんだろうなァ、強ェやつだといいが』

『もう君ってばそればっかだね……はぁ、男の子ってみんなそうなんだなぁ』


 エルザは、なにか懐かしむような含みを持たせながらグレアに語りかける。

 それに対して彼は、逸る気持ちを抑えきれないように語る。


『たりめェよ!敵は強けりゃ強いほどいい!……ま、あの白い騎士より強いのなんて、そうはいねェだろうが』


「白い、騎士?それって―――」


 グレアがつい漏らした「白い騎士」という言葉。それに彼女……エルザが疑問を抱き、質問をしようとしたその瞬間。



 <大型敵性体:検知>


 二機の操縦席内部に、警告音と共に表示板が出現。強大な外敵の存在を、彼等へとけたたましく報せる。


「―――居た、この先!」


 二人はそのまま機体を加速し、見えた広間への入り口へと突入する。

 彼等はそのなかへと侵入し……周囲を見渡す。


 ―――そこは、大空洞。

 壁際には数多、出現した魔物達の物と思しき卵と、その殻が並ぶ。そしてそれらは魔鉱石のごとく淡く、紫に輝いて洞窟内を照す。

 だがその地面に、魔物の姿はない。


 エルザがそれに疑問を抱き、天井へとその視線を動かした瞬間。



『……おいおい、なんだあの馬鹿でけェ虫ケラは!?』


 グレアが先に気付き、驚きの声をあげる。

 天井。そこからぶら下がっている、異物へと向けて。


『な……』


 <…………>


 ―――そこに居たのは、広間の半分を埋めつくさんとする大きさの、巨大な蟻……のような魔物だった。

 その下腹部は過剰に肥大化し、内部から怪しく蠢く紫の輝きが漏れる。それが内部に数多生成された卵によるものであると、彼女らが気付くのにそう時間はかからなかった。


 <…………!!!!!!>


 瞬間、蟻の魔物、その女王が呻き声をあげる。

 それはおよそ蟲のものとは思えない、獣のような咆哮。

 そしてそれと同時に―――下腹部が開口し、内部の卵が地面へと吐き出された。


『うえ、きんもッ!?』


 さしものグレアも、この光景には狼狽えたような声をあげる。

 粘液を纏った大量の卵は、地面に撒き散らされる。

 ―――そして次の瞬間には、それらは幼虫の姿を飛ばし、地上を埋め尽くしていた蟻と同じ成体の姿を取って、誕生する。

 そしてそれらは自身らを纏っていた殻を瞬く間に食い尽くすと、集合して……今度は共食いを始める。


 見ると、喰われているのは主に成虫になりきっていないような白い身体をした魔物だ。

 その光景から、エルザは事の異常性を改めて認識する。


『彼等、無理やり成虫にされてるの……?』


 本来卵から孵った魔物であれば、その元となった生き物の生態を模倣して幼虫からその生を受けるはず。

 だが、あの魔物―――「女王」は、そこに無尽蔵の魔力を注ぎ込み、強制的に成虫へと変態させているのだ。

 その結果、生育不良となる個体が当然発生する。そしてそれらは他の個体の餌となり、腹を満たした蟻たちは進軍を開始する。


「……な」


 そこまでエルザが気付いたところで、「女王」にまた異変が現れる。

 ―――先程収縮していたその下腹部が、再び巨大化しているのだ。

 そしてそのなかには、また幾つもの紫光。

 それが再び生成された卵によるものと気付くのに、そう時間はかからなかった。


『いったい、どれだけの魔力を……!』


『―――なら、産まれる前に潰しゃいいだけだァッ!』


 瞬間、グレアが仕掛ける。

 機体背部の放力板が展開し、そこから粒子状に魔力が放出される。

 そしてそのまま手の槌を大きく振りかぶった『海賊偽装式フェルシュング』は、その瞳を発光させ術式を起動。


 すると、機体前方に巨大な魔方陣が展開。

 グレアはそこに向けて、全身全霊で巨大槌を撃ち込む。


『―――オォラァッ!!!!!』


 ―――瞬間、槌の着弾したのとは反対側の魔方陣から、巨大な波紋状のエネルギーが放たれる。

 これぞ、グレアが遠距離戦用に編み出した技。

 銃器をもつことに抵抗のあった彼が至ったのは、その打撃を遠くへと伝達するという発想。


 即ち、打撃武器による狙撃である。


 グレアの莫大な魔力を受けて放出された、空舞う波紋の打撃。それは産み落とされんとする蟲達を無惨に擂り潰しながら、一直線に女王の腹部へと突貫していく。


 ……だが、それが女王に着弾しようとした、その瞬間。


 <―――――!!!!!>


 女王から、まるで獣のような咆哮が響く。

 それはおよそ、蟲のものとは思えぬ不快感を伴った絶叫。


『な―――』


 さしものグレアも、それには驚きを隠せない。

 だが……その驚愕の源は、絶叫だけではなかった。



 ―――破砕術式による波紋が、女王の前に霧散したのだ。

 それが着弾時に起こす筈だった、破壊的エネルギーの衝撃。だがそれは彼女に被害を及ぼすよりも前に、分解され……そして、彼女の腹中へと修められていく。



『っ、アイツの腹、魔法を吸収すんのか!』


 グレアは思わず舌打ちし、その手の槌を構え直す。

 女王のいるのは巨大な空洞のその天井。

 殴りにいくにも、少し距離があるほどの高度だ。

 とはいえ、マギアメイルでそこに飛んでいくのは簡単ではある。

 ……その筈だったのだが。


『くそっ!』


 飛翔した、グレアの『海賊偽装式』。

 だがその前を―――再び、大量の蟻が妨害する。

 そのうち何割かの蟻型魔物は、羽根が生えているタイプ。ともすれば蜂にも見えるそれらは、グレアの飛翔に合わせるようにしてその前方に躍り出て、その侵攻を妨げる。


『近付けない……、配下の数が、多すぎる!』

 その前には衝撃波も、炎も1手足りない。

 攻撃のほとんどは産み落とされた魔物によって掻き消え、僅かに着弾した攻撃もその腹部の甲殻に触れた瞬間に吸収されたのだ。


『でもこれ程の数、あの女王さえ駆除すれば総崩れになるはず!どうにか……!』


『……1個、案がある!援護しろ!』


『ちょっと、グレアくん!?』


『行け、偽装縋!』


『そんな、武器を!?』


「海賊偽装式」の手から、巨大な槌が一直線に飛翔する。まるで弾丸の如き勢いは、そのまま空を切り、宙を走る。

 そしてそれは、やがて女王蟻のその体……開いた口から魔物湧き出る腹中へと突き進み。


 ―――呑み込まれた。


『食べられちゃったけど!?』


 その奇天烈な行動に、思わず目を剝くエルザ。

 しかし、術式によって映し出されたグレアの表情を見て、それ無鉄砲な破れかぶれでなく、勝算のある最善手であると確信する。


 腹部へと丸々呑み込まれた槌。

 しかしその内部と、外部……「海賊偽装式」とを繋ぐ術式接続は途切れてはいない。汚染の有無に関わらず、そこに魔力が満ちているのならば……グレアの手から発される操作は、相違なくその媒体へと届けられるのだ。


『計画通り!……さぁいくぜ』


『偽装、解放』


 <……!????>

 瞬間。

 腹部に受けた不審な衝撃に、女王蟻は怪訝なうめき声をあげる。

 それは決して致命傷になるものではなく、殊更気にするようなものですらない。腹部のなかで成体と化した無数の子らが暴れるのに比べれば……それこそ、小さな虫にでも噛まれた程度の、微細な異常でしかない。


 だが。

 それを見落としたことこそが、彼女にとって明確な……致命傷と化す。


 接続の維持を確信し、グレアは……その手から、膨大な魔力を発し叫んだ。

 その詠唱、起死回生の逆転の一手を起動するの為の音声を。




『―――<破砕術式>ィ!!!!!!』



 ―――その声が、発された瞬間。

「海賊偽装式」の内部から膨大な魔力が放出され、それは機体の手を離れた武器にさえ伝達されるほどの強大な指向性でもって魔物の腹部へと伝えられる。

 魔物の腹部では、その外装を解き放ち―――本来の姿を取り戻した彼の獲物が、魔物の海に揺られながら現存している。


 そこに魔力が灯る。

 槌から、錨へ。現れた刃のその先端から、光り輝く魔力が現れていく。

 その光はみるみる、破壊力を伴った乱気流が如き圧縮魔力へ転換し、その三日月状の形状を顕とする。


 そして。


 <――――――――――――!!!?!!!!!!?>



 耳を裂くような叫びと共に、魔物の腹が引き裂かれる。

 光の刃が、無数の爆発を伴い切り開く腹中。

 それは展開に巻き込まれ、コアを破壊された魔物の子らの断末魔。それをも力と変えて……グレアの起こした衝撃波は、彼等の母、女王へと確かな致命傷を刻み込んでいった。




「内側から、魔力の刃で……!」


 これに驚いたのはエルザだ。

 彼女も柔軟な思考をもった部類の戦士ではあるが、それはあくまでも騎士のなかでのこと。

 だからこそグレアの放つ、砂賊流とも呼ぶべき、「魔物が身近な外界で考案、洗練された」戦法には度肝を抜かれざるを得なかったのだ。


 そんな彼女に向け、落下してきた槌……否、錨を背負いながらグレアは言い放つ。


「呆けんなよ騎士さん!道は開いた、後は奴の身体んなかを焼き払ってやってくれ!」


『、えぇ!』


 エルザは彼の声にハッとし、直様その武器を構える。

 魔力を内包する宝石、それをふんだんに刀身へと利用した斧槍。

 そこへと魔力を流し……エルザは、静かに詠唱した。


『―――焔の鉾よ』


 刹那、機体の足元から紅焔が顕現する。

 それは機体全身を走り、背部で一瞬鳥の片翼を模してから……『戦乙女』の手を伝い、斧槍の先端へと定着する。


『万象一切、あらゆるものを焼き払わん―――!』


 瞬間、焔が増大する。

 巨大な刃と化したそれが、刻一刻と苛烈になっていくなか……エルザはそれを伴い、機体の背部から圧縮魔力を放出し、飛翔する。


『はぁぁぁぁぁッ!!!』



 ―――隻翼の炎鳥が、天を衝く。



 <!?!?!?!!!……!>


 グレアに切り開かれた腹中を、炎そのものと化した『戦乙女』によって焼き払われ―――そして、その脳天をも刺し貫く。


 エルザは天井付近へと離脱した機体から、倒れゆく女王を見下ろし……その状態を確認。

 ……まだ、息がある。

 そう確信したエルザは、その勢いを殺さず―――落下の勢いすら利用し、破壊されなお原型を保つ頭部の、その隙間から除くコアに向けて必殺の一撃を放った。


『これで、とどめッ!』



 コアを貫かれた女王蟻は、もはや声をあげることもなく。

 代わりに無数の粒子を血のように噴出させて……絶命、消滅を始めた。

 甲殻は崩れ落ち、その形を原型留めぬ魔力の光へと置換され……そして、やがて完全にそこからいなくなる。


『お見事ォ!』


 その光景を眺めながら、周りの蟻達を牽制していたグレアは称賛の声をあげた。

 そしてそれと同時に……地面を張っていた何百、何千の蟻型魔物たちも、その姿を光へと変えていった。


 つまりは、地上に溢れかえっていた虫達も。


『子供達も、どうやらあの女王蟻が無理やり魔力で維持していたみたいね……』


 その確信と共に、エルザは呟く。

 彼女の意識は、分かりきった増産のメカニズムになど向いてはいなかった。

 問題は、どうして小さな蟻型魔物の女王風情が、それほどの力を得たか、だ。


『それほどの力の、根元は……』


 エルザの駆る『戦乙女』の視線が、洞窟の天井へと差し向けられる。

 そこにあるのは、女王が齧りつくように縋り付いていた基部。

 本体を固定するため、蝋のようなもので埋め尽くされたその先には……明らかに、洞窟の外壁とは違う、有機的な材質だ。


 そしてその正体に、先に注視していたエルザより先に、グレアが気づく。


『―――なんだありゃ、木の根っこか?』



 そう、それは木の根。

 紫色の外皮で判然としなかったが、その枝分かれした繊維状の器官から、それが根であることは疑いようもなかった。

 エルザとグレアはそれにゆっくりと近づこうとする。


 だが……そのとき。


 ―――木の根が、消失する。


『お、おい!引っ込んでったぞ!?』


 まるで、綱を引かれるように。巨大な根は穴を残しながら急速に後退していく。

 そして遅れて、崩落が始まる。

 まるでその根が全体を支えていたかの如く。支柱を抜かれた家屋のように、徐々にその外壁が軋み、崩れ始めたのだ。


『あれが……トールくんの言っていた……』


『撤収するよ、グレアくん。……早く反乱軍を止めないと、これじゃあ魔物の被害まで拡大しちゃうかも』




『何がなんだかだが、おう!』



 ◇◇◇


 こうして騎士と砂賊……二人のエースは、混迷の戦場を後にする。


 やがて二機は、母艦へと帰投した。地上に蔓延っていた魔物たちは一匹残らず光と消え、残されたのは手負いのマギアメイル達のみ。

 この戦いでは死者は奇跡的に出なかったが……装備、物資の損耗は激しく、反乱軍討伐に影を落とす結果となったのは確かであった。


 それでも、彼等は進む。

 大陸の南端、巨大な森林の只中に築かれた先史の遺跡。

 ―――反乱軍達の拠点とする、『トゥルース遺跡』、へと。

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