第2.5章「船上の団欒」
後話:鎮圧 - beginning of the End -
デリング大砂漠での一件が解決した丁度その頃、ワルキア領北部でのグリーズ公国とワルキア王国の戦闘もまた、決着が着こうとしていた。
―――それも、ワルキア側の圧勝によって。
辺りに散らばる『
その腹部は何か鋭いものに貫かれたかのように大きな穴が開いており、操縦席も原型を留めてはいない。
もはやグリーズ公国侵攻部隊の兵力は、全体の40%を切っていた。
グリーズの正規軍人の一人―――指揮官と思わしき服装の男は、その惨状を前にもはや狼狽を隠しきれない様子であった。
「おい……おい!」
指揮官は声を荒げ、近くにいた観測員の胸ぐらを掴み怒鳴り散らす。
「ワルキアのマギアメイルは飛び抜けた性能のものはほとんどなく!圧倒的な兵力差で事に当たれば打倒は可能だと、そういう話だったなァ!?」
その形相は正にヒステリック。
気圧された観測士は怯えつつも、なんとか問いに返事をする。
「は、はい!訓示ではそのように伺っておりましたが……」
―――出撃前に聞いた作戦では、このような状況になるはずではなかった。
第一陣に配置された重装仕様新型マギアメイル『
そしてすかさず出撃した第二陣にて残存部隊を迎撃しつつ、適度に時間稼ぎをする為消耗戦に持ち込む。
『
だがその連中にはフェルミほどに規格外の者は居ない上に、先の魔龍戦役による損害によりマギアメイルの数が足りていないと思われる為、こちらに関しては既存戦力の物量で問題なく抑え込むことができる。
そして消耗戦を繰り広げているその隙に、別動隊が手薄となった王都を襲撃―――と、勝ち目は十分にある作戦であった。
「大体、あの
そう、『
「は、はい……それはもう滞りなく……」
六機の『
結界内部に『
そしてその後に敵の掃討を行い、問題なく勝利の美酒に酔いしれる予定だったのだ。
「では何故ッ!?このように我々がこうも無惨に、一方的に!掃討されているのだ!」
―――だが、その目論見は脆く崩れ去った。
『
―――後に分かったことだが、これはワルキアの技術者エンジ・ヴォルフガングによって開発された世界初の射撃特化型にして最新の量産型マギアメイル『
かくして『
結界の内側から現れ出た『
「そ、それは……」
―――観測士が言葉を紡ごうとしたその瞬間、紅い双光が観測士の瞳に映った。
見えるは巨大な鎧の影だ。
それに怯える観測士の姿に、訳もわからずに怒りのあまり詰め寄る指揮官。
だが背後からの異音に、流石の指揮官も事態を把握し、遂には振り向いた。
『―――見つけた』
そこにいたのは、龍のような意匠を持つマギアメイルだ。
―――
そしてその乗機、『
その外見は既存のマギアメイルとは似ても似つかない。
おそらくフリュム領にあるという遺跡からの出土品を基礎にして設計されたのであろうその姿は、鋭利にして優雅。
そんな恐怖と敬意を同時に抱くような姿のマギアメイルが、目前に立ち尽くしていた。
「ひ、ひぃぃ!?」
突然現れたその姿に、指揮官は腰が抜けたようにその場にへたりこむ。
最早逃げることすら思い付かない。
それほどまでに、彼のメンタルは追い詰められていた。
『キミがこの部隊の指揮官かな?』
「わ、ワルキアの、白騎士……!」
指揮官が口にした言葉を聞いた瞬間、操縦席のフェルミの口許から笑みがこぼれる。
およそ、先程まで数十機のマギアメイルを屠っていたとは思えないほどに無邪気な表情を浮かべながら、彼は目前の敵と向かい合う。
『おや、僕の異名も知れ渡っているのか。これは光栄だね』
『……まぁ、あからさまに僕への対抗策を講じてきていた時点で分かっていたことではあるが』
そういうと、フェルミは『
『大人しく投降するのなら、命は奪わないけれども、どうするかな?』
その言葉に、指揮官の顔がみるみると紅潮する。
―――これは、これ以上ないほどの侮辱だ。
自分はグリーズの正規将校。凡百の兵士や、薄汚い傭兵連中とは違う、云わば選民だ。
そんな自分が、何故こんな小僧に情けを掛けられなければならないのか、と。
「だ、誰がァ!貴様らなんぞに……」
―――だが次の瞬間、指揮官の乗る指揮車両の隣に停車していた別の車両が、『龍騎士』の手にしていた大槍に貫かれた。
『―――あぁ御免、聞いていなかった』
爆散する車体と、遅れて聞こえる悲鳴。
指揮官の足はもはや恐怖で言うことを聞かなかった。
奥歯はガタガタと震え、その瞳からは一筋の涙。
「ひ……」
『どうする?』
――最早彼に、選択肢は残されていなかった。
「と、投降、します……!」|
その言葉を口にした瞬間、『
『よろしい、では全軍への武装解除の命令を』
「は、はい……!」
指揮官はすごすごと、無線で術式による命令伝達を行う。
これで、グリーズの兵士達のほとんどは戦意を喪失して投降することだろう。
かくして丸一日に及んだ戦闘は、グリーズ公国側の降伏によってその幕を閉じた。
ワルキア側の損失マギアメイルは11機。
それに対し、グリーズ側の損失マギアメイル数は94機にも及んだのであった。
◇◇◇
『フェルミ様、付近の敵残存マギアメイルの武装の放棄を確認致しました』
副官であるフィーリエからの通信を受けて、フェルミは操縦席の中で伸びをする。
「ふぅ、ようやく一息つけるね、フィーリエ」
三日間に及ぶ戦闘で一息も休む暇がなかったフェルミにとっては、久方ぶりの気を抜ける時間であった。
『ただ、気になる情報が』
「?、なんだい?」
『どうやら、彼らには別動隊がいたようでして、デリング大砂漠を横断してワルキア王都の襲撃を目論んでいたようなのですが……』
あぁそれなら、とフェルミは口にする。
「それは予想通りだね、確か赤鳳の第一部隊が警戒に当たっていたはずだ」
その話題は円卓会議でも出ており、結論として
赤鳳の第一部隊といえば、あの将来有望の少女騎士、エルザ二等騎士が隊長を勤めている隊だ。
魔龍戦役で共に肩を並べて戦ったフェルミには、彼女の実力は手に取るようにわかる。
そこらの傭兵風情に負けるような器では決してない。
だが、フィーリエが口にした問題は、フェルミが考えていたものとは大きく外れたものだった。
『それなのですが、どうやらその別動隊と連絡が取れないと彼らが言っておりまして……』
グリーズの傭兵達と連絡が取れない。
それだけなら、取るに足らないことだ。ただエルザ達に撃墜されており、連絡が取れない。
それであれば当然といえるだろう。
―――だが、それは連絡が取れなくなったのが今日であるなら、の話だ。
「―――ちなみに、連絡が取れなくなったのはいつだと?」
『昨日の朝……
昨日の朝。
その時間は、まだお互いに接敵すらしていない時刻であり、
何故、そんな時刻に彼らは連絡を絶ったのか。
そうフェルミが思案を始めたその時、操縦席のコンソールに一通の報告書が送付されてきた。
見るとそれは
フェルミはその内容に目を通す。
<デリング大砂漠に立方体状の異質な黒い構造体が出現、調査隊の編成を求む。>
実物を見ていなければ、全く映像が脳裏に浮かばないその報告書。
そこらの指揮官が読んでも、眉唾として全く取り合わないであろうその報告。
―――だが本文を読み終わったその瞬間、フェルミは堰を切ったように笑いだした。
「……あははは!そういうことか!」
『フェルミ様?』
その様子をフィーリエはきょとんとした様子で見つめる。
「なるほど、なるほど……となると、そこで起こった顛末も粗方は予想がつく」
誰にともなく、フェルミは呟き続ける。
そうしてひとしきり一人で納得をすると、フィーリエの『
「さぁフィーリエ、そろそろ僕らも動こうか」
フェルミはその顔を、歪んだ笑顔に染めながら告げる。
「―――「強欲」の魔龍に続く
―――こうして腹に一物を抱えた白騎士は、その秘めたる計画を推進し始める。
その全貌は未だ明らかではない。
副官であるはずのフィーリエさえ、そのすべてを知らされているわけではなかった。
だが、その思惑だけはしっかりと、フィーリエにも伝わっていた。
そうしてフェルミは、空に向けて宣告をする。
これから自身が為す偉業を、世界を創った者たちへと捧げることを。
―――さぁ、世界の粉砕を始めよう。
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