第33話 モブキャラだってデュエルくらいする1

トレーディングカードゲーム、というものをやったことはあるだろうか。

一般的には販売されている専用のカードを用いて行うカードゲームのことを言う。

遊○王、デュエ○マスターズ、ヴァン○ード、マジックザ・○ャザリングなど最近では様々な種類が楽しまれている。

もちろん俺も過去にハマったことがある。

アニメで登場したカードを引き当てるために何度もパックを買いあさったものだ。

だがその情熱も小学校高学年ほどで冷めていき、中学生になると「この歳になってまでやってるのダサくない?」と言う風なイメージが子供たちの中に生まれ、どんどん辞めていく。

そして時が経ち、部屋の整理をしているときに発見するものすごい量の紙くずを見て「なんでこんなものに金を使ってしまったのだろう・・・」と後悔するのだ。

しかし、仲には例外もいる。


「モブオ君!デュエルしようよ!」


そう、カードショップの前で誘ってくるこの男「武藤 遊一」だ。

ヒトデのような髪型をしており、髪の色は赤、黒、金と部分部分によって分けられている。

背丈は小柄で見た目は気弱そうな男の子だ。

年齢は俺と同い年で高校2年生、首からシルバー☆と金色の気持ち悪い目玉の飾りをつけたピラミッドのアクセサリーをぶら下げている。

見た目はとてもファンキーでクレイジーだが、中身はとても優しい子だ。

趣味は先ほどの一言で分かるようにゲーム、特にカードゲームが好きらしい。



「いや・・・俺カード持ってないよ」

「大丈夫!大丈夫!俺のカード貸すから!ね!」

普段は気弱なのだが、ゲームのことになるとものすごくグイグイ来る。

学校の授業が終わり、家に帰ろうと下校していたところ、近所のカードショップから出てきたこいつにばったり出会ってしまい今に至る。

個人的には早く帰りたいのだが・・・キラキラした目で誘ってくれるの無碍に断るのもなぁ・・・


仕方ない、さくっとやってさっさと帰ろう。


「わかったよ・・・ところで何のカードで遊ぶんだ?」

さっきはとっさにカードを持っていないと言ったが、そういえば何で遊ぶのか聞いていない。

「ふふふ・・・それはね・・・」

遊一がゴソゴソとカバンからカードの束を取り出し、こちらに見せ付けてきた。

「この最新カードゲーム!『遊戯帝 デュエルマスター ヴァンガードエディション』だよ!」


なんだこのとてつもないパチモン臭は・・・

有名なカードゲームを適当に繋げた感がすごい。

「へ・・・へぇー、そんなカードがあったんだ・・・全然知らなかったよ」

「そうだろうねー、このカードまだ発売したばっかりだし、結構マイナーな会社から出てるから」

「へぇ・・・なんて名前なんだ?」

「えっと確か・・・そうそう!『KONMAI』だ!」


会社名もパチモン臭いし、そもそもその名前ダメだろ・・・・

というかどっからこんな地雷臭のすごいカードゲーム見つけてくるんだ。

これは嫌な予感がする、なんというか少しプレイするだけで突っ込み疲れそうな・・・そんな嫌な予感が。

どうにかやらない流れにできないか・・・


「あー、でも今からルール覚えられるかな・・・なんかカードの名前からして複雑そうだし・・・」

「大丈夫!大体のルールは遊○王と同じだし初心者にもわかりやすいよ!」


いやそれは別の意味でダメだろ。

やっぱりパチモンのクソゲーっぽいぞ。

俺のガッカリ具合とは反比例し、遊一のテンションは上がっていく。

「このカードゲームのすごいとこはね!現代社会の人物や社会問題をキャラクターとして描いているとこなんだ!他のゲームでは味わえない独特な世界観がたまらないんだよ!」

「へ、へぇー・・・そうなんだ・・・」

「特にこのカードなんてすごいんだよ!」


とても楽しそうに語る遊一を見ると、今から断るのはできない。

覚悟を決めてカードの説明を聞こうとしたそのときだった。


「フハハハハハハ!そんな雑魚カードを集めて満足しているのか遊一よ!」

「こ、この声は・・・山馬君!?」

高笑いと共に1人の男が現れた。

背は高く180センチ以上はあり、整った顔立ちや纏う雰囲気から裕福であることがわかる。

髪型は頭部中央が少し長めのマッシュルームヘアーの様な髪型をしており、色は茶色だ。

また、首に「YC」という形をしたネックレスをつけており、服もいかにも高そうなものを着ている。

そして何より態度がデカイというのが一番の特徴だ。

「えっと・・・彼は知り合い?」

「うん・・・彼は山馬瀬人・・・山馬コーポレーションの社長で世界的に有名なデュエリストなんだ」

なぜだろう、この設定どっかで聞いたような気がする。

「前にカードで勝負して以来何かと突っかかってくるようになってね・・・でもおかしいな・・・前はキャベツみたいな色の髪だったような気がするんだけど」

「なるほど・・・たぶんそれ以上は考えないほうがいいぞ」

こいつはどうやら粘着質なタイプのライバルキャラらしい。

俺が勝手に納得していると山馬が偉そうにしゃべり始めた。

「フゥン・・・この様子では来月から始まるデュエル大会で勝つのは俺のようだな!」

「・・・山馬君・・・勝負はやってみなければわかんないよ・・・」

「フ・・・そこまで言うなら今この場で前哨戦といこうじゃないか!」ドン☆

山馬が言い放ったその瞬間


ピカッ☆っと遊一の首にぶら下がっている悪趣味なアクセサリーが光りだす!

「・・・」

「遊一・・・?」


明らかに様子がおかしい。

遊一は目をつぶったまま立って動かない。

心配で肩に手をかけようとしたその時


「ククク・・・いいゼ山馬・・・・俺がその勝負受けてやる!!」ドン☆


先ほどまで気弱そうだった遊一が、強気な俺様系男子に変わっている。

まるで別の人格に入れ替わったようだ・・・そう・・・まるで古代エジプトの王様のような男に。

「すまないな・・・モブオ・・・どうやら一緒にデュエルするのはまた今度になりそうだぜ」ドン☆

「いや・・・別にそれはいいんだけど・・・」

「フゥン・・・ちょうどいいそこのモブ男!この戦いの見届け人となれ!そしてこの俺の勝利を語り継ぐがいい!!フゥッハハハハハハハハハ!」ドン☆

「え?いやちょっと」

「いくぜ!山馬!」ドン☆

「来い!遊一!」ドン☆


「「デュエルスタート!!」」ドン☆



為す術なく始まってしまった突然のデュエル、とりあえず俺は一番気になっていることを声高々にツッコむことにした。



「さっきから語尾についてる『ドン☆』って何!?」

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