ep3

「レイワード! 大丈夫か!?」


 ナインスの声と共におでこの上に冷たい感触。


「... ...ナインス? ここは?」


「ああ。ロベルトの家の中だ」


 聞き覚えのない名前を聞いた直後、背後から聞き覚えのない男の声が聞こえ。


「お・おきた? めし、飯、く、食うか?」


 飯という単語に釣られた訳ではないが、動物的なスピードでその声の方向まで目を向けるとそこには身長190㎝はあるのではないかと思うほどのクマのように大きな男が天井に頭をぶつけないように中腰の姿勢で立っており、自身の手の平に皿のような物を乗せ、こちらに差し出している。

 髪はボサボサで髭も伸びきった状態でまるで本当に獣のような風貌。

 ボロボロではあるが革製の靴と民が着ている麻で出来た服を身に纏っていたので人間だと認識出来たくらいだ。

 そんな人間から食べ物を恵んで貰うほど私は落ちぶれていない。


「い・いや、結構______」


 そう言いながら右の掌をその大男に向けた直後に。

 ぐう~。と腹の虫も起床。

 目の前に差し出されている皿をのぞき込むと湯気が立っており、良い匂いが鼻から伝わり、私の口の周りは牛のようにビチャビチャになっている。

 

「く・食わないのか? じ、じゃあ... ...」

 

 大男が目の前に出した皿を後ろに引っ込めようとした瞬間_________。


「いや、食わないとは言ってない。ありがたくいただこう」


 と自分の意思に反して口元から言葉がついて出た。

 それから、その大男から皿を受け取るとまるで野良犬のような食べ方で皿に残った汁も舌で器用に舐め、そこにスープがあったとは思えないくらいに皿を綺麗にし、私は今の状況を知ろうと大男に自己紹介を試みた。


「順序が逆になってしまって申し訳ない。私は国で兵士をしており、今は王の命により黒い壁の調査をしているレイワードと申します」


「... ...ろ・ロベルト」


 小さな椅子にチョコンと座るロベルトという大男はまるで身長こそは違えど、その容姿は昔話などに出て来るドワーフそのもの。


「そうか。ロベルト。君に二三聞きたい事があるんだが... ...」


「なーに。二三聞きたい事があるだよ! 穴に潜ってたロベルトにビビッて失神しちまったクセにカッコイイ言い回しで質問するなよ!」


 ナインスは暖炉の火に身体を近づけ温めながら私をからかう。

 まあ、ナインスの発言はあながち間違いではない。

 だが、私は言葉の訂正も咳払いせずにナインスの発言を無視してロベルトに質問を続けた。


「黒い壁を揺らしていたのは君か?」


「あ・ああ」


「ふむ。では、どうやって、あの今までビクともしなかった壁を揺らす事に成功したんだ?」


「ど・どうやって?」


 私の質問攻めに頭の回転がついて行かなくなったのか。

 ロベルトは右手でボサボサの髪の毛を触りだした。


「どうって体当りしたからに決まってんだろ! そいつの体見てみろよ!」


 ナインスは温かな場所から出て来ず、言葉だけを投げかける。

 体?

 確かにロベルトは兵士でもそうそういないような恵まれた体躯をしている。

 しかし、弓や大きな風でもビクともしなかったあの壁を体一つで揺らせるか?

 私はナインスの言葉に半信半疑だった。


「ロベルト! 服脱いでみろ!」


「う・うん」


 ナインスがロベルトにそう指示を出すと言われるがままに服を脱ぎだす。

 ちょっと待て、ナインスとロベルトは会って一日も経ってないだろう。それなのにまるでもう主従関係のような関係性になっているのはどうしてだ?

 確かにナインスは口が上手いし、強引だ。

 しかし、そうだからといってこの大男が従うのか?

 色々と詮索していてるとロベルトは全て服を脱ぎ、生まれたての姿に。


「______!?」


 が、ロベルトの体は生まれたての姿とは似ても似つかないほどに異様な姿をしていた。


「ロベルト!? 何だ!? その両肩の傷痕は!?」


 両肩は何度も壁に打ち付けたからか血が出ては固まり、出ては固まりを繰り返し、まるで爬虫類の皮膚のようにゴツゴツとしており、それは実際に触れなくても分かった。


 他にも彼の体は足や腰。

 至る所がそのような状態。

 まるで拷問を長年受け続け、体中が酷使されてきたと言わんばかり。


「凄い体だな... ...。こんなの体、千の戦をしないと出来ないぞ... ...」


 別に私はそういう趣味ではないが、男としての本能からかロベルトの体に見惚れてしまう。

 そして、次いで出てきた言葉は。


「何故そうまでして壁に当たり続ける?」

 

 この少年のような質問に対して、ロベルトがどのように回答するのか。

 私は幼い頃に大人に話して貰った異国の戦士や冒険者に向けるようなまなざしを目の前の大男に向けたが返って来た言葉は期待外れのものだった。


「わ・分からない」

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