[4] 転換
南方戦域の「城塞」作戦は北部戦域よりも順調に推移していたが、攻撃の主力を担う第4装甲軍は早くも攻略方針の転換を迫られる形となった。
7月7日、第48装甲軍団の第11装甲師団(ミックル少将)と「大ドイツ」装甲擲弾兵師団はペナ河沿いのスルツェヴォ付近で、第1戦車軍の第3機械化軍団(クリヴォシェイン少将)との激しい戦闘に巻き込まれた。ヴァトゥーティンが弱体化した第3機械化軍団を強化するため戦略予備を投入しようとしたが、第3機械化軍団は大きな損害を被り、ペナ河から撤退を始めた。
「大ドイツ」装甲擲弾兵師団はスルツェヴォ東方の230・1高地に迫ったが、高地の陣地帯に敷設された第六戦車軍団(ゲットマン少将)のT34によって前進を止められてしまう。「大ドイツ」装甲擲弾兵師団に投入された200両の「パンター」は甚大な損害を被り、この日が暮れた時点で、戦闘可能な「パンター」は40両に減少していた。
7月8日の夜、「大ドイツ」装甲擲弾兵師団はペナ河上流に沿って、スルツェヴォ北方のヴェルホペニエを占領した。ここで、第48装甲軍団長クノーベルスドルフ大将は新たなジレンマに直面した。このままオボヤンを目指して北進を続けた場合、延びきった西翼をどうやって防御するかという点だった。
ペナ河上流の西岸には、すでに第6戦車軍団をはじめとする強力な反撃力を持つソ連軍部隊の存在が確認されていた。そこで、クノーベルスドルフは「大ドイツ」装甲擲弾兵師団と第11装甲師団に対し、翌9日の攻撃目標としてオボヤン街道の要地である260・8高地の占領を命じた。この高地を確保した段階で、「大ドイツ」装甲擲弾兵師団を西へ進出させ、ペナ河西岸のソ連軍を掃討する。西翼の掃討が終えた時点で、「大ドイツ」装甲擲弾兵師団はただちに北進させる予定になっていたが、その掃討がいつ終了するのかまでは判然としなかった。
第2SS装甲軍団の戦区では同日、ヴォロネジ正面軍の限定的な反撃が実施された。この反撃には第5親衛軍の第10戦車軍団(ブルコフ少将)、南西部正面軍の第2戦車軍団(ポポフ少将)が投入されたが、部隊間の協同が取れぬまま反撃を実施し、ドイツ軍の装甲部隊によって各個撃破されてしまった。
第2SS装甲軍団の先鋒を担う第1SS装甲師団「LAH」はテテレヴィノから北進し、プショール河から南に4キロほどの地点にあるグレズノエに到達した。当初の予定から2日遅れて、ようやくプショール河を渡河する目処が立つ位置に前進したのである。
7月9日、第4装甲軍司令官ホト上級大将は頑強なソ連軍の抵抗を鑑み、オボヤンを経由してクルスクに至るという当初の方針を変更し、プロホロフカからクルスクに向かう攻勢案に修正した。そのため第2SS装甲軍団が西方から、ケンプ支隊が南方からプロホロフカを圧迫する旨の命令が下された。
時を同じくして、モスクワの「最高司令部」はステップ軍管区を正面軍に改編し、麾下部隊を前線に投入するよう命じた。すでにヴォロネジ正面軍の麾下に移された第5親衛戦車軍(ロトミストロフ中将)はプロホロフカ北方に向かっており、部隊により250~400キロもの距離を移動していた。
7月10日、ケンプ支隊は第3装甲軍団の第19装甲師団(シュミット中将)がビエルゴロド正面の第168歩兵師団(シャール=ド=ボーリュー少将)と連携して、第81親衛狙撃師団へ総攻撃をしかけた。この総攻撃に対し、ソ連軍は第96戦車旅団を投入して抵抗を続けたが、ついに拠点であるスタルィ・ゴロドを放棄して北東へ撤退した。
7月11日、第3装甲軍団の第6装甲師団(ヒューナースドルフ中将)は今まで遅れを一挙に取り戻すように、ルジャヴェツで北ドネツ河の橋頭堡を確保した。この橋頭堡はプロホロフカから、直線距離で約15キロの地点にあった。
第2SS装甲軍団では先鋒に配置替えされた第3SS装甲師団「髑髏」がこの日、プショール河に橋頭堡を確保した。この時点で、第2SS装甲軍団の稼働戦車台数は作戦開始当初の451両から、121両にまで減少していた。稼働戦車は3分の2まで低下していたが、損失の多くは一時的な故障による脱落であり、全損車両はわずかしかなかった。
第4装甲軍がプロホロフカに迫る中、その北方に第5親衛戦車軍が集結しつつあった。プショール河沿いの第3防衛線を突破されると、ヴォロネジ正面軍の後方には防御設備が劣悪な陣地しか残されていなかった。第3防衛線の突破を防ぐため、第5親衛戦車軍の総戦車台数はこのとき、約800両に達していた。
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