エルリーク暗殺指令・中編

◆登場人物紹介+前編のまとめ◆(エルリーク暗殺指令中編)

※エルリーク暗殺指令前編までの登場人物と話の流れのまとめです。

※エルリーク暗殺指令までのネタバレを含みます。

 また、シリーズにおける前夜の話である「シャルル=ダ・フールの暗殺」の重要なネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。



【登場人物紹介】


+いつもの人たち

◇シャー=ルギィズ

三白眼に癖毛長髪の長身痩躯の住所不定無職。本作の主人公。

その正体は国王シャルル=ダ・フール。エルリーク総司令による時間稼ぎ考案した張本人であり、自らがそれを隠し持っている。


◆リーフィ

酒場の看板娘兼踊り子。無表情かつ不愛想だが悪気はない。訳ありの出自から薬草についての知識が豊富。非戦闘員だが、いざという時は意外とやる子。


◇ゼダ(ウェイアード=カドゥサ)

通称ネズミ。悪徳商人カドゥサ家の御曹司。子供の頃助けられたかつての海賊緋色のダルドロスに思い入れがあるらしく、この事件に首を突っ込むことになる。


◇ジャッキール

流れの傭兵。経歴年齢不詳。通称ダンナ。かつての通称名はエーリッヒ。いわゆる戦闘狂。かつて成り行きで助けたメイシア=ローゼマリー捜索中に旧知のリリエス=フォミカの罠にかかったがどうにか生還。


◇ザハーク=ウロボロス=ハイダール

通称:蛇王へびおさん。サギッタリウスの異名を持つ傭兵で、リオルダーナ人。メイシアとジャッキールの関係を知っており、彼自身もメイシアと関わりがあり、実は気が気でない。



 +

◆メイシア=ローゼマリー

賞金稼ぎの少女。かつてジャッキールに助けられ、彼に師事したことがある。彼のことを隊長として慕っているが、その思慕を利用された。襲撃事件後は行方不明。



+七部将

 

◇アイード=ファザナー

赤毛に頬に刀傷のある青年。ザファルバーン七部将の一人で、ジェアバード=ジートリューの甥。ザファルバーンの全水軍を司るが、本人の性格は穏やかで家庭的。人がいいだけの頼りない男だと思われていたのだが……。シャーにはカワウソと呼ばれている。


◆ゼルフィス

アイードの副官である切り込み隊長。からっとして血の気が多い美青年に見えるが、実は男装の麗人。アイードのことは大将と呼んでいる。



◇ハダート=サダーシュ

諜報と策略を司る銀髪の二枚目。七部将の一人。シャーには蝙蝠とか呼ばれている。ジェアバードとは親友。東方出張中であるが、こう見えて王都とシャーのことはまじめに心配している。


◇ジェアバード=ジートリュー

最大の軍閥ジートリュー一族の惣領。七部将の一人。アイードの叔父にあたる。ファザナー家は厳密にはジートリュー一門に入っている。ハダートと共に東方出張中であるが、何やら甥の過去について思うところがあるらしい。


◇カルシル=ラダーナ

七部将の一人。無口な男。シャーとは彼が幼少期から仕えており、彼をよく知る一人。シャー曰く「七部将最強の男」。彼の部隊は精鋭ぞろいであるが、それゆえに少数。


◇ゼハーヴ

七部将の一人。七部将のまとめ役であり、近衛兵など親衛隊をまとめたり、宮殿を担当する。口うるさい為、ほかの七部将からは敬遠されがちだが必要な存在。


◇デューアン

七部将の一人。最高齢。穏やかな人物。北方の守りについている。


◇カンビュナタス

七部将の一人。最近代替わりしたばかりの将軍で、一番年齢が若い。西方の守りについている。



 +王宮

◇カッファ=アルシール

現在の宰相であり、シャルル=ダ・フールの後見人。シャーを育てたのは彼であり、シャー=ルギィズとして彼を養子縁組した形跡を持つ。シャーとは親子関係のようなものであるが、そこに主従関係が絡むため、ややその感情はお互い複雑。


◇レビ=ダミアス=アスラントル

先王セジェシスの養子であり、シャーの血のつながりのない兄。病弱な人物だが、政治力はある。シャルル=ダ・フールの影武者を務めており、彼の苦手とする政務関連の決裁も行っている。周囲からは彼を「陛下」、シャーのことは「殿下」で呼び分けができているらしい。 


 

 +リリエス一味


◇リリエス=フォミカ

暗殺などを取り扱う組織を束ねる人物。中性的な人物で、ジャッキールには昔から執着があり、彼を罠にかける。毒薬の扱いに長けており、自分が調合した「紅月の雫」なる薬をジャッキールに投与していた。


◇白銀のネリューム

通称ネロ。リリエスの部下の白髪の青年。顎鬚がチャームポイントな大柄の青年。シャーと互角に戦う実力を持ち合わせるが、言動は無邪気で幼い。


◆青蘭のアーコニア

通称ニア。リリエスの部下の少女。無邪気なネロとは対照的に明確に悪意を持って行動している。薬で操ったつもりのジャッキールに反撃され、プライドを傷つけられた模様。



 +海賊たち


◇緋色のダルドロス(ダート=ダルドロス)

かつて太内海たいないかいで暴れまわった海賊。当時は義賊という噂だったが姿を消し死亡説がある。今になって王都に現れたとの噂が立つ。


玄狼げんろうのターリク

ダルドロスの右腕。理知的な黒髪の二枚目だが血の気も多い。現在、ダルドロス本人でなく彼が対応している。ダルドロスを唯一「兄貴」と呼ぶことのできる男。


◇アーノンキアス

西方の要衝アーヴェを支配した大海賊ラーゲン配下の海賊の頭目。ダルドロスとは浅からぬ因縁がある。ターリクと共に、ジェイブ=ラゲイラにより人員を王都に運んだ様子。



 +王侯貴族


◇ギライヴァー=エーヴィル=アレイル・カリシャ=エレ・カーネス

先王セジェシスの義弟で、先王朝カリシャ家の血を引くが素行不良で有名な殿下。実は肖像画家の一面もあり、一度描いた人物の顔を記憶する能力がある。何故か、紅月の雫の解毒剤をシャーに渡す。


◇キアン

ギライヴァー=エーヴィルの側近。生真面目な青年。


◇ジェイブ=ラゲイラ

先王朝派の古参大物貴族。以前、国王シャルル=ダ・フールの暗殺未遂及びクーデター事件の黒幕だった男。現在ギライヴァー=エーヴィルのもとに身を寄せ、王位簒奪を計画している。穏やかながら油断のならない男。かつて主従関係だったジャッキールを厚遇したことがあり、彼が離れた今でも思い入れは深い。それは彼の死んだ令息と関係するようだが……



◆サッピア

先王セジェシスの妃。女狐と称される野心高い悪女。ギライヴァー=エーヴィルとは派閥が違うが、ラゲイラの争乱に協力しあわよくば政権簒奪を目指している。


◇リル・カーン=エレ・カーネス

サッピア王妃の息子でセジェシス王の息子。現在王位継承位は二位。平たく言うとシャーの弟。母の悪行に心を痛める心優しい少年。とある一件からシャーのことを兄のように慕っており、またジャッキールに弟子入りしている。


〇極彩獣ごくさいじゅう

サッピアの抱える暗殺諜報を司る集団。彼らの幹部は色と獣の暗号名で呼ばれる。実務を司るクロウマ、荒事担当のシロウシなどがおり、今回はシロウシが中心に動いている。




【エルリーク暗殺指令・前編までのおさらい】


 東方で起こった騒乱を静める為に、七部将による防衛の主力のジェアバード=ジートリュー将軍と諜報を司るハダート=サダーシュ将軍が派遣された。


 残りの将軍のうち、デューアン将軍とカンビュナタス将軍は、国の北方と西方を守っている為動けない。その為、親衛隊を抱え宮殿内部を守るゼハーヴ将軍、少数精鋭型のラダーナ将軍、数は多いが陸戦を得意としていない水軍を司るアイード=ファザナー将軍の三人で守ることになるが、明らかに王都が手薄になる。


 東方での騒乱は、かつてシャルル=ダ・フールを暗殺しようとした旧王朝系貴族の大物ジェイブ=ラゲイラの細工によるものであり、それは彼が再び戦乱を巻き起こそうとしているのだという予兆でもあった。

 

 その為、シャルル=ダ・フールは、七部将と自分の間を取り持ち、有事、七部将麾下の将兵に直接の命令を下せる臨時の総司令職をおくことにした。名ばかりの総司令ではあるが、ジェアバードとハダートが帰京するまでの時間稼ぎであった。


 しかし、まだ政権は権力をかためきれておらず、七部将の一人の権力を高めることは、彼らの中のバランスを崩してしまうことでもあった。また、判断力が必要となる為、軍人としての経験が必要である。


 それを加味して、シャルル=ダ・フールは、自身がそれを兼任することとし、総司令の印章のついた指輪を自分が持つこととした。

 だが、自身が兼任したことを公にすることも良くなく、また権力闘争の原因とならないように、架空の第三者である「エルリーク=ジャクィール」という外国人の軍人を作り、彼の名前で命令を発令した。


 先王の王弟ギライヴァー=エーヴィルのもとに身を寄せているラゲイラ卿は、即座にそれを実体のない総司令職だと見抜いたものの、国王の出方がわからないため、安易な行動を控えていた。そうしている内に、彼らにとってもライバルである先王の王妃サッピアが協力を申し出てくる。

 ラゲイラ卿は、おそらく印章はシャー=ルギィズと名乗る青年が持っているか、その計画に深くかかわっているのだろうと予測しており、サッピアの部下である暗殺組織「極彩獣(ごくさいじゅう)」に彼の情報を伝え、自らは計画のために動くことにした。実はラゲイラ卿は、すでに西方のアーヴェ市の海賊達と繋がり、自分の私兵をひっそりと王都に運び込んでおり、あとは相手の出方を確認し、実行を待つだけの身だったのだ。


 一方、王妃サッピアは、シャルル=ダ・フールにかつて手痛く懲らしめられ、先般暗殺未遂が失敗したこともあり、非常に慎重になっていた。その為、自らの部下である極彩獣(ごくさいじゅう)に直接シャー=ルギィズの暗殺を命じず、”下請け業者”を用意した。

 

 下請けとして王都に入ってきたのは、リリエス=フォミカという薬物に通じる東方出身の貴族であったが、彼は暗殺なども生業とすることで知られていた。東方で傭兵をしていたころのあるジャッキールは、彼と旧知であったが、リリエスは彼の特性を面白がり、なにかと執着していた。彼はシャー=ルギィズをおびき寄せ、自分の好奇心をかなえるために、まず、かつてジャッキールが成り行きで助け、生活を共にしていた奴隷娘であるメイシア=ローゼマリーを見つけ出す。賞金稼ぎとなっていた彼女に、シャー=ルギィズを狙うように依頼。ジャッキールの王都滞在を知ったメイシアは、彼に会いたいあまり、リリエスと共に王都に入った。


 シャルル=ダ・フールのある意味では真の姿でもあるシャー=ルギィズは、ここのところ、嫌な仕事が忙しくて、なかなか酒場に遊びに来られていなかった。久々に仕事から解放されて酒場にいったが誰もいない。

 どうやら、リーフィとしたしい店長が開いている喫茶店に皆いるらしいと気づいたシャーは、そこに向かうが、途中でメイシアに襲われる。その特徴的な太刀筋がジャッキールのものと一致していることに気付いたシャーだったが、そのときは彼と彼女の関係に気づいてはいなかった。

 

 一方、ザファルバーン七部将の一人、アイード=ファザナーは、自分が王都防衛のかなめを任されているという重圧に耐えかね、コッソリ抜け出して、自分の経営している喫茶店でのんびりと過ごしていた。かねてから交流のあるリーフィや、近頃常連となっていたジャッキール、ザハークやゼダが過ごしていたが、そんな中シャーが現れ右往左往。


 シャーがメイシアとジャッキールの太刀筋の類似を指摘すると、ジャッキールは血相を変えて離席しザハークを問い詰める。かつてジャッキールはメイシアを可愛がっていたが、自身は傭兵であり狂気に身を沈めていた為、彼女と暮らすのがふさわしくないと知り、別れた過去があった。ジャッキールはメイシアを探しに行ってしまい、行方がわからなくなってしまう。


 一方、シャーは、アイードの副官の口から、海賊が王都に入り込んでいることを知った。彼らは王都の門の検閲をのけて人員を運んでおり、それが良からぬ者たちであることは明白だ。その海賊は「緋色のダルドロス」の名で、太内海で十年ほど前に話題になっていた男だという。その話を聞いたゼダは、幼いころ彼に救われ憧れたことを語り、ダルドロスは義賊であり、そのような悪事を働くはずがないと憤慨し、事実を調べるといって河岸の方に向かっていった。


 ジャッキールを追うシャーは、成り行きでアイードと行動を共にし、彼がメイシアを捜している場所を特定する。しかし、その時、すでにジャッキールは、メイシアを餌にしたリリエス=フォミカの罠に落ち、彼の調合した薬を盛られて錯乱状態に陥ってしまう。敵におびき出される形で、シャーはメイシアとジャッキールを追いかけて河岸に出向くが、錯乱したジャッキールは本能の赴くままシャーに剣を向けた。

  

 普段より荒い剣のジャッキールに、シャーは押され気味となり、ジャッキールはさらにはメイシアにも剣を向けるが、それを止めたのは乱入してきたアイード=ファザナーだった。アイードの機転により、リリエス一派はその日の襲撃をあきらめる。普段は穏やかで頼りない彼が見せた、別の一面に、シャーはある種の不気味さを感じるのだった。


 シャーはジャッキールから逃れきれず勝負をすることとなる。松明を使い優勢に立ったシャーだったが、情が捨てられず、ジャッキールにとどめを刺すことができず、逆襲される。しかし、一連の流れを見ていたリーフィにより、ジャッキールを何とか止めることができた。


 そんな彼らを見ていた先王王弟ギライヴァー=エーヴィルは、何故かシャーにジャッキールに盛られた薬「紅月の雫」の解毒剤を投げ渡す。リリエス=フォミカの真の目的が、シャルル=ダ・フールにその薬を盛り、心を狂わせることだと知った彼は、かつての自らの経験から、国王を狂わせた後の惨劇を回避するべく動いたのだった。


 ジャッキールに死んだ息子の陰を重ねながらも、非情に反乱の準備を進めるジェイブ=ラゲイラ、王妃サッピアの支援を受けて毒薬を操るリリエス=フォミカ、そして彼らを横目に見ながら嘲笑うシャーの正体を知る王弟ギライヴァー=エーヴィル。そして、運河にうごめく海賊緋色のダルドロス。

 

 エルリーク総司令の印章の指輪は、自分の作戦の甘さゆえにジャッキールを巻き込んだのだと、自責の念で落ち込むシャー=ルギィズの懐で眠っていた。

 

 +補足



◇国王派

 現国王シャルル=ダ・フールを支持する派。ザファルバーン七部将と先王セジェシスに近しい官僚を中心としている。国王シャルル=ダ・フール自身は決裁には関わるものの、公に姿を現すことはほとんどないこともあり、密室会議ではないかと批判されることはある模様(実務的には、例によって開かれた会議で決定された状態で決裁に上がっている)(ただし、軍事的な作戦に対しては、ほぼ七部将でまとめられており密室性は非常に高い)(なお、決裁について、通常のものはシャルル=ダ・フール義兄のレビ=ダミアス、軍事関連の重要なものはシャー本人が決裁している)

 現在は内乱からまだ権力を掌握しきっておらず、将軍たちの武力によって抑え込んでいる面が強い。その為、権力の均衡をとるのに難儀している。将軍たちの結束は強いが、彼らの力に依存している部分も大きく、一人でも欠けると防衛力が極端に下がってしまう。


◇王妃派

 先王の王妃の一人サッピアを中心とした派閥。サッピアの子、リル・カーンを擁立すべく動いており、前回の内乱の中心人物。内乱を平定したシャルル=ダ・フールにより幽閉されているが、何かと暗躍する。暗殺諜報組織「極彩獣(ごくさいじゅう)」や王都の暗黒組織のシャー=レンク=ルギィズ一派との関連が取りざたされるなど、地元古株豪族出身だけにつながりが強い。

 サッピア王妃は、シャルル=ダ・フールをことさらに憎んでおり、過去彼を何度も毒殺しようとしている。前回の内乱時にきつく戒められ、幽閉されている。

 ただし、王子であるリル・カーンは、兄シャルル=ダ・フールには協力的な立場。お忍びで出かけた際に、シャーと知り合っており、ひそやかに彼を兄ではないかと思って慕っている。


◇王弟派(旧貴族派)

 先王の王弟(義理)で先王朝カリシャの王子、ギライヴァー=エーヴィルを中心とした派閥。ギライヴァーの送り込んだ女が先王の子を産んでおり、彼が第五王子となっており、それを擁立すべく動いている。旧王朝の莫大な財宝を相続している為資産家であり、前回のシャルル=ダ・フールの弟ザミル王子による暗殺未遂事件についても、彼の資金が動いていた。

 ただし、素行不良のギライヴァー本人に王位簒奪の強い意志は見られず、争乱を楽しんでいるだけである。ギライヴァー自身というより、彼のアレイル=カリシャ家に連なる旧王朝系貴族たちによる派閥であるといえる。もともと、シャルル=ダ・フールを擁立したかつての大宰相ハビアスと対立していたこともあり、シャルル=ダ・フール自体に反目的。彼らのまとめ役がジェイブ=ラゲイラであり、彼が暗殺に失敗した後でも、彼を中心に結束が高い。

 なお、ギライヴァー自身は、シャルル=ダ・フールの顔を知っている為、シャーの正体に気付いているが、他者に口外していない。その思惑は不明。


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