4.メハル隊長

 砂煙る街中を、肩を落として歩くと、ちょっと切ない気分になる。

 確かに、いつもより人通りが少ないような気がした。真昼間だというのに、商人や買い物の女性の姿もまばらである。皆はやけに早足で歩いているし、どことなくよそよそしくていつもと違う街のようだ。

「まったく、……一体どうなってんだ」

 シャーはため息をついた。

「正直、オレにとっては死活問題だよ」

 事件一つで食い扶持を失うとは、結構地盤が脆弱かもしれない。シャーは、はあ、とため息をつく。

「仕方ない。今日は、安めのパンでも食うかなあ。うう、とりあえず、今日の食事をどうにかしないと、オレそのうちシャレでなく餓死しそう……」

 シャーは、顎をなでやりつつ、相変わらず猫背気味に足音を立てながら、街を歩いていたが、ふと誰かをみつけて表情を変えた。

 目の前を歩いていく一人の女性の姿をとらえたのだった。さらりとなびく黒髪に、しろい肌に切れ長の目。黒目がちなその瞳に、あまり感情の色は浮かばない。

「あ! リーフィちゃん、リーフィちゃん!」

 慌てて小走りに走りながら、シャーは、ばっとリーフィの元に駆け寄った。リーフィは、相変わらずの淡い色の服装で布をひらひらさせながら歩いていたが、振り返ってシャーに気付くと、リーフィの貼り付けたような無表情がわずかに変わった。

「あら、シャー」

 リーフィは、今日もわずかに微笑して迎えてくれた。ほんの少しだけ、薄い笑みをうかべるのが彼女らしい笑い方で、慣れると、冷たいような顔立ちにその微笑が妙に優しげに見えるようになった。ともあれ、シャーにとっては、そのわずかな微笑をみるのが、ちょっとだけ嬉しいのだった。

 そのために何となく彼女の酒場に通ってみたりしているところをみると、結局、いまだにちょっと彼女に入れあげているのかもしれないシャーなのである。

 ふと、リーフィは何かに気付いたように首をかしげた。

「今日は早いのね。どうしたの? 久しぶりなのに、お店に寄っていかないの?」

「うーん、それが、何かあれこれあって……」

 いいかけて、シャーは、何かに気付いたように心配そうな顔をした。

「リーフィちゃん。というか、大丈夫なの?」

「何が?」

 首をかしげるリーフィに、シャーは不安そうに言った。

「いや、ほら、街の中あれこれ騒ぎだっていうじゃない? そんなときに、女の子の一人歩きなんてさあ。夜だって一人で帰るんでしょ?」

「まあ、ありがとう。でも、私なら多分大丈夫よ」

 リーフィは、薄く微笑むとそういってうなずく。

(その根拠の無い自信はどこから来るんですか?)

 思わず言いかけそうになったが、何となくリーフィならそういいきってしまうのもわかる気がする。シャーは、その言葉を飲み込んだ。

「でも、あなたの方が私は心配だけれど」

 リーフィが不意にそんなことを言うので、シャーは目を輝かせた。

「えっ、何? オレのこと心配してくれたの? オレが襲い掛かられたら、なんて」

 リーフィは軽く笑った。

「あなたになんか襲い掛かったら、その人のほうが心配だわ」

「あらま、手厳しいなあ、じゃあ、何を?」

 シャーは苦笑する。

「どちらかというと、あなたがそういう話をきいてじっとしてられるのかしら、ってことのほうが心配だったのよ」

「ああ、そっち」

 シャーは、軽く髪の毛をかきやった。

「今のところは関わる気ないんだけどなあ。でも、まあ、正直、アレが関わってるっていう噂きいちゃったからちょっと迷ってるのよ。アレが本気で何かしでかしたら、証拠もなにも消されるよ」

「ゼダのことね」

 リーフィがそっと小声で言ったので、シャーは目でうなずく。

「聞いているわ。さすがに本当にカドゥサ家に関わったら、上の方でなにか処理されてしまって、結局捕まらないとは思うのよ」

 でも、と、リーフィは眉をひそめる。

「あの人がそういうことをするかしら」

「リーフィちゃんも、そう思うよね」

 シャーは、ため息混じりに言った。

「それなんだよねえ。あの男は無駄好きの好事家だから、やるにしたってちょっとやり口が違うような気がするんだよね。あんな手当たり次第、出会った人間殺すような真似をするのかな、と思ってさ。やり方が、こう、あのネズ公らしくない感じがするだろ?」

 シャーは、くるくるに巻いた癖の強い髪の毛を指先に巻きつけながらつぶやいた。

「本人は今どうしてるんだろうね、と聞いたところでわかんないよね。光の下にさらされてるのは、いつだってあの美形のにーちゃんのほうだし。アイツは平気で表にしゃしゃり出てくるくせに、常に日陰にいるような男だからな」

「そうねえ。でも、あの人、こういうことをきいて黙っていられるようにも思えないわね。今、何をしてるのかしら」

「どうせ、花街で浮名でも流してんじゃあなあい」

 口調とは裏腹に不機嫌な声に、リーフィは思わずくすりと笑う。普段、あまり自分の裏側は見せないシャーなのだが、ゼダに関しては少し私情を覗かせてしまうらしい。きっと、相性が悪いのだろう。シャーは相変わらず、ネズミとは仲が悪い。




 しばらく、リーフィと談笑しながら、シャーは道を歩いていた。まさか、昼間から何か起こることはないだろうが、シャーとしても心配なのである。もっとも、リーフィは、酒場で騒ぐ手下達と比べると恐ろしいぐらい落ち着いているようだったが。

 ふと、前のほうが騒がしくなった。リーフィになにやら冗談を言おうとした途端だったらしく、少々不機嫌そうな顔のシャーであるが、なにやら不穏な空気を感じた為か、怪訝そうな顔になった。

 道の一角に人だかりができていて、役人がそれを追い払っているようだ。

「シャー」

 リーフィが、そっとシャーの袖を引いた。

「そういえば、昨夜も何かあったみたいよ。そういう風に噂しているのをきいたわ」

「なるほど、ここで、ってこと」

 シャーは、苦笑いした。

「あの連中が恐がるぐらいには、近所で起きてたってわけね」

 シャーは、顎をなでやって一瞬だけ神妙な顔になると、リーフィの方を振り返った。

「リーフィちゃん。ちょっとここで待っててくれる?」

 リーフィは、わずかに首をかしげる。

「ほら、女の子を血生臭い現場に連れて行くのは、気が引けるからさ。オレがちょっと確かめてくる。ちょっと待ってて」

「そうね。あなたなら、何かわかるかもしれないわね」

 リーフィはそう答える。それをみて、満足げに笑うと、シャーはそのまま行こうとしたが、何か思い出したのかもう一度振り返った。

「でも、不埒な連中が来るかもしれないから気をつけて」

「大丈夫よ。慣れているから」

「……リーフィちゃんは、いろんな意味で手ごわいなあ」

 即答されたシャーは、苦い笑みを浮かべるしかない。じゃあ、と声をかけて、シャーは、人ごみの間にするりと紛れ込んでいった。

 その場は騒然としていた。その間を、どうにか沈静化しようと動く役人の姿が見える。ザファルバーンの警察権は、王直属の軍の一部が兼ねている。よって、彼らは一応軍人でもあるのだが、他の軍人達とは上司も違えば、部署も違うので、やや毛色が違う。

 野次馬もいれば、純粋に不安にとりつかれているものもいるし、憤慨しているものもいる。一応彼らは殺された男を調べているのだが、野次馬を全く鎮められないらしく、調査どころではないらしい。

「ほら! どこかにいけ!」

 そう声はかけてはいるものの、そのぐらいでどうにかなるものではない。役人達が困惑した顔で、どうしたものかと時折顔を見合わせる。皆若いものが多いところを見ると、或いは入ったばかりなのかもしれない。

「ったく、何をとろとろしてるんだ!」

「メハル隊長」

 突然、怒号は響き渡り、色の黒い精悍な顔の男が、仏頂面のまま走ってくるのが見えた。隊長といわれているとおり、彼は階級が高いらしい。服装を見ても、すぐにわかった。

「とりあえず、野次馬をどかせ!」

「は、はい!」

 命令されてようやく本腰を入れ始め、役人達は、野次馬達を追い出しにかかる。わあわあと騒ぎになるのをみやりながら、メハルは、頭を抱えた。

「全く。少し留守にするとコレだ。で、アレか。殺されたのは男だったな?」

「ええ、酒場帰りの酔っ払いのようですが」

 騒ぐ声が少しずつ遠くなるところを見ると、どうやら野次馬達は少々押されているようだ。やればできるのにやらない部下達を思い出すと、メハルは頭が痛くなる。

 メハルの前には、黒い布がかけられた昨日事件の犠牲者が横たわっていた。それを一瞥するまでもなく、メハル隊長には事情は飲み込めていた。メハルはため息混じりに聞いた。

「またか?」

「はい、同じ手口ですね。また腕利きの仕業です」

「チッ、何人殺れば気が済むんだ! で、何かわかったのか?」

 苛立ちながらきいてやると、横にいた部下は少々焦る。

「そ、それが、何も……!」

「何も? オレが外に出ている間に何か調べがついているはずじゃないのか!」

「そ、それが、相変わらずなものでして」

 たらたら額に汗をかく部下を見やりつつ、思わずメハルは、天を仰ぎたくなった。そもそも、これぐらい自分がいなくても、あれこれ対応できるはずのことだ。野次馬のこともそうである。

「まったく!」

 メハルは憤慨しながらはき捨てた。

「オレが来ないと何もできんのか! もっと柔軟に対処しろといつもいっているだろうがっ! オレは、近くの村の鍛冶屋殺しのために出張してたんだぞ!」

「す、すみません。しかし、隊長がいないと我々何をやっていいやら」

 弱気にそんなことを言う連中を見ると、さらにいらだつ。メハルは平和ボケしすぎな部下達を一喝する。

「がーッ! お前達という奴は! もっといい補佐をつけるように今度うえに頼んでおく!」

 野次馬は、とりあえず、メハルの勢いもあってか、少々下がっているようだった。ともあれ、まずは調査をして、この遺体を運んで、と、支持しようとしたメハルは、ひく、と口元を引きつらせた。

 いつの間にか、側に見知らぬ青い服の男が忍び込んできていたのである。

「こら! 貴様あ! 誰がこっちにきていいといったあ!」

「うお!」

 癖のつよい髪の毛の男の首をつかんで、メハルはそのまま持ち上げる。そして、部下達を再び一喝する。癖っ気の三白眼といえば、間違いなくシャーなのだが、さすがにいきなり後ろからつかまれたので、一瞬逃げ場がなかったらしい。持ち上げられて、逃げるに逃げられない様子のシャーをちらりと見てメハルは言った。

「誰も近づけるなといったのに、なんでこんな不埒な輩が忍び込んでいるんだ!」

「あ、あれ、い、何時の間に……」

 きょとんとしている部下達をしかりつけるメハルの手に、余計に力がかかる。シャーは、手を引きつらせた。大柄のメハルの力は、思ったより強い。

(し、死ぬ。これは、このまま、説教始められたら死ねる……!)

 シャーは、思わず焦って声をかける。

「あ、あのう。ちょっと、首があああ……!」

 だが、メハルはそれどころでないらしい。部下達が、真っ青な顔になっているシャーに目を向けているのにも気付かず、ひたすら説教を始める。

「貴様らがぼーっとしているから何でもかんでも悪い方に転がるのだ!」

「あ、あの、首が絞まります。も、もうちょっとソフトに優しく……」

 大柄のメハルに、実質的に首を絞められながら、シャーは掠れる声で頼んでみるが、メハルはシャーのことなど見ていない。

「好奇心旺盛な町の連中を、近づかせたら、いろんな噂が出回ってとんでもないことになるんだと何度言ったら! こういうときは、まず周りを冷静に……!」

「す、すみません隊長!」

「わかっとらーん! ぜんぜんわかってない!」

 どうやら、メハルは、頼りない部下達に気合を入れるつもりらしい。がみがみと怒号を飛ばす彼は、次第にシャーをつかんでいる手に力を入れるのを忘れている。

 うまいこと力が緩んだので、シャーはそっとメハルの手をすり抜けて、さっとしゃがみこみ、遺体にかけられた布を少しだけめくって覗き込む。

(こりゃ、また随分……)

 犠牲になった男を哀れに思いつつも、シャーは思わず唸った。シャーから見ても、この男を殺した者は相当な腕を持っていると確信できた。そして、噂どおり、その剣の形状は、このあたりでは使われていないものだ。

「……これは……」

 シャーは、眉をひそめ、一瞬唇を噛んだ。少々真剣な顔になりながら、記憶を手繰り寄せる。

 これは、この地方で使われる剣でつけられた傷ではない。ふと、黒い影が目の前をよぎったような気がする。

(しかし、どう考えても、こんな芸当が出来るのは、あいつぐらい……)

「おい、貴様あ!」

「え、あ、はい!」

 怒鳴りつけられ、シャーは我に返ってそちらに目を向けた。出し抜かれたことも合ってかすっかりおかんむりのメハルが、腕を組んだままこちらを見下ろしていた。

「なにしてんだ。お前は」

「え、ええと……」

 シャーは、ひょこっと立ち上がり、メハルの視線におびえつつ、苦笑いした。

「し、知り合いじゃないかなと心配になったんです。そ、それで……」

「知り合いだったのか?」

 冷たい目で訊かれてシャーは首を振る。

「いいえ」

「だったら! とっととどかんかー!」

「す、すみません~。この辺で立ち去りますので!」

「全く!」

 シャーが、そろそろ逃げ出し始めると、メハルは軽く地団太を踏んだ。

「あーっ! 鍛冶屋事件の一件で解決できるかとおもったらこれかよ! お前らちゃんと見回りはしているのかーっ!」

「あ、い、一応は」

「一応じゃねーっ!」

 気弱で頼りなげな部下を一喝し、メハルは、悄然とする彼らを見下ろした。  

「クソッ! とにかくとっとと事件を解決せねば、ああいうろくでもない輩が、あることないこと言い始めるんだ! お前ら、わかってるなー! これ以上、事件が続いたら俺たちの恥だ!」

 部下達に檄を飛ばすメハル隊長を横目で見つつ、シャーはそろそろとその場を去る。

 と、シャーは、一瞬、メハルの腰を見やった。そこに刺してあるのは、ザファルバーンの軍隊にしては珍しい、両手持ちの反りのない剣のようだった。

 気にはなったが、とりあえず、この場はあの隊長さんに任せたほうがよさそうだ。シャーは、リーフィの待っている方に向かって小走りで戻り始めた。

 




 人だかりが何となく遠巻きになったせいで、リーフィも少し後ろに下がっていた。シャーはそこまで小走りに戻ってきた。リーフィは、相変わらずな様子で立っていたが、周りの騒々しさから見ると、彼女の周りだけ音が止まっているようだ。

「お帰りなさい」

「いやー、もうちょっと探るつもりだったんだけど、あの隊長さんがさあ」

 シャーは、髪の毛を指先でいじりながら、不満そうに言った。

「まあ、でも、大体何となくだけわかっちゃったけどね」

「わかったってことは、誰の仕業かわかったってことなの? ゼダは関わっていたのかしら?」

「いいや」

 シャーはあっさりと首を振った。

「アレはネズミの仕業じゃないよ。あの刀じゃあ、ああいう殺し方はできないからね。かなり重い、西渡りの諸刃の両手剣でやった感じだった。一日、二日使った程度じゃ、あんな芸当はできない。多分、一日二日振り回して斬れといわれても、あんなことはオレでも無理。相当な腕利きだよ、しかも、そういう剣をかなり使い慣れている奴でないと」

 そこまで話して、シャーは、あ、と声を上げた。思わず慌てて、リーフィに声をかける。

「ご、ごめんね、リーフィちゃん。こんなアレな話しちゃって……。気分悪くなったりしない?」

 リーフィは少しだけ微笑んだ。

「大丈夫よ。そんなに気をつかわないで」

「あ、うん」

 さすがにリーフィは気丈なところがある。それとも、かつて乱暴者の女だったリーフィは、そういった血生臭い場面を見慣れてしまったのだろうか。そう考えると、シャーはちょっとだけ痛ましいような気分になる。

「まあ、ネズミにしては無駄がなさ過ぎるからねえ。あの伊達男がやるなら、もっと派手で無駄なことが多いはずだし……」

「でも、ゼダじゃないとして、あなたは誰に見当をつけたの?」

「うーん、ちょっと心当たりがあるんだけどね。実際、この辺で、あんな剣をぶら下げてて、あれほどの腕前って言うと限られるからさ」

 シャーは、顎をなでやった。

「シャー知ってるの?」

「ん、まぁね。……あんまり、顔あわせたいやつじゃないけど……」

 シャーは、少々俯き加減ににやりとした。

「あのネズミとは違う意味で、ちょっとオレに似てるかな。背を突き飛ばされたら、奈落に一直線に落ちるっていう意味でね。幸い、オレは境界線の手前で、あっちはすでに境界越えて崖っぷちなわけだけど」

 そこまでいって、シャーはごまかすように渋い笑みを浮かべた。

「オレも、あんまりまともな人間とは言いがたいとこあるからね」

 そして、それを振り切るように、おどけたように振り返った。

「でもねえ、だからこそ、ちょっとわかるんだよなあ。アイツは、確かに、一回乱心したら何やるかわからない。そういうタイプだよ」

「つまり、シャーは、その人が何かのきっかけで殺しを始めて回っているって思うのね?」

 リーフィは一度瞬きする。

「確信はないけどね。アイツがここにきている証拠はないわけだしさ。でも、ちょっと目星はつけておきたい相手かな。それに、アレは、オレよりも背が高いし、目も引くから」

 そこまでいって、リーフィが黙ってこちらを見ているのに気付き、シャーは苦笑した。

「と、いっても。オレは別に関わるつもりじゃないんだよね。こーいうアブナイ橋なんて渡らないほうがいいわけだしさあ。アレも、正直、駆け引きナシならオレより強い相手だし……」

「シャー、あなた、結構嘘が下手ね」

 リーフィが、突然そんなことをいったので、シャーはやや慌てた。頭の後ろで組んでいた腕が外れる。

「いや、オ、オレは別にだねえ」

「その人に会いに行くんでしょう? シャー」

「いや、その……」

 ずばりといわれ、シャーは狼狽するが、リーフィは少々くすりと笑うばかりである。

「私だって、そろそろあなたと付き合いが長くなってきたもの。それなりにあなたのことは、わかってきたつもりなのよ。何か行動を起こす前のあなたは、目の色が違っているのよ」

「え、ええっ、嘘……。いや、そんなことは……」

 シャーは、困惑気味に癖の強い前髪をかき回したりしていたが、やがてため息をついた。

「参ったなあ。そんな簡単に図星さされるの初めてだよ。リーフィちゃん、洞察力結構すごいよね」

「そうかしら」

 リーフィは、少し満足そうに笑い、そして、ふとこういった。

「私も手伝えないかしら。情報を集めるのなら、私にもできるし」

「ええっ!」

 いよいよ、シャーは、本気で焦った。

「リーフィちゃんは危ないよ。相手は何するかわかんない奴だしさあ」

「シャー。私にだって、それなりに武器はあるのよ。ソレに大丈夫。最低限あなたの足は引っ張らないようにするわ」

 リーフィは、黒い瞳を上に上げてシャーを見やる。氷のように冷たいようで、どこか真摯な瞳に、シャーは思わず目をそらしそうになる。

「あなただけじゃあ、できないことだってあるでしょ? ね、私を協力させて」

「……ううう、そんな目でそういわれると弱い……」

 シャーは、額に手を置いた。これは反則だ、とシャーは嘆息をついた。おまけに、シャーの人生においても、女の子の方から協力してあげる、といわれたのはなかなかない。こんなに何の裏もなく言われたのは、下手すると初めてかもしれない。

 やはりリーフィはリーフィなので、そこに恋愛感情は絡んでそうになく、どちらかというと、これは相棒にしてくれ宣言のような気もするのだが、ともあれ、シャーはそういう好意には弱い。

「わ、わかったよ……。んーと、じゃあ、ちょっと協力してもらっちゃおうかなあ」

 シャーはあっさりと負けてしまって、半分しょげるような顔になりながらそういった。

「でもね、あんまり無茶しないでね。オレ、ホント心配しちゃうから」

「大丈夫よ。そんなに無茶はしないし、もし、本当に何かあったらあなたが助けてくれるんでしょう?」

 リーフィが、いきなりそんなことを言ったので、ちょっとだけシャーは嬉しい。にやけ顔になりそうなのをかくしつつ、時折きりりとしてみせながら、シャーはリーフィを覗き込む。

「そういわれると、オレ、調子に乗るよ?」

「でも、基本的に、私は無茶はしないから安心して」

 リーフィがまじめにそんなことを言った。多分悪気はないのだが、何となくシャーにはきつい言葉だ。

「そ、そう……」

 たまにはオレを調子に乗せて欲しいなあ、と心の中でつぶやきつつ、それでも、シャーは、やっぱり少しだけ嬉しくなってしまう自分に、何となく絶望するのだった。


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