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太陽の光で目が覚めた。頭が痛い。久しぶりに大量のアルコールを摂取したせいだろうか。ちらと横を見ると、テーブルの上は昨日のままだ。すべてが散乱している。わたしは起き上がるとベッドから足を下ろした。テーブルの上に紙切れが置かれているのに気がつく。
「帰るね。また誘ってよ」
それからいびつなハートマーク。何時までいたのだろうか、思い出せない。テレビの上を見ると、デジタルの時計は十時十二分と表示している。思ったほど遅くない。
それから部屋の片付けを始める。
ほとんどをゴミ箱へ。余分なものは必要ない。シンプルなのが一番だ。
部屋が片付いてからシャワーを浴び、軽く食事を採ると、十二時を過ぎていた。大学へ行く気力はない。今日大切な講義はない。一日くらい講義に行かなかったとしても、単位には関係がない。
ノートパソコンを取り出す。
勿忘草。
この色が好きだ。きっと誰も気がつかないだろうけど。小さな自己主張ほど心地のよいものはない。
下からポップが飛び出し、受信あり。メールが届いているようだ。立ち上げる。
「件名:ちょっとびっくり。本文:Tsutsujiです。結構知らない人が多いみたいだけど、この掲示板の目的から、地域が近い人が集まるようになってますからね。それで、あの新聞の報道はちょっと驚きました。だって、ちょうどうちの会社で、佐々木さんがプレゼンをした日のできごとでしたから。確か、管理システムのコンピュータ化に関する内容でした。こちらとしては、現状の問題点を指摘してもらうことが第一目的でしたので、非常に助かりましたが。が、まだN社には返事をしていないはずです。うちはまだ上場もできていない人材派遣会社です。Sて言うんだけど、知らないよね? ええ、無名ですから。名古屋駅から徒歩五分くらいの、Tビルのワンフロアが職場です。派遣なんで、本部は狭いもんなんですよ。協力できるか分からないけど、できるかぎりしていくよ。聞きたいことがあったら言ってね」
「件名:ありがとうございます。本文:助かります。翌日だというのに返事を頂けて。佐々木と一緒に来た女性が誰だかわかりますか?」
送信。
きちんと送信されたのを確認してからパソコンを落とす。それからカーテンを閉めると部屋を出た。当然鍵はかかっていなかった。
地下鉄を乗り継ぎ、ユイのアパートへ向かった。名古屋駅から四つほど離れた地下鉄の駅で降りる。ここから遠くない。近くに高架が通っていて、車通りも激しい。わたしはその脇道を歩いた。きっと今頃は仕事だろう。N社はここから駅一つ離れている。電車は使わずに通っていると言っていた。地下鉄の駅一つくらいなら、歩いてでも行ける距離だ。当然だろう。
アパートの造りはしっかりとしている。それなりに高級だと思う。少なくとも、わたしの学生アパートと比べるまでもない。三階まで階段で上がると、わたしは部屋の前に来た。表札はない。鍵を差込み、わたしはドアを開けた。
きれいに整った部屋は、わたしのシンプルさとは違い美しいと思う。ユイの性格がよく出ている。わたしは、ベッドの脇にある机にあるノートパソコンに気がついた。
立ち上がったままで、桜の花が舞うスクリーンセーバーが動いている。不思議に思い、わたしは椅子に座るとマウスに触れた。
瞬時に画面が切り替わり、メモ帳が現れる。
「まったく、Yu-kiは、全然大人しく待っていられないのね」
まるでわたしがここに来ることを予期していたかのような書き出しだ。それに掲示板でも注意された。
「でもそんなユウキがわたしは好きよ。信じて。わたしはあなたのことを今一番に思っているわ。それは佐々木なんて相手じゃないほど。まあ、あれでも結構な重役でね、しばらく仕事が忙しくなると思う。それでね、ユウキに一つお願いがあるの。下にある携帯にそこの部屋から電話して」
メモの一番下に、十一桁の数字が並んでいた。
「どこに繋がるかは、掛けてからのお楽しみ。それでね、その人にだけ、わたしたちの始まりの場所を教えて欲しい。うーん、怪しいわね、この書き方は。ユウキの意思に任せるわ。もしも、わたしがこのまま消えてしまったとしたら、わたしの予感は合っていたってことだから」
そこで文章は終わっている。わたしはキーボードを打ち、ユイに一言だけ残した。それからコンポの隣にある受話器をとると、十一桁の数字を打ち込む。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル。
数回の着信音の後、相手が出た。
「はい、
「えっ!」
「
「は、はい、そうです」
「そうですよね。今前田さんは会社におられるはずですから。どうされましたか?」
「あの、まだユイの疑いは晴れていないのですか?」
「ええ、残念ながら」
「えっと、今仕事中ですよね。お話があるのですが」
「重要なことですか?」
「はい。でも、まだ整理ができていません」
「どこかで落ち合いましょうか?」
「……いいえ。ユイの部屋は分かりますか? パソコンに残しておきます。鍵は、外の植木の中に」
「それはさすがに」
「お願いします」
「二十分もあればそちらに着けると思います」
「それまでにわたしは帰ります」
「分かりました」
わたしはメモ帳を保存して消すと、ワードを立ち上げた。ユイに頼まれた内容を打ち込み、最後にERTYUIというローマ字を残した。
それから、急いでわたしは部屋を後にした。
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