後日、日比野ひびのから甲斐雪人かいゆきとのもとに手紙が来た。いやはやで始まる、なんとも面白い文章であったが、要約するとこういうことだ。

 香川定吉かがわさだきちは過去の事件と、脅迫の二点で罪に問われることになる。病院を退院した芹沢雅せりさわみやびが、ナイフで刺されたのは狂言だったとわざわざ警察に言いに来たからだ。脅迫が怖くて、自分を安全な場所に置くための手段だと彼女は説明をした。

 いくつかそれでは分からないところがあるが、芹沢家を相手にしてまで調べるほどのことではない。

 芹沢雅と篠塚桃花しのづかももは、腹違いの姉妹のようだ。雅が芹沢の姓を名乗っていることと、おそらく同じ意味があるのだろう。篠塚桃花の安全のためだ、という表現をすれば正しいのかもしれない。だが、正直はっきりとしない。どちらが大事にされているかを考えると、実は逆なのではないかとも疑いたくなる。

 ともかく、今回の事件では色々と世話になった。また何かの折には頼むかもしれない。篠塚桃花にもよろしくと伝えておいてくれ。


 甲斐は手紙をしまう。一応、これでこの事件に対するすべての決着がついたのだろう。けれど、甲斐は思う。結局自分が、誰の手の平の上で踊っていたのか。

 脅迫の犯人である、香川定吉の手の平か。

 自らをナイフで刺し、甲斐や警察の力を借りて図書棟の秘密を暴こうとした芹沢雅の手の平か。

 あるいは、それさえも可能性のうちに考え、甲斐を走らせた篠塚桃花の手の平の上だったのか。

 そして、そのすべてをも含む上からの存在、ラプラスの悪魔が作り上げた緻密なからくりの、その手の平の上にいたのか。

 甲斐には分からない。

 量子論的には、次の瞬間に何が起きるかなんて、確率でしか分からない。今考えると、誰かの意思の中にいたのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。今から先を考えた時には、さまざまな可能性の中にあればいい。

 あらためて、

 この学園に転校してきてよかったと言える。

 それに、

 ここで新しい友達もできた。

 それで満足だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る