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学園に戻ってきて
「こんにちは」
それから隣に座ってもいいかを確認し、甲斐の隣に腰をかける。
「ショックを受けてますか?」
「何に?」
「
藤枝が首を振る。
「どちらかというと助かった、て感じかしら。どう見られてたのか分からないけど、結構迷惑してたのよね。断っても断っても昼を一緒に食べようって。わたしの趣味じゃないことくらい、すぐ分かりそうなものなのに」
「二人は……少なくとも香川先生は本気なんだと思ってましたけど、それも嘘だったってことですよね」
「そうでしょ。あの人に興味があったのは、図書棟のことだけ。きっとわたしが司書として、あそこの管理をしていたから、マークしていたのよ」
「それも時計塔に毎日登っていた」
甲斐の言葉に藤枝はぶるっと体を震わす。
「先生は、時計塔の秘密に気がついていましたか?」
「全然。いまだに信じられないわ。あんなところに隠し扉があるなんて。毎日見てるせいで、そういう感覚が鈍っちゃってたのね。でも、高等部にいたころも、おかしいなんて全く感じなかったわ。きっと、この学園の中でそんなことに気づいている人なんて誰もいなかった。甲斐くんだけね」
「それは大げさです」
「だってそうでしょ。わたしとの約束も果たしてくれたことだし?」
「約束?」
「あれ、覚えてない?」
「……もしかして、幽霊の」
ピンポン、と藤枝は高い声を出す。
「結局、昔失踪した
両腕を抱えながら藤枝は続ける。甲斐はそれを安易に否定できない。
「ずっと見つけて欲しかったのね。そしてこのタイミングで本を残したってことは、きっと甲斐くんが転校してきて、期待したんじゃないかしら。わたしを見つけてくれる人が来たって。うん、きっとそうだわ。これで噂も治まるかしら」
「噂は、多分来年以降もずっと続くと思いますよ。それに、噂として幽霊の話を言いふらしていたのに、香川先生が関与していたようですから」
「あら、どうして?」
「人を寄せ付けないようにするため」
「そんな効果あったかしら。それなら、目的が違うんじゃない? 人を寄せ付けないためじゃなく、それでも彼女のことを忘れたくなかった、とか。それだときれいな終わり方ね。純文学らしくてわたしは好きだわ」
「そんなきれいごとじゃないと思いますけど」
「あら、つれないわね」
そう言いながら、藤枝は笑った。
「とにかく、すべて甲斐くんのおかげ。て言いたいけど。そんなはずないわよねぇ」
「……そうですね」
「幽霊が本を並べるなんて、それじゃあポルターガイストみたいじゃない」
「実態がないのに、本を持てるとは思わないし、何らかの力で運んだなんて、そんなファンタジーはありえないでしょう。誰かが、あの本を並べた。でも、案外目的は遠からずなのかもしれませんね」
「そうね」
少し遠い目をして、藤枝は立ち上がり会釈をする。うまくごまかせたようだ。
「とにかく、これで芹沢さんが戻ってきたら、すべて元通り。この問題は終了ということね」
甲斐ははい、と頷く。それから彼女は邪魔したわね、と言い残してまた学習棟の間を北に歩いていった。
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