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「まずは、その目の前にいる
手紙の一行目。
「まったく。甲斐の話を聞いて、わたしはお姉さまが殺されたものだと思ったよ。人の命を軽く扱いおって。
くすり、と
「何て書いてあるんですか?」
「あの子らしいわ」
「事件の顛末は、書いてあります?」
「いまのところ、そこにはほとんど触れられていないようですわね」
「犯人は
「わたくしは、
「僕が自己紹介する時、マイクの電源を切っていたのですね」
「ごめんなさいね。それもアドバイスで。その罠に、かかるかもしれないって」
「いいえ、怒ってないです。そのとき、僕のまっすぐ正面には香川先生が立っていました。今でも覚えています」
「夜中に呼び出されて、わたくしは向かいました。そこで最後の脅迫を受けました。彼は聞きました。わたくしが図書棟で何をしているのか、と。甲斐くんでしたら、図書棟の秘密をしゃべってしまいますか?」
甲斐はすぐに首を振る。
「わたくしも同じです。それよりも、わたくしに秘密があるように、彼にも秘密があるということが分かりました。学園に戻ったら調べようかしらと思いましたが」
「おそらくその秘密はすでに分かっています」
「そうよね。聞かせていただけますか?」
「十年前の失踪事件をご存知ですか?」
「お話程度には」
「
「何ですか、それ?」
「あれ、そう聞きましたけど?」
「そんなこといたしませんわ。ただ、警報は鳴りますし、カメラも設置されています」
ちっ、と甲斐は唇を噛む。どうやら
「とにかく、彼女はいなくなった。学園から出ていない。けれど、敷地内を探しても、見つからない」
「彼女は図書棟にいた、と」
「そうです」
「桃花の部屋に?」
「いいえ、別の部屋です」
「そうですよね。桃花の部屋だとしたら、香川先生がいつあそこに現れてもおかしくなかった。でも、別の部屋なんて、あの図書棟にあるのかしら」
「以前は屋上に出られるようになっていました。ちょうどその高さのところに、時計塔へと続く階段から抜けられるようになっています。もっとも、ずっと壁で覆われていましたし、本棚に隠されていました」
「よく見つけましたね」
「ももがね」
ふふふと芹沢は笑う。
「それで、とにかく純清香はそこにいたましたが、すでに死んでいました。香川先生と彼女は恋中にあった。けれど、二人はその恋を決して表に出すことができなかった。彼女をそこに閉じ込める行為は、心中や駆け落ちと同じような感覚だったのだと思います。ですが、警察の捜索もあり、香川先生も頻繁に彼女のもとへ通うことができなかった。彼女は、信じていた香川先生に、いつしか、裏切られたのでは、と考えるようになったのだと思います。そして、自ら命を絶った」
「あるいは、信じているうちに、かもしれませんわ」
甲斐とは正反対の解釈を芹沢はする。
「あれもかわいそうな男ね」
「香川先生が、ですか? 僕はそうは思いません」
「そう? 哀れで、悲しいお話ですわ」
「自分を殺そうとした相手ですよ」
「わたくしは生きています。本気で殺そうと思っていたのでしたら、わたくしを殺すことなど、たやすかったでしょう」
「そうかもしれませんが」
「それよりも甲斐くん。あなた、桃花のことをどう思ってくれているの?」
「どうって」
「わたくしにだけ教えてくださいよ」
「筒抜けじゃないですか」
小首を軽く傾ける。相変わらず反則な仕草だ。けれど、二度と見られないことよりはるかにましだ。
「幼いお子様、かな」
「ふふふ。そのお子様にキスをしておいて?」
芹沢がおでこを触りながら言う。
「な、んで、知ってるんですか。あれから彼女と会う機会はなかったはずです」
「だって手紙に書いてありましたすもの。あの子ってば、結構大胆なのよね。甲斐くんの貞操が心配だわ、なんて思っていたのに。むしろ甲斐くんのほうからキスをしてきた、て書いてありますわ」
「それは、その、挨拶、というか、流れで」
「どうぞ、心配なさらないで。そのことを桃花は怒っていませんわ。存外よいものだ、なんて書いてありますのよ」
「芹沢さんにとってももは?」
「それは秘密です。そのうちあの子の口から聞ける機会があるかもしれませんわ」
「そうですか」
「もう一度お聞きします。桃花のことをどう思っていますか?」
「……変な奴です。でも、天才です」
「まだ逃げますの?」
「正直、まだ何とも思ってないです。好きになるかもしないし、友達になるかもしれない。むしろ妹のような。そんなことを言うと怒りそうですが」
「そうね。わたくしもそう思いますわ」
「筒抜けなのですよね」
ふふふと彼女はほほ笑んだ。
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