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翌朝、
「どうも、おはようございます」
待っていたかのように、日比野が正面に立っている。見たところ昨日と同じ服のようだ。疲れたスーツに、丸眼鏡、丸い顔。
「これで、僕が昨日と同じように図書棟にいたことを認めてもらえるでしょうか?」
「うーん、どうでしょう。確かに、モニターされない場所があるようですが。あなたが先日も同じようにそこに潜んでいた証拠にはならない。まぁ、アリバイをあなた一人の証言から認めるわけにはいかないのですよ。もっとも、誰かと一緒にいたのでしたら話は別ですが」
丸い眼鏡の奥で、甲斐をまっすぐ睨んでいる。すでに
「実はですね、まだきちんと勤務を始めてない時間なんですよ。いや、時間なんてわたしどもの仕事に関係ないわけですが、後ろに加藤がいないでしょう。朝の散歩がてら、図書棟に足を運んでみたわけでしてね」
「では、本当に朝の挨拶だけに?」
「あまりギャラリーが多いのは好きではなないのです。そちらの希望も同じかと思いますが」
「今日は授業があるでしょうか」
「それは存じ上げません」
甲斐は少し考えた上で、こちらにどうぞ、と言い、再び図書棟へと引き返す。ちょうど藤枝と入れ替わる形になり、挨拶をする。
「今日は、授業はありますか?」
「さあ……まだ決まっていません。朝の会議で決まると思うわ」
「今朝もこちらに鍵を開けに来たのですね」
「習慣よ」
それから二言、三言言葉を交わし、藤枝は学習棟へと続く並木道に消えていった。改めて二人で図書棟に入る。日比野は自らモニターを確認し、そこに自分の姿が赤い点で表示されていることを確認する。
「なるほど。おそらく熱感知のシステムですね。図書棟から時計塔まで、すべてをカバーしているようです」
「右の奥に。個室があります。机といすもありますし、そちらに参りましょう」
日比野は頷く。一度、二度、三度。それから棚の間を歩きながら、ぐるりと前後左右、上を見て、感嘆の声をあげる。甲斐は日比野をその個室へ案内する。そして、お互いに向かい合うように座る。
「この個室はもちろん、机の下に隠れてもモニターされますね」
「西洋からも貴重な本を入れているようです。そのために厳重なのだと思います」
「だが、穴がある」
甲斐は答えない。
「まあ、まずそれは置いておきましょう。それよりも、昨日の結論をお聞かせ願いますでしょうか。この事件で重要なのは動機だとわたしは考えています。そして、その動機なりうるものをあなたは知っている」
「まだ勤務中ではないのでしょう?」
「あらかじめ聞いておくと、後が楽なんですよ」
「それでは、こちらから先に聞きたいことがあります」
「答えられることであれば」
「
はい、と日比野が苦々しそうに頷く。
「一番下の妹は、誰なのですか?」
「分かりません。なぜか誰もそのことについては口を閉ざしてしまいまして」
「調べても、分からない?」
「ですから、この学園の生徒は苦手なのです。むろん、調べれば分かるでしょう。戸籍を見るだけです」
「調べたのでしょう?」
「芹沢雅さんの父親は、
「一番下の妹の名前は、篠塚桃花」
甲斐が代わりに、自らの質問に答える。
「桃?」
「そうです。芹沢雅さんと、同じ歳です。妾に子供ができた時、正妻にも子供ができていたのだと思います。にもかかわらず、雅さんを養子にし、桃花のことを秘密にしている」
「桃?」
もう一度、日比野が聞く。
「……それが、僕を悩ませているんです」
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