第四章 何がそこに隠されているのか?

 十年前。

 純正芹沢学園じゅんせいせりさわがくえん内で、失踪事件があった。被害者の名前は純清香すみきよか。はたして、彼女は本当に失踪したのだろうか。いや、結局彼女が見つかっていない以上、失踪した、という解釈は合っている。だが、彼女には失踪しなければならない理由がない。

 当時の記録によると、両親だけでなく彼女の友達も、その理由を思い至らなかった。となると、何らかの事件に巻き込まれたのではないか、と考えられる。

 考えられるが、問題はその場所である。純正芹沢学園の敷地内において、そもそも何らかな事件など起きようはずがない。基本的に校門は閉められている。忍び込もうとすれば、すぐさま警報がなり、しかるべき場所に伝令が届く。もちろん、通いの生徒もいるので、時間によっては校門が開かれている。が、その時間に気づかれずに進入するのは容易ではない。否、不可能だと言ってよい。常に校門には専属の警備員がおり、監視カメラも動いている。

 では逆に、彼女が自分の意思で外に出て行った、としたらどうだろうか。

 否、いずれにせよ、彼女の姿が誰にも見とめられることなく、学園から出て行くことなどできようはずがない。

 あるいは、校門を利用せずに出ようとすれば、入る時同様警報が作動する。むろん、一般の生徒はそんなことを知るはずがない。

 となると、彼女は学園から出ていないことになる。

 芹沢家の協力を得て、警察は学園の敷地内を捜索した。だが、彼女は見つからなかった。もちろん小等部、中等部、高等部それぞれの敷地に加え、学園の敷地内にある邸宅までも対象としたものだ。

 失踪、というよりも、消失である。

 まさにお手上げだ。


 次に動機の面からの捜査も当然行われた。成績は中の上。それほど秀でていたわけではないが、落ちこぼれてもいない。どちらかというと目立たない少女で、図書棟でよく読書している姿が目撃されている。

「あの子って、いつもそんな感じで、誰ともつるんでないっていうか」

 当時の学生の言い分である。

「ああ、でも、そういう子ってなぜか先生に好かれてたりするよねぇ」

「それはあるかも。うーん、眼鏡かけてるけど、あれ取れば容姿も悪くないし。でも、そういうのはあんまり想像できないかも」

 生徒からは、恨みを買っているようなことはなかった。恨みどころか、どうやら印象もあまりない、というのが本音のようだ。それでも生徒の意見は的を射ているようで、先生からの評価は高かった。

「彼女はまじめだしね、成績こそまだそれほど上位にはいないけれど、努力しているのは伝わっているし、一年のころに比べると上がっているから、来年には上位に顔を出すんじゃないかな、と思っていたんだが」

「そうね。この高等部のこのタイミングで成績を伸ばすのって、かなり大変なことだと思うけど、実際上がっているし。きっと彼女にあった勉強法を見つけたのね」

 けれど、先生方からも恨みを買うような言動は一切現れなかった。


 純清香の失踪。

 はたして彼女はどこへ行ってしまったのか。

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