第三章 誰が彼女を脅したのか?

 十日の猶予は潰えた。ついに口を割ることなく、愚かなことだ。ただ従順にあれば、このような結末にはならなかったであろうに。

 そして愚かにも、あの挑戦的な態度はどうだ。再びわたしを危険に晒して。だが、愚かな連中には、わたしが誰であるか考えつこうはずもあるまい。黄色に染まった体育館で、誰もわたしが芹沢雅を脅していたことなど、気づこうはずもあるまい。

 なればこそ、わたしの安全は築かれる。


「わたくしが図書棟に通っているのは事実です」

 芹沢雅せりさわみやびが最後の口を開く。

「図書棟で何を調べている?」

「調べてなどいません。ただ、本を読んでいるだけですわ」

「あそこには幽霊が出るという。怖くないのか?」

「明りが少なくて不安に思うときがあります。ですが、個室には電気がありますし、本を読んでいれば怖いと感じません」

「なぜ秘密にしている」

「秘密に……しなければ、ならないのです。わたくしの立場を考えて下されば、理解していただけるでしょう。それに、どう考えてもあなたとは関係のないことです」

「何を調べている?」

「調べてなど、いません」

「ではなぜ、学園集会と偽り、生徒を集め、一人図書棟に向かうのだ」

「それは……」

「答えられないのか」

「……はい」

 短い沈黙の後、暗闇の中、芹沢は一人残される。



 両手を上に縛られ、ほとんど身動きを取ることができない。芹沢は自らを見下ろす。左胸に、今登ろうとしている太陽の光を反射する、銀のナイフ。そこから、赤い滴りが見える。ゆっくり、ぽとり、ぽとりと滴が落ち、小さな池を赤く染めている。

 第一学習棟と第二学習棟との間。

 女神に縛られて。

 赤く、

 赤く。

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