第38話 俺とアメコミの刺客



 姉貴は霜田を見て、優しく微笑んだ。霜田は、唇を噛みしめて、悔しそうに頷いた。


「はい……。まだ、作品が完成していないとき、少しだけ小説投稿サイトに投稿したんです……。そしたら、そういうコメントがあって……。それにその後、掲示板で晒されたみたいで、一気にあたしの作品ページが炎上しちゃって……。それからは、人前に出すのが恥ずかしくって嫌になったっていうか……」


 ポツリ、ポツリと言葉を口にした霜田を姉貴はそっと、抱きしめた。


「辛かったわね。でも、それから最後まで完成させるなんて偉いじゃない」

「あたし『精霊王への道』がホントに大好きだったんです」

「私もよ。君の小説、最高だった」


 抱きしめていた霜田を姉貴はそっと離した。

 霜田が姉貴を見上げる。顔をほころばさせて「マジ、ですか?」と言う。そんな霜田に「うふふ、ため口でいいわよ」と姉貴は笑った。


「本当よ。私、『精霊王への道』が大好きだった。コスプレしちゃうほどにね」

「~~っ! お姉様の華様、マジ最高だった! 二次元から現れたのかと思った!」


 霜田は思い出したかのように、姉貴の腕の中で瞳を輝かせる。それにお姉様って……。


「ありがと。霜田ちゃん、だっけ? 私も君の作品感動した。君の作品の中で、主人公を庇って死んだ華が、最後にちゃんと葬られてよかった。私、それがずっと気がかりだったから」


 主人公のライバル華は、主人公を庇って死んだ。読者人気の華が死んでブーイングが多かったらしい。だが、色々な理由が重なって起きた打ち切りで、華の死も結局宙ぶらりんになってしまったのだ。ファンとしては、確かに浮かばれなかっただろう。

 姉貴がフッと笑う。


「ありがとう。久しぶりに心が熱くなる作品が読めて良かったわ」

 その言葉に霜田は顔を真っ赤にして照れる。


「い、いえ! もうその言葉だけでコッチの方がありがたいっていうか……!」

 二人で盛り上がる中、俺は姉貴に口を挟む。


「そこまで姉貴が絶賛してくれるんだったら、せっかくだから出版してやったらいいじゃん」

 俺は面白半分でそう言った。


「しゅ?!」

 霜田がビックリして変な単語を放つ。


「俺の姉貴出版社に勤めてるからさ」

 俺がそう言うと「えっえっ」と霜田が挙動不審になっていく。

 そんな霜田を見て、姉貴は吹き出して笑った。


「ごめんね。私の会社、アメコミ部門だから小説の出版は出来ないんだよね」

 でも……と言葉を続ける姉貴が、霜田から手を離し、ジーンズのポケットから四つに折りたたんだチラシを手渡した。

 霜田はそれを受け取り、ゆっくり開く。


「こういうの、参加してみたらどうかな?」

 姉貴の言葉を聞きつつ、俺は霜田の持つチラシを覗き込んだ。

 チラシには大きな文字で『東京文豪フリマ』と書いてある。


「トーキョーブンゴウフリマ……?」

 聞きなれない言葉に霜田はどこか棒読みだ。


「そ。今回、ニューヨークからわざわざ戻ってきたのは、勿論大事な弟の為でもあるんだけど、会社からこの取材を頼まれたんだよね。最近、海外でラノベも人気も高くってね。せっかくなら特集組むかってことで――」

「お、お姉様、ちょい待ち! な、なに? このイベントはなんのイベントなワケ?」


 慌てる霜田に、姉貴は「あ~、そうね」と納得した。

 ちなみに俺もさっぱりである。

 文豪? フリマ? 偉い小説家でも売るのか?


「君たち、コミマは知ってるでしょ?」

 姉貴の言葉に霜田は「コミマは、そりゃぁ知ってる……。行ったことないけど」と呟く。


 コミックマーケット展。略してコミマ。

 言わずと知れた日本最大の同人即売会である。


「つまり、豪フリはコミマの小説バージョン。出店者は小説を執筆して、一から作成して本を作る。参加者はそれを買いに来る。そういうイベントよ。作品を発表するにはもってこいの場所でしょ?」

「なるほど。……って、お姉様はあたしにこれに出店で参加しろって言ってんの?! お、恐れ多い!」

 驚く霜田に、姉貴はうふふと笑う。


「別にあくまでも提案だから。こういうのもあるのよっていうね」

「む、無理無理! あたしなんか」

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