第32話 俺とわくわく学園生活



「……遅いですよ!」

 木製の門を開けると、こちらに気づいたアイリスがそう抗議した。

 しかし、その表情には嬉しさの方が勝っている。


「悪い、悪い。秋人さんが思ったよりも曲者で……」

 そう、まさか超変態シスコン野郎だとは思わなかった。


「ごめん、うちの過保護な兄貴が迷惑かけて」

「いや、気にすんなって」

 俺の言葉に申し訳なさそうにする霜田に、すかさずフォローを入れる。

 霜田は……兄の本当の姿を知らないんだろうなぁ。そう思うと少し同情してしまう。


 まぁもちろん、同じ男として秋人さんの気持ちがわからないわけではない。

 可愛い妹がある日突然ギャルになるだなんて言い出したら、不安になるし、誘った悪い友達のことを邪険に扱うだろう。わかる。わかるけど、なぁ。


「あたし、洋次とアイリスが来てくれて嬉しかった。明日からちゃんと学校行くから!」

「私だってすっごく嬉しいです! ハルちゃん、大好きです!」

 すかさずアイリスが霜田に飛びついた。いつものように二人じゃれ合っている。

 こうなると少し長い。日も傾きかけていたので、キリのいいところでアイリスと霜田に離れるようにいうと話もほどほどに解散した。



***



 その日の晩。

 俺は秋人さんに霜田の原稿を渡してしまったことに気が付いた。

 個人的にも原稿を持っておきたかったので、霜田にメッセージを送り、メールで原稿を送ってもらうことにした。


 その間、俺はイラストにとりかかる。

 霜田がいいと言ってくれたキャラクターが二人並ぶ構図だ。

 女性の体に関して、まだ完璧というわけではないがそこは納得できるまで書き直せばいい。

 今回はラフ画で構図を作り、雰囲気で更に霜田の理想に近づくものを作りたいと思う。

 表情、色味、キャラクターの距離。色々なパターンのものを作っていく。


 ああついでに、コミックスの隣に作品を並べたて飾りたいと霜田が言っていたのでカバー全体のデザインも作ってみる。公式コミックスと並べても違和感がないように似せて作るためだ。

 あれもこれもとやっているとやはり夜は深くなっていく。


 一息ついたころには、若干窓の外が明るくなっていた。

「やば……流石に寝ないと」


 ここのところ、かなり寝不足だ。

 以前から何度も担任に注意され、嘆かれた。挙句の果てには親に連絡するとまで言われたのだ。

 と言っても、多忙な母さんが仕事を放り出して俺の為に帰ってくるとは思えないが。

 俺は最後にパソコンのメールを開くと受信ボックスを確認する。

 霜田と、秋人さんからメールがあった。

 秋人さんはイラストの依頼。霜田は、俺がメールアドレスを教えたのでそこへ原稿のデータを送ってくれていた。

 俺は秋人さんのメールをスルーすると、霜田の添付ファイルより原稿を確認した。

 作業も一区切りついたので、そのままベッドへ入る。

 俺は枕の上にソッと頭を置き、目を閉じる。起きて学校へ行くのが楽しみで仕方がなかった。今日作成したラフ画やデザインを霜田が見たら喜ぶだろうな、と簡単に想像できたからだ。以前のように『ありきたり』なんて言わせはしない。

 これがイラストブ人気絵師4Gの最高傑作だと胸を張って言える!




 朝、ゆっくりと瞼を開け、違和感を覚えた。

 アラームが、鳴っていない……?


 俺は日曜を除き、毎朝七時にはスマホでアラームが鳴るようになっている。そして、そのアラームで起きるのだ。

 しかし、今はそのアラームが鳴っていない。つまり……?


 俺は恐る恐る枕付近に置いてあるであろうスマホに手を伸ばして探り、画面を見た。


 八時二分。

 いつも、バスに乗っている時間だ。


「え、嘘。ちこ……」


 俺は勢いよく起き上がり、部屋着であるTシャツを脱ぎ捨て、急いでシャワーを浴びる。

 まだ完全に温まっていないシャワーのお湯を頭からかぶりながら、次のバスの到着時間を考える。

 とにかくドタバタしていた。

 髪も十分に乾かさないまま、バス停まで走り、バスの到着と同じくしてなんとか乗り込むことができた。

 全力でバス停まで走ったので、俺は荒い息を整える。程なくして自動扉が閉まると、バスが発車した。

 スマホで時間を確認する。ぎりぎり遅刻は免れるかもしれない。

 しかし、バスは渋滞に巻き込まれ、いつも降りるバス停に到着したころには結局走らなければいけなくなってしまった。

 何とかHRで点呼しているところへ滑りこみギリギリセーフだ。担任に呆れられたが……。


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