第27話 俺と高飛車ロリとモノマネと



「そ? じゃあ、完成したらあたし達だけは見せてよね?」

「おう。勿論だ」

「えへへ、楽しみだなぁ」

 機嫌を良くしたのか霜田は俺のだいぶ先を歩いて行ってしまう。


 その時、俺のすぐ隣に見るからに高そうな黒い車が止まった。左ハンドルであることから外車というやつだろうか。丁寧に手入れをしていて隅々までワックスで光っている。


 俺はそれを横目に立ち去ろうとした。


 俺の少し前で、後部座席のドアが開き、俺はぶつからないように横へずれた。車から、いかにも全身ブランド服といった身なりの男が降りる。七三分けの髪、黒縁眼鏡、このクソ暑い日にチェック柄のニットにパリッと糊のきいたワイシャツにパンツ、車同様手入れの行き届いたチャコールの革靴。


「遅いと思ったら、こんなところに居るとはな、ハル」

 ……ハル? 霜田のことか?

 少し前に居たはずの霜田が居ない。


「バッカ! 離せっての!」

 代わりに後部座席の反対側に黒ずくめの男二人に両脇を抱えられ霜田が宙に浮いている。勿論手足をバタバタと暴れさせているが、男たちは屈強なボディビルダー並みの肉体だ。黒ずくめのスーツはいまにも筋肉ではち切れてしまいそうだった。そんな二人の男に霜田が勝てるわけもなく、簡単に車に乗せられてしまった。


「霜田!」

 俺の叫びに七三分けの男が眉をひそめる。


「貧相すぎて目に入らなかったが……なんだお前は。もしや、ハルの彼氏だなんて言わないよなぁ?」

 男が俺の横に並ぶ。

 俺よりも十センチ程高いのか俺は睨みあげる形になった。


「違いますけど? アンタはなんなんですか? 人さらい? 警察呼びましょうか?」

 まくし立てる俺を、男は鼻で笑う。行動の一つ一つが鼻につく男だ。


「意気がるのは結構だが、君がハルの恋人じゃなくて良かったよ。金輪際ハルに近づくな。品位が落ちる」

「な……!」

「じゃあな」

 後部座席のドアを男が開けると今にも霜田が飛び出そうとしてくる。


「洋次! ち、違うの!」

 その霜田を強引に奥に追いやって七三分けの男は車内へ足を踏み入れた。

 一度も俺を見ず、そのまま発車してしまった。


「なんなんだよ……」




 俺はその日の晩、霜田にチャットアプリで『無事か?』と送ると『心配しないで』とだけ返ってきた。それ以降は何を送っても既読さえも付かなかった。


 眠ったのかもしれない。


 初めは惨めな気分で返信を待っていたが、徐々にあの、インテリ七三眼鏡の顔を思い出すと居てもたってもいられず、せっかくなのであの男をさっそく女体化し気が済むまで描きなぐってやった。

 キャラデザは黒髪ロングの高飛車な赤枠眼鏡のお嬢様にした。

 我ながら上手く描けているのではないだろうか。

 高笑いする表情、人を見下ろす表情。さまざまな表情を描いた。

 あ、身長は俺より高いことがムカついたので小さくしてロリ化してやった。

 描いていると次第にムカムカしてくる。

 なんなんだよ、あいつは一体……。

 まさか……許嫁とか……?


 俺は黒髪ロングのお嬢様の隣にギャル男霜田を描き添えた。

 それが妙に似合っていて、俺はスケッチブックを閉じた。


「返事もないし、どうせ明日学校に来るだろ」

 誰も聞いていない独り言を言い放ち、ベッドに入る。俗に言う不貞寝というやつだ。



*** 



「あ~、それ、ハルちゃんのお兄さんだと思います」

 朝、HRの前に俺の席にやってきたアイリスに昨日のことを告げるとなんでもないようにそう答えられた。


「霜田の……兄貴?」

「はい。おそらく――」

 アイリスは自分の前髪をサササと七三分けにして、眼鏡をクイクイとする動作をした。


「『ただの庶民が私に話しかけるだなんて……』って感じの人じゃなかったですか?」

「そいつ、そいつ」

 似すぎていて、内心笑う。

 アイリスは髪の毛をサササと戻した。


「では、確実にその方はハルちゃんのお兄さんですね」

 そう言われてホッとした。

 許嫁でもない、ただの兄なら人さらいに事件性もないし、ちょっと心配性なだけの兄貴だよな、で済む。


「それにしても、今日は霜田、来ないのな」

 いつもならアイリスと一緒に登校し、霜田は自分の教室にカバンだけ置くとすぐにアイリスの元へ来ていたのだ。最近では俺も居るため、もっぱら三人で集まって話すことが多くなっていた。

 だが、今日は霜田の姿が見えない。

 もしかして、昨日水着姿にさせたせいで風邪を引いたとか?


「う~ん。二週間、下手したら一か月くらい登校できないんじゃないでしょうか?」

 アイリスの言葉に俺はギョッとする。


「は? なんで?」

「此処だけの話、ハルちゃんのお兄さんってすっごく心配性なんですよね。ハルちゃんが髪を染めた時なんて三か月は家に軟禁されてましたから。おかげで私なんてハルちゃんがギャルになるきっかけを作ってしまったので今でもかなり嫌われてますし。――ですので、昨日は二人で並んで歩いているところを見られたのでしょう? あのお兄さんのことですから『不純異性交遊だ! けしからん!』なんて言ってハルちゃんを閉じ込めかねません」


 それは心配性の域を超えているのでは……。

 だが、アイリスの言う不純異性交遊の下りは、あの兄の口調で脳内再生余裕だ。

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