第5話 俺と放課後の教室と【後編】

 俺の間抜けな声が“もう一度言ってください”と解釈したのだろう。ギャルは半ばやけくそ気味で叫ぶようにそう言った。

 大きな声を出したからか、ゼーハーゼーハーと息をしている。目には涙を一粒浮かべ、顔は真っ赤だ。



「はーーーー?」


 俺もギャルに負けず劣らず大きな声を出してしまった。ギャルが驚いたのかビクリと肩を震わせる。

 ギャルが? 俺のイラストを好き?

 そんなことありえないだろ。昨日、俺のラクガキを見て『キッモー』って言ったあの顔を忘れない。


 俺はギャルから離れ、掃除用具入れへ足を向けた。用具入れの扉を開き、中を見る。誰もいない。


「ちょっと! あたしが超恥ずかしい告白したっていうのになんなのよ! なんで無視すんのよ!」


 俺の背中に向かって喚くギャルに見向きもせず、俺は教卓の裏やカーテンをまくりあげる。

 どうせ罰ゲームかなんかだろ。それで俺を笑いものにするつもりなんだろ。

 しかし教室の中を探しても俺たち二人以外に誰も教室には居ないし、カメラらしきものも仕掛けられて居なかった。


 ギャルはというと、俺の行動に飽きたのか勝手に俺の席に座りスケッチブックをパラパラとまくっている。

 俺はそんな姿を横目で見ながら、溜息をついた。


「おっかしいなぁ……」

「一体何がおかしいのよ? もうその変な行動終わった?」

「変な行動って……」

 俺はギャルの座っている前の席に座った。背もたれに顎を置き、ギャルを見る。ギャルは相変わらず楽しそうにスケッチブックを眺めていた。


「これってなんかのドッキリじゃないの?」

 単刀直入にそう聞いた。まどろっこしいのは苦手だし。


「は?」

 ギャルは一瞬驚いた顔をした後、わなわなと肩を震わせた。


「あ、あたしが嘘ついてるって言うの? 嘘ついて、アンタを騙そうとしてみせたって?」

「いや、だって、信じられないだろ! 昨日、お前が俺のイラストに言った言葉覚えてるか? キッモーって言ったんだぞ!」

 俺は『キッモー』と言った時の顔真似をして見せた。すぐさま鉄拳が俺の頬をぶつ。


「あたし、そんな顔してないし‼」

 殴られてよろめいた俺は、後ろの机に背中をぶつけた。暴力女め……。

 睨もうと思いギャルを見ると、ギャルは視線をスケッチブックに戻していた。


「キモいって言ったのにはワケがあるんだもん……」

「ワケ?」


 たとえどんな理由があろうと人の趣味をけなす奴を俺は許せない。それに俺にとってイラストは自分の子供のように大事なものだった。それを馬鹿にされ、今更好きでしたなんて言われてもちっとも嬉しくない。


「……どんな理由かは言えない」

 ギャルは口先をすぼめそう言った。


「なんだそれ」

「でも、4Gのイラストが好きなのはホントだし。嘘じゃないもん……」

「今更しおらしく言われてもな。どういう経緯で俺のイラストを知ったのか知らないけどさ。まぁ……好きだって言ってくれるんなら素直に受け取っておくよ。ありがとな」


 そう言って俺はギャルに手を差し出す。勿論、スケッチブックを返してくれという意味でだ。ギャルは少しの間キョトンとしていたが、スケッチブックを俺に手渡してくれた。

 そのまま席からもどいてくれると嬉しいんだけど。帰る用意したいしさ。

 俺はそのままスケッチブックを受け取ろうとした。


「あのーどうして手を離してくれないんですかね」

 ギャルは何故かスケッチブックから手を離さず、軽く引っ張り合いになっている。ギャルも不思議そうな顔をしながら、手を離そうとしない。



「なんか、離したくない……」


「は?」

「だって神絵師の生スケブだよ? 離したくない。むしろ、欲しい」

「なに言ってんだコイツ」

 思わず心の声が漏れてしまった。

 ギャルは一向に手を離さない。片手で握っていたのに気が付くと両手で離すまいと引っ張っていた。


「欲しいってなんだよ! 意味わかんねーよ!」

「だって欲しいんだもん!」

 だもんじゃねぇよ……。なんだ、このギャル……。


「やらねーよ!」

「お願い! ちょーだい!」

「なんで見ず知らずのお前に!」

「だって、ファンなんだもん!」

 知るか!

 しばらくの間引っ張り合いをしていると教室の扉が開かれた。


「ごめんなさい、ハルちゃん。おまたせー……? あら」

 教室に入ってきたのは学校一の美少女佐倉川アイリスだった。

 俺とギャルを交互に見て不思議そうな顔を浮かべたが、にっこりと微笑んだ。


「二人とも仲がいいんですね」

「違う!」

 ギャルと二人、同時に声をあげてしまった。


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