第3話 俺とリアルなファンの声


「だってアイリスと同じ部活に入りたいもん」

「そうなんですか?」

「……うん」


 二人はどうやら結構仲がいいらしい。



「じゃあ、ハルちゃん、明日の体験入部は此処に行ってみませんか?」

「……え~。イラスト部と漫研~? オタクっぽくて勘弁なんだけど」

「そんなふくれっ面しないください。私がアニメとか漫画好きなの知ってるでしょ? それにこれ見てくださいよ! 大好きな4Gのイラストを模写して描いてみたんです! はい、ハルちゃんにあげますから!」


 ――4G?

 一瞬にして汗が吹き出た。4G。それは聞き間違いや、他の人でなければ、イラストブで俺が使っているハンドルネームだ。


 大好きな? 4Gの? イラストを? 模写?


 脳内が都合のいいように漢字を変換してしまう。



「また4G? 全然似てないんだけど。……まぁ、せっかくアイリスが描いたんなら貰うけどさ」

「うふふ、相変わらず辛口ですね。――帰ったら今日こそ4G更新してるでしょうか。昨日はイラストブ更新なかったですから」


 ――イラストブ!

 やっぱり佐倉川が言ってるのは俺のことなのか? 確かに昨日は更新してなかったけど!


 それに俺のイラストを好きで、模写してくれた? 見たい。超見たいんだけど!


 掃除用具入れの入り口に背を向けていることをひたすら恨んだ。


「ほんと、アイリスって4G好きだよね。ああいうオタク系のイラストってキッモーって感じ」

 はーーーー? あのギャルはまた好き勝手いいやがって!


「えへへ。あ、私着替え終わりました。ハルちゃん、帰りコンビニに寄ってもいいですか?」

「りょー」


 少しガサゴソとした後、扉が開く音がした。二人の話し声はどんどん遠くなっていく。話し声が完全に聞こえなくなったところで、俺は溜息を吐き、掃除用具入れの扉を開けた。


「ふー……。早いこと帰ろっと……」

 なんだか一人で喜んだり怒ったりして妙に疲れた。ほかの生徒がまた着替えに来る前に化学室を出なければ。




 帰宅しながらも頭は佐倉川とあのハルとかいうギャルのことで一杯だった。


『大好きな4Gのイラストを模写して描いてみたんです!』

 が、頭の中で何度もリピートしては、ギャルの

『オタク系のイラストってキッモーて感じ』

 も何度もリピートして勝手にキレた。


 そして帰路へ着く足取りもいつもより早かった。佐倉川が俺の絵を待っているんだと思うと居てもたっても居られなかったからだ。


 帰宅して「ただいまっ!」と大きな声で言うと一目散に自分の部屋がある二階へ駆け上った。いつもながらおかえりと言ってくれる人は居ない。けれどそんなことはどうでもいい。自室につくとカバンを開きスケッチブックを取り出す。

 今日はいいものが描ける。

 漠然とだけど、そんな気がしていた。



***



 おかげで昨晩は徹夜だった。

 その日にイラストをサイトにアップすることは出来なかったが、明け方に納得するものを完成させることが出来た。


「おお、すげぇ。アクセス三万にお気に入り一万か。過去最高かも……」


 あくびを噛み殺しながら、スマホでアクセス解析を見ていた。

 朝の通学バスをバス停で待つ。まだ初夏だというのにうだるような暑さだ。これから先の夏本番が恐ろしい。


 しばらくするとバスが来て、座る。

 イラストに対するコメントを流し見しながら、半分ほど読み終えたところでスマホの画面をきり、ポケットにしまう。

 肘掛けに肘を置き頬杖をつく。窓の外はいつもと変わらない風景だ

 コメントはいつもより数は多いが、『可愛いです!』『好き!』というものがほとんどだ。勿論それは嬉しい。


 でも俺は昨日の衝撃が忘れられないでいた。


『大好きな4Gのイラストを模写してみたんです!』

 何度もこの言葉を頭の中でリピートして、興奮で昨晩は眠ることができなかった。

 彼女もこのイラストを見てくれているだろうか。どんなふうに思ってくれるだろうか。

 昨晩は彼女のことを思うと筆が止まらなかった。

 ラフ画の状態では人物だけだったが、パソコンに取り込みペンタブを走らせると鮮明に背景が浮かんだ。最終的には過去最高の細かなイラストになってしまった。


 金髪碧眼の美少年が森の中で小鳥たちと遊ぶ。日の光が降り注ぎ、肌を照らす。あどけない笑顔が昨日俺が見た佐倉川の表情そのものだ。


 俺にとってアイリスの言葉は初めて生で聞いた自分の評価だった。顔も見えない誰かのコメントじゃない。存在する身近な人間が陰ながら自分を愛してくれていたのだ。


 それに学校一可愛い女の子が俺のイラストを好きだって言ったんだ! 惚れないわけがない!

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