俺のムスコを貸してくれ?!

呉部葉一朗

第1話 俺とイラストとギャル


 “オタク”は奥が深い。

 一言に“オタク”と言っても様々なジャンルがある。ドルオタ、鉄オタ、ゲームオタ。でもやっぱりポピュラーなのはアニメや漫画だろう。


 だが俺は、女子のスマホを覗き込んで「佐倉川さん、マンガ読んでるの? 俺も実はオタクなんだよね。ワンピー●とか好きでさ」なんて言う話題作りの為のなんちゃってオタクのテンプレみたいな奴は滅びればいい、と思っている。


 つい感情が高ぶって手に握っていたプラスチックのシャープペンシルに力が入ってしまった。






 五月。

 高校の入学式から一か月経ち、クラスにまとまりが出来始めてきていた。


 比較的髪の色が明るい女子グループ。それに対になる様に明るい男子グループ。この二つはいわゆるパリピだ。何かあればすぐに放課後にカラオケへ行く。俺には一番関係のないグループだ。他にはちょっと冴えないオタクグループ。あとは俺みたいな一匹狼だ。


 今日も俺は窓際一番後ろの席でコソコソとラクガキをしていた。

 はたから見れば俺はオタクかもしれない。


 だけどオタクは俺の中でとても神聖で崇高なものだった。


 オタクに定義とか決まりごとがあるわけではないが、俺の中には基準があった。真のオタクとは、やはり毎期のアニメは全部チェックしておきたいし、切るにしても三話までは絶対見たい。神アニメにはブルーレイを買ってお布施しないといけないし、アニメ化しそうなラノベは前もってチェックしておきたい。ここまでしてやっと「俺はオタクだ」って言えるんじゃなかろうか。


 だけど、現状俺もそこまで出来ていないわけで……。だから俺は、多分オタク未満なのだ。



 しいて俺が胸を張って自慢できることといえば、このラクガキくらいじゃないだろうか。


 物心ついた時から絵を描いていて、中学の時にイラストブというイラスト投稿サイトに本名の坂本洋次をもじった4Gフォージ―という名前でアップしてから、気が付けばフォロワー数が三万人に到達した。


 おかげでたまにイラストの仕事もくるようになり、いうなれば絵師というやつをやらせてもらっている。


 イラストを描くには時間が掛かる。絵師の俺は友達を作っている暇はない。けして出来ないわけではないぞ。

 だから俺は群れず、ラクガキをし続けるのだ。



 今日のラクガキテーマは女子に好かれそうなかっこいい男だ。すらっとしていて、モノトーンの服装を着こなす。けしてチャラ過ぎず、女に媚びない、流行りの言葉を借りるとするならば俺様系イラストだ。今日の画風は乙女ゲーに寄せている。


 教室でクラスメイトの楽しそうな談笑が聞こえるが、俺はひたすらシャーペンを走らせた。ラクガキでも集中すると周りが見えなくなっていく。ガリガリと紙とペンが擦れる音だけしか聞こえなくなっていった。一心不乱に描きこみ、数ミリ違う線を引けばすぐに消しゴムを手に取り、消す。気が付くと俺はかなり猫背になり、紙に顔を近づけて描いていた。



 途端、ガンッという衝撃が俺の机に走る。


 顔をあげるとクラスメイト達がふざけて俺の机に当たったらしい。



「わりぃ。えっと……」

 スポーツの得意な、クラスで人気者の男子だった。俺の名前を覚えていないのか言葉を濁す。


「いい。気にしてない」

 俺は男子の言葉を遮った。

 別に名前を覚えてもらっていないくらいどうでもいい。俺もコイツの名前をしらねぇし。


 男子は「ほんとわりぃな」と言って俺に頭をへこへこ下げた後、前に向き直り「お前らがふざけて押すからぶつかっただろー!」と男子グループを責めたが、その声はどこか楽しそうだった。



 俺はもう一度自分のスケッチブックに視線を落とす。


「うわぁ……」


 思わず声が漏れた。

 あんなに一生懸命描いたラクガキは斜めに深く線が入っていた。

 さっきぶつかられた衝撃で修繕不可能な線が入ってしまったのだ。


「最高傑作になる予定だったのに……」


 肩を落とし、俺はスケッチブックを閉じようとした。

 俺の机に大きな影が出来た。不思議に思い、俺は顔をあげる。



 俺の机の前に見知らぬ女子が立っていた。

 つり目、明るく染めた茶色の髪に腰まであるポニーテール、見るからに俺が苦手そうなギャルがスケッチブックを見ていて、そのあと俺と目が合った。


「……き……」


 ギャルの顔が歪む。


「き?」


 俺も突然の事でオウム返しをしてしまった。ギャルが途端に焦った顔をする。


「キッモー……」




「はぁ?」


「超キモいんですけど? それってアレ? オタクってやつ?」

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