第56話 戒め と 縛め

あらましを話し終えてゴーザは大きく息を吸い込んだ。

少しの間、吸い込んだ空気が吸収されるのを待つ様に息を止めて静かにユウキの様子を見ていたが、覚悟ができたのか静かに続きを話し始めた。


「フレイムストーム王が大々的に原因究明を推奨したのでジェミニ・エクリクシスの事は研究者の間に知れ渡り、熱心に調べられた。

エリアルの能力を飛躍的に高めるこの技術は魔導具に、更に言えばこの文明に革命をもたらす事ができると皆がその仕組みの解明を夢見た。」

落ち着きを取り戻したゴーザの説明にユウキは黙ってうなずいた。

口など挟めるものではない。

声こそいつもの通りだが、その身に纏う雰囲気はユウキが見た事のない程張り詰められ、ヒタと見つめる目には有無を言わせない気迫が籠められているのだから。


ユウキがしっかりと理解している事を確認してゴーザは話を続けて行く。

「ジェミニ・エクリクシスの仕組みについては急速に解明されていった。しかし再現できた者は一人もいなかった。無理なのだよ。セレーマとは言うならば人の心・魂だ。全く同じ心などある筈ないのだから。」

「でも、僕たちは一人で幾つものセレーマを出せるよ。」

「確かに儂らフェンネルは一人で幾つものセレーマを扱うことが出来る。だがな、例え同じ人間のロジックサーキットであっても、それぞれが別のものに意識を向け、別の判断をしている限り全く同じになる事はないのだ。」


ゴーザは言葉を区切り、大きく息を吸い込んだ。

ここからは世の暗部とも言える話で子供に聞かせる事ではない。

だが話さなければ事の重大さを伝える事はできない。


「ユウキよ」

見上げるユウキとゴーザの視線が混じる。

怯えの混じるユウキの目、何かを決意したゴーザの目。


「ユウキよ。この力の事を人に知られてはならん。」

それは、ユウキが苦労して手に入れた力を縛る事に他ならない。

だが、それでも伝えなければならなかった。


「ジェミニ・エクリクシスについて最も関心を示したのは各国の軍隊だった。当時はあらゆる可能性が試され、密かに行われた人体実験では廃人となった者も多数いた。そして、よく覚えておけ。彼らは今も諦めてはおらん。彼らはこの力を独占する事を夢に見て、同時に他国がこの力を得る事を恐れている。もしお前がジェミニ・エクリクシスを起こせると知れば、お前を手に入れようとする者、お前を葬ろうとする者が激しく争う事になるだろう。そうなってしまえばこの世界に安心して暮らせる場所は無い。お前も、そしてリューイも、だ。」

「えっ・・・何でリューイまで・・・。」

「お前にできるなら、更に優秀と言われるリューイにもできると思うだろう。そして仮にリューイにできなかったとしても、子供を産ませてその子供を調べればいいと考える筈だ。」

「そんな・・・どうしよう!ここに来るまでに結構たくさんの人の前で使っちゃったよ。」

「今までの話を聞いた限り、これまでの事はそれ程心配する必要はない。魔導具の効果はセレーマの強さ、使われるエリアルのランクでかなり大きな差がでるのだから、何も知らない者が目にした時にこう考える筈だ。『英雄ゴーザの孫ならば・・・英雄ゴーザの持つエリアルならば・・・このくらいの事はできるのだろう』と・・・。」

話しを聞いてユウキは幾分安心した様子があった。

だが、ゴーザは緩めるどころか更に気を引き締めた。


「だから使うなとは言わん。儂が生きている限りは儂の名でお前たちを守る事ができるしそれだけの伝手も実績もある。だが、儂が死んだときに『実は肉食魔獣イーガどもが遠巻きにしていた』などと言う事にならない為にも決して注意を怠ってはならないのだ。」


リューイにまで被害が及ぶとあればユウキに迷う余地など存在しない。

こうしてゴーザの言葉はユウキの胸に深く刻まれた。



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