七 最強の雷威漢

 


 おれの疑問に答える気はない様子の磨羯孔明は、生死不明の勝鹿北辰の上でぱっくりとその腹を開いた。

 おれは自分で自分が見ている光景を疑う。

 四つん這いの孔明の腹が裂け、腹部の九十九動雷部ドライブがだらりと垂れ下がる。そしてその九十九動雷部ドライブは孔明のはらわたの中に何本ものコードで繋がり、さらには孔明の腹の中に隠されていたコードや基盤や冷却器がスチールパイプで纏められたテレビの内部みたいな機械群がごっそり抜け落ち、勝鹿北辰の背中に取りつき、内部からミニアームで支持された小型メスでもって北辰の背中を切開すると、その開口部から北辰の体内に侵入を開始した。まるで寄生虫が宿主を乗り換える引っ越しのようだ。

 おれは「あっ」と叫んで駆け寄ろうとしたが、手遅れだった。

 磨羯孔明だった肉体は、中身のなくなっ革袋のようにだらりとその場に流れ落ち、かわりにいままでぴくりとも動かなかった勝鹿北辰がゆっくりと腕で身を起こし、膝をついて立ちあがる。

 北辰の目が、瞳孔の中でちかちかと光を点滅させている。

「……おまえいったい」

「わたしは、何者でもない。九十九動雷部ドライブを守り、鵺ブラスターを破壊しに来た機械生命界の端末だ。この時代の言葉で、ツクモガミと呼んでくれ。いうなれば歴史の流れを正しいものすることが、わたしの役目。わたしは意志を持つ機械であり、九十九動雷部ドライブそのものである」

「何をもって、歴史の正しい流れとするつもりだ」

「九十九動雷部ドライブがある歴史。鵺ブラスターがない歴史だ。それが正史に一番近い。佐々木虎之介、そのクォーク・リフレクターをわたしに渡し、おまえは死ね。さすれば、歴史の流れは最も元の正史に近いものになる」

「断る。そうもいかん。おれがいない歴史が正史だと? それはおれの正史と相反する」おれは苦笑した。「だから、断る」

「ならば、おまえを倒し、そのクォーク・リフレクターを奪い、過去に行き、歴史を更正するのみだ。なにしろわたしのクォーク・リフレクターはすでに機能を停止してしまった。だから、おまえの持つ、それが必要だ」

 ツクモガミに乗っ取られた北辰は、手を差しだす。

「渡さないって」

「ならば、殺して奪う」

「おれを倒すつもりか? おれは雷威漢ライカンであり、剣技に優れ、九十九動雷部ドライブと鵺ブラスターを装備している。おまえでは勝てん」

「わたしは九十九動雷部ドライブそのものであり、雷威漢ライカンを装備している。この組み合わせは最強であろう」

 言うが早いか、北辰は獣化を始めた。

 髪の毛のない頭から鹿の角を生やし、唇の間で剥いた乱杭歯がノコギリのように鋭い牙の列に変わって行く。口が広がり、鼻から顎までがぐいぐい前へ飛び出し、目がぎょろりと見開かれた。ざっと音を立てて、北辰の全身に青い鱗が生えそろう。

 ん? 鱗? 鹿に鱗なんかあったか?

 おれがきょとんとしている間に、北辰の身体は身長が2メートルを超す長身に変化し、指先からダガーのような爪が伸び、ワニの様にのびた顎から長い一対のナマズ髭、頭部からは見事なタテガミが生えてくる。

 ……鹿じゃねえな。おれはその辺りで、やっと気づいた。勝鹿北辰のことをおれはてっきり鹿の雷威漢ライカンと勘違いしていたが、なんという愚かな勘違いだろう。だいたい十二支に鹿はいない。これは辰だ。龍だ。ドラゴンだ!

「って、架空の動物じゃねえのかよっ!」

 と、ここでクレームつけても仕方ない。

「残念ながら龍は決して架空の動物ではない。遠い昔、非常に希少ではあるが、確実に存在した実在の動物だ」

 実在の動物だったとして、いったい北辰の爺さんはどこからその遺伝子を取り込んできやがったんだ。ふざけやがって。倒すこっちの身にもなってみろってんだ。



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