093:国のこと種族のこと
遠い遠い昔、ジェッテブルク山一帯は大きな水の地だった。
国の歴史は、この大地の変化に伴い起こった。
手にした本は、そんな出だしで始まった。
こういった時代の国の成り立ち云々なら、神話みたいなもんでも書かれてあるんだろうと思ったら、意外と現実味のある内容のようだ。
それでも国以前から始まるとは壮大だな。
「海だったってこと?」
北西の、寒く乾いた隆起の激しい地には岩腕族。
南東の、暑く湿地の多い平らな大地には炎天族。
その両者の間を、踏破不可能と言われていた大樹海と水の地が隔てていた。
大樹海には、外縁の山間に隠れ住むようにして首羽族が、広大な森のほとんどには森葉族が栄え、中心部に閉じこもるように樹人族が暮らしていた。
そして水の地沿岸には
我らはそれぞれの地に住まい、互いに干渉できる環境にはなかった。
「お、変な種族でてきた」
我ら別々の種族が今日を共に歩むことになった原因は、自然の気まぐれによるものだ。
ある日、激しい揺れが各地を襲うと、大地を割り多くを飲み込んだ。かと思えば、隆起した。
そうして、長くはない期間で水の地は消え、山が聳え立った。
それがジェッテブルク山である。
「おぅスペクタクル」
そのとき、周辺の鱗鰭族は絶滅したと伝えられている。
「滅んだのかよ!」
えぇ……いずれは他の種族に会えるかもって、密かな楽しみだったのになぁ。残念すぎる。
いきなりやる気が削がれたが次だ。
ジェッテブルク山ほど高く峻険な山を我々は知らない。当然ながら祖先の気を引いた。周囲も含めて陸続きとなったのだから、引き寄せられるように訪れたのだ。
ちょっと待った。あれが、この世界で最高峰なの?
えぇ、小学生の遠足コースレベルなんですけど。
ハッ! 山登りなら俺でも俺ツエーでき……遠足競技などないな。
で、それから?
まずは岩腕族と炎天族が、突如現れた山を目指した。
興味本位もあったのだろうが、どちらの暮らす地も穏やかとは言い難かったこともあり、新たな住みよい地を求めたのだろうと言われている。
そうして山の麓で二者は出会い、争いとなった。
初のジェッテブルクの戦いである。
「逃れられない運命!」
人の業ってやつですか。そこは仲良く分け合っておこうよ。
こんな平和に見えるのに、そんな過去もあるとは……平和?
魔物は、ひとまず別問題で。
ぺらっとめくったら、数頁が第何次ジェッテブルクの戦いだとか、奪回戦だ攻防戦だと続いている。流し読みすると、後半には遅れて合流した森葉族がヒャッハーしていた。とんだ暗黒時代のようだ。
そんな時代に飛ばされなくて本当に良かった。微塵も生きていける気がしない。
最後の大きな戦いで、時の長らは山の周囲を三つに分け、それぞれを岩腕族、炎天族、森葉族が治めることとなった。
そのように境を決めはしたが、なるべく争いを避けるように、山に居住区は置かないなどの条項が設けられる。
「やっぱ森葉族はちゃっかりしてるわ」
そのときに定めた境を元に、他者から種族を守護する概念が生まれたのが国の始まりである。それぞれの種族が住んでいた地に国を興した。
大小の部族は多くあったが、それらを包括する初の試みであった。
そして内乱がしばらく続くと。ええい、もう最後らへんを見よう。
そのようにして山の周囲に国が興こり、外へと広がっていったのだ。
我が岩腕族率いるレリアス王国は、間違いなく世界を率いる中心の一つである。
「めでたしめでたし」
なるほど、レリアス国民が書いたものだから贔屓目な内容のようだ。岩腕族の功績あたりは話半分で覚えておこう。
確かに、レリアス王国の王様は岩腕族だったな。
と言っても、俺が見たのはゲームのプロローグでちらっと流れた絵だ。邪竜のことで苦悩し項垂れている絵面だった。顔は見えなかったが、代わりに頭を抱える腕の特徴は目に付いた。
そういや、ここは中心地だから、とかなんとかは……ああシャリテイルが言っていたな。こういった出来事も関係するんだろう。
これが現在の人間が知り得る歴史だよな、多分。知っていて当然、前提の知識の気がする。
結局、分かったのは争いのことばっかりだが。というより、その結果が国という形なのか。どこだろうと人間がいれば大して違いはないのかもな。
本を閉じてから気が付いた。
「おい、俺はどこだよ?」
いや人族だ。人族どこいった。
「まさか、同じ人間と数えられてなかったとか……」
できれば暗黒面は知りたくないが……仕方ないか弱っちぃんだもん。
ちらと隣に並んでいた本を見ると、今読んだものと同じくらい分厚い。他の数冊は、この二冊の半分ほどの薄さだ。
厚い方を先に片づけよう。
重いもう一冊を取り出すと、魔素の関わりと書かれていた。
「あるじゃん。こういうのだよ」
これなら仕事にも役立ちそうだ。
しかし開いて目に入った見出しは、思いもよらない言葉だった。
『人族の成り立ちから話そう』
出てきたよ人族。
その下には、大地が繋がる前からのことについて簡単に書いてある。先に国の成り立ちを読んでおいて良かった。それにしても、こっちもまた壮大そうだな。
期待に頁をめくり、目に飛び込んできた言葉に衝撃を受けた。
『全ての種族は始祖種の人族から枝分かれした』
「えっ嘘!?」
人類の元が一つの種だったってことは、俺は、他種族の良いところを取り除いた残りカスみたいなもんなのか。いや、進化できなかったのか?
恐ろしいことが書かれてないだろうな。ちょっとドキドキしてきた……。
「ん、まてよ」
魔素の話だよな。
一度、表紙に書かれた文字を読み直してから内容に戻る。
なんで人類学になってんの。魔素はどこだよ。
まあいいか。これはこれで気になるし。次頁だ。
始祖種人族は、全身に満遍なく魔素を巡らせていた。
それが原始的な様々な環境下にも耐えて順応できるだけの、頑丈さと柔軟さを備えていた。
細々とだろうと生きていけるがゆえに、環境の改善を試みようとは思わなかったのかもしれない。時を経て、人は遠く方々へと散っていった。
より過酷な環境に辿り着いてしまった者達は、体を適応させるべく体内の魔素を変異させた。その結果が現在の種族差である。
「おぉ、魔素はそう繋がるのか」
灼熱の地に炎天、雪と岩山の地に岩腕、空の遠い大森林に森葉、外縁部に首羽、奥樹海に樹人族、水辺に鱗鰭。
「さっきの本と内容ダブってね。手抜きかよ……違った」
岩腕族は凍える山中で、凍傷から末端を守るために自らの四肢を硬化させた。
「余計に血が詰まりそうなんですが」
炎天族は獣を狩るために、一時的な身体能力の強化を成し得た。瞬発的なマグの強度増加を支えるべく大型化した。
「やっぱりチーター系肉食獣だったか」
大樹海の種族は、三種とも同様の進化を遂げる。
森葉族は、空が遠く視界の悪い森林を難なく歩き回れるように、察知能力を発達させる。その変化が、葉のように大きくなった耳だ。
「自前のアンテナか。羨ましいような、自力で音? 遮れないのはうるさそうな」
首羽族は樹上に隠れ住む内に体が細くなり、耳よりも音を聞き、髪よりも風を感じることのできる羽を発達させた。
「一体なんの器官が発達したんだいや知りたくない」
樹人族は、うねった巨木が大地から空まで覆う奥地に暮らす内に、自らを木々の一部のように変化させた。奥地は魔素に満ちており、それらを活かすべくマグを多く取り込みやすい肉体へと変質した。しかし、あまりに大きな変化のため、運動能力は著しく衰えた。
「そこまでしてわざわざ擬態する?」
このようにして人種の表に出ている特徴は、体内の魔素を変異させて表面化されたものである。
しかし、全身を巡っていた魔素を一部へと集中させたことにより、弱点も作られることとなった。
「へえ、それが動きの制限に繋がるのか。だったら元の人族は完璧超人じゃん。で、現在の人族は?」
頁をめくったが、その項目は終わっていた。人族って人類についてかよ。
肝心の現在の人族は、書かれてねえ!
腹立たしく次の項目に移ったら書かれていた。別枠でした。
後の人族だけが、他の種族と違い、体内の魔素を抑える方に発展させた。隠れ住む忍耐力を引き継いだのだ。
その変化のありようから、すでに世界は魔脈の危険にさらされていたことが窺える。
「退化してんじゃねーよ!」
いかん叩きつけてはダメだ。俺の本じゃない。
しかし、マグか。
ふとシャリテイルが言っていた、宴会での爺さんの戯言を思い出した。
樹人族と森葉族が遠い親戚ってのは、こういう話だったんだろう。
疲れたしと本を閉じかけて止める。
ざっと最後だけ確認しておこうか。何かしらの結論だか、重要なことが書かれているかも。
そうして飛ばした最終頁にあったのは一文だけだ。
『十分に聞き取り調査をし、各地へも足を延ばした。これらは未だ定かではないが、我らは確信を得たものであると、ここに記しておく』
「推測かよ!」
俺の感心と久々に勉強しようと湧いた意欲をどうしてくれる。しかも魔素の関わりって、魔素と人類の関わりってだけじゃないか。
複雑な気分だが、これがここの住人の共通認識なんだろうし、無駄なことはなにもない。ないはずだ。
途中から人族の事が気になって飛ばして読んでしまったし、また気が向いたら読みに来ようか。
そこそこ満足したところでギルド書庫を出ようとして、また戻った。
「どうしよう、時間が余りすぎる」
もう少し読むべきか。いや短い割に結構な情報量だったし、いったん吟味してみた方がいいだろうか。
漠然と知らないことを知れたらいいなと考えていたが、読んでいたら特にマグに関することを突っ込んで知りたかったんだなと気が付いた。
興味あろうがなかろうが機会があるなら調べるべきなんだろうが、仕事に関係ある事柄を優先したいからね。一応俺も冒険者なんだし。一応ね……。
マグというか魔素だな。ゲームでは同じ意味なだけで死に設定と思っていた。
実は、生き物の中に存在する状態が魔素で、目に見える形に変化しとたものがマグと呼び分けられている……ような気がする。
字面を見りゃ分かりそうなもんだ。素とか付いてるし……漢字文化圏じゃないと思うが何をどう翻訳してんだ?
それはいいとして、なんでもかんでもマグと付くから深く考えると混乱しそうで、はいはいマグねと受け流していたことだった。
マグだけじゃなく、ランク関係も低中高を魔物や冒険者など大抵のものに使っている。
単純にしようとして余計にややこしくなるの典型な世界らしい。
でもこの件は、ちょっと違うか。ギルドが依頼の難易度を定めたものだったのが、それをこなせる冒険者にまで勝手に使われるようになっていったってことらしいもんな。
で、そのマグをあちこちに運んでいるのが魔脈だというのも、こっちに来て知ったことだ。
「魔脈、なんか引っかかるな」
あんまりな人族の退化ぶりにショックで閉じてしまった本、魔素の関わりを再び開いて人族の項目を見る。
気になったのは、人族が退化した時期に魔脈の影響がありそうだという文か。
これって魔脈は元からあったわけじゃないってことだよな。
かといって魔物が居たような記述はない。魔物は邪竜が引き起こした現象らしいから、人の歴史の中で言えば結構最近のことなんだろう。
でもこれだと、魔脈からマグを得て生成されたもの――魔物だけが危険なのではないということになる。
魔脈が危険? 地中をマグが通ってる道というだけのはずだ。
マグ自体も、別に触って病気になるとか中毒症状が出るなんて聞かないし。
俺も気分が悪くなったことはない。
貨幣から道具まで何にでも使ってりゃ、例えばアレルギーなんてあるなら、とっくに問題になってるはずだ。
たんに魔脈が引き起こす魔震が問題だったんだろうか。
初めは、虚弱種族だから隠れ住むように暮らしていたんだと思っていた。
それが逆だった。隠れるために弱体化したと書かれているんだ。
「おっと、推測だったな」
危ない。鵜呑みにするところだった。
そりゃあ現地を調査したようだし、全くのデタラメでもないんだろうとは思う。
今のところは信じるに足るとされているんだろうけど。
魔脈が現れた後の時代について書かれた本があれば、魔素に限定せずとも嫌でも書かれてありそう……あるのか?
改めて目の前の棚や周囲を見渡してみる。
「違和感あるな」
もっと本が当たり前にあるんだろうと思ったのは、シャリテイルが図鑑がどうのと話していたからだ。
そんな立派なもん、ありそうにない。
そういえば、シャリテイルも外からこの街に来たようなことを言っていた。
大きな街に住んでいたのかも。
そもそも、この街で生まれ育った奴らがどれだけ居るのかって話だな。
街を見て回ったり話を聞いている内に、あちこちから出稼ぎに集まってきたほうが多いように思える。
「うーん」
考えこんでいると、木が軋む音が聞こえてきた。
振り向くと、扉を肩で開く薄緑色の制服が目に入る。茶色がかった黒の短髪はトキメだ。両手で顎まで積んだ板を抱えている。
ここで唸っていたってなんのスキルも得られない。出よう。
「誰かと思えば、タロウか。調べものかい。熱心だねえ」
俺が手にしていた本を棚に戻すと、その音に気付いたらしい。
「まあ、そんなところかな……」
ぐっ……気分転換という名のさぼりとは言えない。
トキメは板の束を、細長い作業台の上にどさっと置いた。
それはただの板ではなかった。分厚い紙の束を、二枚の板で挟んで紐で括ってある書類らしい。事務ってより力仕事のようだ。
それは日本でも変わらないか?
よく知らないが、何かと届いたり送ったりダンボール箱と格闘しているイメージがある。たまたま働いてたバイト先の偏ったイメージかもしれない。
曖昧に言葉を濁して棚に目を戻すふりをしつつ、トキメの作業を横目に見た。
思えばトキメも、この街では珍しく人族でギルドに関わってるやつだ。
というか他に見た覚えがない。
その辺を聞いてみようかと思ったが、やめとこう。
何か出自が云々と面倒くさい話になると困る。
聞いたら、俺も話さないとならなくなりそうだし。
代わりに今知った歴史のことを聞いてみようか。
仕事の邪魔しないようにと場所を借りたのに、余計に好奇心……いや疑問が湧いてしまったからな。
「少し、話しても大丈夫か?」
「ああ、もちろんいいとも。なんでも聞いてくれ!」
トキメはがばっと顔をあげると、笑顔でいい返事をくれた。
なんで、めちゃくちゃ嬉しそうなんだ。ちょっと引く。
「せっかくギルド職員として学んだことだ。冒険者の役に立つなら大歓迎だよ」
窓口も代打っぽいし、基本、トキメは裏方仕事だよな……冒険者に頼られる機会なんか、滅多にないのかもしれない。
いや俺に不憫に思われるいわれはないな。ギルドの事務方なんて、まさに人族向けの仕事じゃないか?
ちょっとその職も良さそうだけど、常識を知らない俺には務まりそうもない。
手近の木箱に背を預けて、仕分けするトキメの作業を眺めつつ話しかける。
「んじゃ遠慮なく。ちょうど、この国の歴史を再確認してたんだよ」
知ったかぶりスキルを発動だ。
「噂で聞いてると思うけど、俺はその……人族しかいない村で育ったから、知ってることにズレがあるらしくて」
「そのようだね」
トキメはなんの疑いもなく頷いている。
なんて汎用的なんだ俺の嘘出自。
シャリテイルの適当な説明だと思っていた噂話は、的確だったんだなと改めて思う。お陰で不審人物と思われずに馴染めたんだと思うと、もっと感謝するべきなんだろうな。
その内、本当に人族の集落を訪ねてみるのも面白そうだ。
「例えば、岩腕族と炎天族の戦いとか、あまり詳しく伝わってなかったから驚いたよ。この街にいると、そんなに長いこと争っていたとは思えないし」
そもそも国になる以前なんだから、数百年と昔の話なのかな。現在まで影響があるはずもないか。
そう思ったが、トキメは意外なことを言った。
「そうなんだよ。だから一般的には、岩腕族と炎天族は馬が合わないなんて言われている。実際、気性が違うから、ぶつかり易いね。もう混ざって暮らすようになって長いから、最近では結局のところ人によるけどね」
混在するといっても、さすがに各国の人口比は、元々住んでいた種族の割合が多いらしいとトキメは付け加えた。
「へー、意外」
あまり仲がよろしくない種族があるとは……ゲームにもメンバーの相性はなかったな。現在の世界を参照しているなら当然だろうか。
ともかく、この街に居る限りだと、そんな風には感じられない。
ん?
「どこかで、そんな二人を見たような……」
あ。
砦長とギルド長だ。
炎天族の砦長と、岩腕族のギルド長の訳の分からん対抗心は、企業内の派閥争いみたいなもんかと思ったが、俺は会社のことなんか知らないし。やることが違うのに何を張り合うことがあるかといえば、私情かなとも思っていた。ライバル視とかさ。
実は敵対していた歴史も関係あるんだろうか。
「はは、そういったことをダシにしてるのもいる。あまり取り合うんじゃないぞ」
ありそうだな。ただの似た者同士なんじゃないか?
オッサン連中のことはどうでもいい。本の事だ。
軽く別のことに触れた後でと思ったら、意外と深かった。
そう、本題がある。
「王都に行ったことは?」
「あるとも、たまにギルドの用事もあるからね。短い滞在だから詳しくはないが」
よし!
「本を売ってる店とか、あるかな」
なにか不思議そうな表情をされたな。変なことを聞いたんだろうか。
「まさか、本を買うために王都へ行きたいのか? 数もないし高価なものだよ」
あ、そんな風に聞こえたのか。それに、やっぱ高いのか。ですよね……。
「そう、た、高いよな知ってる……その、魔物の図鑑とかないかなと思ってさ。あっても良さそうなのに、ここにないから気になって」
なぜか今度は笑い出した。トキメよ、お前のツボが分からない。
「ああ、すまないね。言われてみれば、その通りだ。ただ、ここでは職員が調査しているから、詳細に書かれたものならそこにあるんだ」
トキメは俺の背後を指さした。
例の本棚の、ファイルケースか!
「図鑑か。そうやってまとめるのもいいんだろうが、詳細が多すぎて到底一冊では無理だ。かといって一冊にまとめる程度の内容であれば、図を並べるだけになる」
えっあのファイルケースって、全部魔物の情報かよ。
俺がたまたま手に取ったのは街の周囲のことだったが、言われてみれば魔物の活動範囲についてでもある。
紙が厚い分、綴じる限界を考えると難しいのか。分類毎にまとめて分冊も難しいよな。森と川をまたぐアラグマのように、活動範囲が重なるやつもいるし。ランク別だと、ほとんどの種類が中ランクに分類されちゃうもんな。
「なにより魔物は、姿は違えどマグの塊で、その姿すら分かれて変えてしまうものだから。姿を説明するだけなら意味はないだろうね」
分裂しちゃうのがネックなのか。
それに、ゲームのモンスターリストなどと違って、ステータスなんかは載せられない。
「重要なのは分布だが、それは街によって違うだろう? 種類は地形に依存するだろうが。ともかく、そんな情報が必要なのはギルドくらいのものだし、各ギルドが各々所属場所のものを作成しているからね」
た、確かに。学ぶというより、実用的なものが求められるんだろうな……。
「まあ、そう落ち込まないでくれ。もちろん王都にならあるはずだから。もしかしたら、ギルド長は保管しているかもしれないな」
「あるのか」
「大昔に魔物を調査した記録があるんだよ。それを元にして、各地での情報をすり合わせることができたんだ。それでようやく地形と魔泉との距離などに依存した魔物が発生するだとか、分かったわけだ」
あれを手探りでか。全種類の魔物が揃っている場所はこの街だけというし、かなり大変な調査だったろうな。何年もかけて現在のシステムになったんだろう。
「それにしても……ここだとすぐに実物を見ることになるから、誰も本をギルドに置こうと考えたことがないのかと思ったら可笑しいな」
低ランク冒険者すら、いきなり地獄の花畑送りだもんな。恐ろしいギルドだよ。
それで、笑っていたのはそんな理由か。やっぱり笑いのツボが分からん。
「タロウの言う通り、案内用のものを一つ置いてもいいかもしれないな」
今日のところは、これくらいにしておこう。
トキメに邪魔を詫びてギルド書庫を出た。
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