075:泥まみれの対峙

 悪餓鬼ビチャーチャに挑め!


 なんと、特殊クエスト発生だ。心の中でジャジャーンとジングルをつけつつ気持ちを切り替える。暢気なのか異常なのか分からない状況だが、冒険者の仕事なのは間違いない。


 現在、俺とシャリテイルは、ターゲットである泥人形と車一台分ほどの距離を取って誘導しつつ後ずさり中だ。動作は遅く危険らしい危険は感じないが、相手の横幅もあって大きく見えるし、地面も平らではないから足を取られないよう気を付けながらで冷や冷やする。うっかり躓いて、でろでろとした足に踏まれたくない。


 それにしても……こんなに楽な、というと語弊があるか。

 どうしてこんな魔物に、住民はあんな叫び声をあげていたんだ?


「タロウ、ちょっとそのままでいてね。門を開けてくるわ」

「分かった」


 シャリテイルは風のよう身をひるがえす。あの俊敏さの十分の一でいいから、俺も欲しい。

 溜息交じりで遠い目になり、泥人形を振り返ると、やや距離が詰まっていた。

 間近に見ると余計に不気味だ。どこに目があるのか、そもそも顔があるのかすら分からない。

 光の加減か、頭から泥水がゆっくりと湧きだし、体を伝いながらぬらりと流れ落ちて見える。汚ねぇチョコレートフォンデュだ。


 流れを追うと、不思議なことに地面まで滴り落ちる量は少ない。たぷたぷの腹回りをじっと見れば、泥が体を巡っている?

 ますます気味が悪いが、泥を体に留めるような特殊能力があるんだろう。

 つい興味を引かれて観察してしまった。

 これ以上近付くとまずいかな。下がろう。


 大きく下がろうとしたとき、泥人形の腕が広がった。思ったより機敏だ。

 その幅広い泥のヒレは、眼前でしなった。

 咄嗟に顔をかばおうと上げた左腕を覆うようにして、でろっとした泥の網が、べちゃりと貼りついた。


「ぅ、うおおおお!」


 気持ちわりいいぃ!

 住民の叫びの謎は解けた。くっ、身をもって知ることになるとは……。

 それから、ちかちかと視界が陰る。こんなときに立ちくらみ?

 まさか、マグ、吸われてる……?

 急いで振り払おうと、ナイフを叩きつけようとしたが、広がった泥の網に腕ごと沈み込む。


「え!? どど、どうすりゃいいんだよ!」


 気を抜いた自業自得だが、窮地に立たされ動転してくる。

 必死に下がれば、ぶちゃぶちゃと引きちぎれるような感触はあるが、ねっとりと絡みつくようだ。

 ああこれ、腹回りの動きと同じか。泥装甲の下に腕があるようには見えないから、何かで泥の体を維持してるんだ。で、その引き寄せる力が、こうして捕縛にも役立つと……どどどうするどうしよう。

 踏ん張って思い切り上半身を捩る。泥縄が伸びた瞬間に、掛け声が聞こえた。


「えいっ」


 次いで視界を遮ったのは、杖だ。

 腕に絡みついていた泥が弾け飛び、不意に体が浮く。


「うわっ……でっ!」


 思い切り後方に力を入れていたのと泥で滑って、尻餅をついた。

 やっぱり、こうなるのか……。


「タロウ、餌をあげないで? 本体にくっついてる間は、あの泥からもマグが吸われるわよ」

「餌って……いや助かったよ」

「さっ急いで!」


 立ち上がると、わずかにぐらついた。

 ああもう、マグ低下の眩暈って本当に嫌だ。

 頭を振って急いで下がり、もう一度大きめに距離を取る。


「じゃあ、もう一度いきましょう。初めに見せたくらいに、付かず離れずがいいわよ。あー杖が汚れちゃったわね」


 シャリテイルは魔物との距離はそのままで、俺から横へと距離を取った。そこで杖を振り泥をはらう。それでも少し飛んできたんですが。


 その時、またもや異変が。

 泥人形は速度を上げ……そして俺へと真っ直ぐに近付いてくる。速度を上げたといっても、大人がやや早めに歩く程度。

 もしかして、さっきもシャリテイルが離れたから速度を上げてきたのか?


「なんでこっちに来る」


 シャリテイルが無言で、てくてくと俺の横へと近付く。

 泥人形は速度を落とす。

 さっとシャリテイルは跳躍して俺から離れる。


 このクソ人形……。

 俺の方にだけ、ふらふらと寄ってきやがる!


「うわぁ、これは新発見ね! この泥団子君、弱い子を判別するんだわ」


 シャリテイルは顔の前でポンと手を打ち、破顔する。

 なんて言いざまだ。俺は嬉しくない。


「魔物もランクが上がると、取り込みやすそうな対象に鼻が利く種類もいるのだけど、泥団子君もがそうだなんて初耳だわ。いえ、そもそも民家に入り込もうとするのは、そういうことだったのかしら?」


 滅多に出ないから情報が少なかったのと、シャリテイルは楽しそうだ。

 泥団子め、俺が弱いからって舐めやがって!


「いいわね。これを逆手に取りましょう」

「何をする気だよ」

「距離間はそのままに、少し速度をあげて、それから刺激してみましょうか」

「なっ!」

「まあまあ、簡単なことだから」


 そうして俺はシャリテイルに指示され、一人泥人形の前に立った。




「どうした、おまえのちからはそんなものかー」


 つい棒読みになってしまうが、仕方のないことだ。超危険ランクに分類されてもおかしくない特異な魔物だからな。

 町内放送でイノシシが出たから気を付けましょう、といった注意報が出されるレベルの恐ろしい相手なのだ。


 しかし、幸いにもここではそれなりのランクの冒険者が即座に派遣されるのだから、なんとも心強い。

 当然、緊急事態だから、たまたま居合わせた冒険者だって手を貸す決まりがあるのだろう。決まりなんかなくとも、手助けしたいのが人情ってもんだ。

 なんだが……何故それが泥人形に石を投げることになるのか。


「もうちょっと気合い入れなさーい、タローる!」


 北欧の妖精みたいな呼び方をするな。

 またそこらの石を取って、渾身の力を持って投げる。

 にょろにょろと伸びる泥の腕へと石ころはヒットすると、べちゃりと泥が跳ね返り、地味にこっちの全身の汚れも酷くなっていく。

 泥まみれになるのが俺だけって、嬉しくもなんともねえ!

 こうなったらヤケだ。


「ほら来いってんだよ!」

「その意気よ!」


 シャリテイルは、離れた位置から見物するように囃し立てた。

 攻撃して刺激すると、魔物の方も臨戦体勢になり動きは機敏になる。それを利用して、追い出すのにかかる時間を短縮しようということだった。


「ほんと、誘導が楽で助かるわね」


 確かに、初めの遅さと比べれば格段に速くなったけどな。

 溜息をつきたくなるのを我慢しつつ俺は囮になり、シャリテイルは時に泥人形を背後から追い立てながら、柵の外まで誘導する任務に集中するのだった。


 苦労の甲斐あって、ほどなくして柵の外まで連れ出すことに成功。


「わあ、あっという間ね」

「俺には果てしなく長い時間に思えたよ」


 時間は短縮されたはずだが、俺の忍耐が試される難敵だったぜ。


「シャリテイル。待たせたな」


 一息つきつつ、さらに森の方へのろのろと移動していたとき、炎天族の男が現れた。待たせたと言いつつ、急ぐ様子がないどころか欠伸交じりだ。


「やっほーキグス。ちょうど連れ出したところよ」


 おお、あれが他の高ランク……なのか?

 炎天族らしく長身だが、平均より幅もあるように見える。

 が、恰好がおかしい。そこの農夫のように、シャツと目の粗いオーバーオール姿で、生地は所々擦り切れかけている。腰の幅広の革ベルトには、小さめの道具袋が幾つかあるが、どう見ても戦闘職の恰好ではない。

 ただ一つ、大きな革のホルダーに差してあるのは、武器ではなく工具にも見えるんですが……。


「もしかして、休日?」

「ううん、今日の待機組。彼が高ランクの、キグス・フィルドよ」

「待機組?」

「高ランクの内一人は、街の近場にいるようにってギルドとの契約ね」


 なるほどと頷いた。

 何か異常事態があったら大変だもんな。あ、今回がそうか。


 しかし、ギルドでも遠征の時にも見覚えがない。

 五人の高ランク冒険者の内、カイエンと、もう一人の炎天族がこいつか。

 やっぱ、即戦力なら炎天族がトップなんだろうな。

 以前考えたレベルのことを思い出した。強い奴が、より多く魔物を倒すから強くなる。その証明のような気がしないでもない。たった五人の少ない割合で結論付けるのも無理やり過ぎるが、遠征組の他の面々を改めて思い出してみて、そう思えたんだ。どっちにしろ漠然としたものだな。


「それにしても今回は、連れ出すのが随分と早かったじゃないか」

「えっへん、こちらにおわすタロウが編み出した追い出し戦法よ!」

「やめてくれ」

「ははは、おかげで仕事が楽になったな」


 キグスが笑いながらホルダーから取り出したのは、手斧らしきものだった。柄は長めで先端は斧より小ぶりだが、分厚く片方が尖っている。ピックハンマーっぽいなって、ええええ!?


 それを手にした瞬間に――泥が弾け跳んでいた。


「ひぇっ!」


 俺は息をのむことしかできなかった。

 豪快な破裂音と飛び散る音と泥水の雨を残し、キグスは何事もなく武器から泥を払いまたホルダーへと戻す。

 泥人形から大量の赤い煙が抜けると、残された体の泥はグズグズと崩れ落ちていった。


 はえぇー、これまたあっさりと……なんて馬鹿力だ。

 そう速く動いたようには見えなかった。だというのにハリスン並みの素早さで移動し、攻撃を加えたと思えば元の位置に立っている……少なくとも、俺の目にはそう映った。

 しかも、そんな無茶に見える動きをしてさえ、まだ余裕を感じる。


 力任せタイプに見えるせいか西の森のまとめ役を思い出したが、はるかに格上。

 まとめ役が夢見ていた、素手での高ランク素材ゲット。この男なら、素手でペリカノンだって撃退できると思えた。


「これで、おしまい。でいいんだな?」

「ええ、他の報告はないわね。後は、奥の森方面への増員手配だけど、私の方で報告するわ」

「頼んだ。じゃ、タロウもお疲れ」


 そうして、軽く片手を上げるとキグスはさっさと戻っていった。なんか、だるそうな来がけよりキビキビと戻っている気がする背を、呆然と見送る。

 高ランクなんて、たまに大物を倒したら後は左団扇で過ごしてるんじゃねえの、なんて思っていた。

 見えないところで確実に、みんなの支えとなってるんだな。


「どうしたの、タロウ? 戻りましょ」




 シャリテイルは畜舎の方へ戻り、ビチャーチャ討伐の報告をした。


「いやぁ、すぐに駆けつけてくれてありがとうな!」

「ああ、本当に助かったよ!」


 どろどろになっていた建物周辺の、掃除に取り掛かっていた住民たちから囲まれ感謝の声を頂いた。

 俺はただ引っ張っていっただけだから素直に喜べない。

 これを聞くべきは討伐したキグスではないかと思うが、そんなことを俺がここで言ってもしょうがないか。


「たまたま近くに私たちがいて良かったわね!」


 俺とは違い、シャリテイルは相変わらず自信満々に胸を反らしているが。


 話の流れで被害について尋ねたところ、家畜の何頭かが弱気になっていたらしいが、命に別状はなかったようだ。弱気ってなんだよ。

 ともかく、困惑するほどひどく感謝された。


 でも、道理で。

 泥だらけになっている人間が多いことが気になったが、彼らもどうにか追い出そうと頑張っていたらしい。

 農地の人族も、冒険者らに守られて当然なんて、甘い考えで居るやつはいないんだ。


 シャリテイルや、中ランク以降の冒険者のように、実力が認められた者は別格かもしれない。でも、低ランクの奴らだろうと振る舞いは自信に溢れてみえる。


 俺だって、もう少しくらいは誇っていいのかもしれない。いや、誇った方がいいというか。いつの間にか、卑屈になりすぎていたように思う。

 何もできない自分を受け入れたからと、自信なく仕事をするのは違うよな。


 自分の仕事に誇りを持ち、自信をもって挑む。

 その気概でいなきゃなって、思い直した。




「タロウ? なんだか遠い目をしてるところ悪いけれど、このあとの予定は?」


 まるで俺が急に依頼がキャンセルされて暇してるみたいじゃないか失礼な。

 残念ながらキャンセルはされてないと思うが、暇だよ。今からどのカピボー退治しようかと頭を悩ませていたのを悟られたのだろうか。

 俺の答えを待たずシャリテイルは切り出す。


「どっちでもいいのだけど、ちょっとギルドに顔貸してもらうわよ」


 なっ、なにかまた俺はまずいことをしたのか?


「いいわね? じゃあ、手間賃をもらいに行きましょう!」

「いちいちおかしな言い方をするなよ!」


 俺の叫びは既に届かない。言うだけ言うとシャリテイルはさっさと歩き始めている。って、なんで俺まで。何もしてないってのに。

 追いついてシャリテイルに並び、詳細を聞く。


「手間賃って、俺たちは外まで引っ張っていっただけだろ。こんなのでも報酬もらえるのか」


 あの調子で誘導するだけなら、人族だろうと関係ないように思えるんだけど。


「当たり前じゃないの。住民から危険目標を隔離した。十分な働きよ!」


 言いすぎな気もするが、事実そうなる、のかなあ?

 しかし少しでも魔物と関われば報酬とは、そんなところは徹底してる。


「ふんふ臨時ーふふーん臨時収入ー」


 なにか横でゴーゴーダンスのように両腕を振りながら歩く存在が気になるが、通りを見回しても誰も気にかけている様子はない。

 感覚がおかしいのは俺の方……?

 口出しすまい。口出しは。


「……歌、へたくそだな」

「あ、ごめんなさい。なにか言った?」

「いや、なんでも」


 うっきうきのシャリテイルと、俺は恥ずかしいような微妙な気持ちを飲み込んでギルドへ移動した。




 窓口には、見慣れた姿があった。


「コエダさん! 魔震の方、もういいんですか」


 トキメには悪いが、木のようでもやはり女性の方が嬉しい。いや、雌株?


「ええ、さきほど通常業務に戻りましタ。まだ後処理はありますが」

「全体的に魔物が増えたのよね」

「そうだったんだ」

「この街に魔震が起きるなんて数年ぶりですヨ」

「慣れてない人も多くて、ちょっと体勢を整えるのに苦労したかな」


 二人のちょっとしたお喋りからは、多くの情報が得られる。

 いつも思うが本当にダダ漏れだけどいいんだろうか。まあ、ギルド内には冒険者しかいないけどさ。


「そうでしタ。タロウさんには依頼の件で、ドリムより伝言がありまス」


 来たか。


「在室時はギルド長室へ来てほしいとのことで、今からお時間いただけますか?」

「えっ、はい」


 今後も、俺は直でやり取りすんのかな。

 仮にも偉い人と、一対一でなんて居心地が悪い。

 えーやだなー。などと思うのは、まだまだ学生気分が抜けてないからだろうか。


「シャリテイルさんは、街の中に出現した魔物の件ですネ。キグスさんから討伐報告だけは受けましタ」

「ほんとあの人、出不精の面倒くさがりなんだから。で、そのビチャーチャの追い込み漁なのだけど」


 もう漁だとかはいいとして。

 キグスって見覚えないと思ったら引きこもりかよ。しかも颯爽と去っていったように見えたのは、面倒くさがりだからかよ!

 いやいや、シャリテイルの物言いを信じてはだめだ。良い方に受け取るんだ。

 無駄が嫌いな仕事人なんだよきっと。


「……なるほど、そうだったのですカ。ではタロウさん。こちらに署名を。タロウさん?」

「あっと、すいません」


 大枝嬢から紙を受け取った。

 内容は緊急依頼と書かれている。

 その下にある額は――5000マグ。


「えっ、こんなに」

「足止めだけだから大した額ではないけれど。臨時って、響きがいいわよね」


 大した額じゃない? 一時間くらいだっけ。わずかな時間でこの額だぞ。


「俺には、大金だよ」

「だったら、ほら、もっと喜びなさいよ。笑顔笑顔!」

「……は、はは」

「中途半端は気持ち悪いわよ?」


 つ、釣られただけとはいえ笑ってみたのにひどい言いぐさだ!


「そうだコエダさん。はい、タグ」


 シャリテイルに続いて、俺もタグを渡す。


「せっ……んぐ」


 思わず目を見開いた。

 1865マグ、増えてる? 見間違いじゃないよな。

 さっきの手間賃の方が額自体は大きいが、コントローラーに必要な魔物を攻撃したことで得られるマグの方が、俺には重要なことだ。


 え、いつ攻撃したよ?

 小石を投げつけたときか、それとも絡んだ腕を引きちぎったとき?


 だとしても、たったあれだけで、これって。

 とんでもない奴だったんだな。シャリテイルが殴ってびくともしないから、防御全振り野郎ってことだ。


 それが、目の前で軽く弾けた。

 キグスの力がすさまじいんだろうけど……もし、高ランク冒険者がいなかったらと思うと、ぞっとする。


 なんというか、俺はまた考えを改めなけりゃならないよな。

 この街の、ギルドの体制がどうしてこうなのか。暢気に見えるけど、目に見える印象に引きずられて、なぜそうなのかを忘れちゃいけないんだ。


 ずっと結界に守られてると信じているから、住んでいられるはずなんだ。

 結界を越えられる魔物がいる。

 実際にそんな魔物を見てしまったら……それだけで脅威の存在だろう。

 それを確実に倒してくれる冒険者がいるから、頑張って持ちこたえようと思ってくれる。農地の人々の、大げさに思える喜びも当然だ。


「さっタロウ、ギルド長室に行くわよ」

「そうだった。って、シャリテイルも?」

「ちょうどいいから、直接頼もうと思って」


 ああ、増員の件か。




 ギルド長室の扉を叩いて中へ入ると、優雅に茶を飲みながら寛いでいるギルド長がいた。


「タロウ、来たか。連絡が遅れてすまないな」

「いえ、緊急事態と聞きましたし」


 この街の時間の流れからすれば、入れ違ったくらいのもんだろう。


「そうだな。ようやく、こうして一息ついているところだ」


 俺は暇つぶしかよ。


「今の内に新たなことでもと思っていたらこれだ。いつものことだが、何かしらで時間が潰れる」

「そういうものよねー」

「さらには、ビチャーチャだ」


 やっぱり話は届いていたのか。


「そう、それで南側の増員をしてほしいなって報告に来たのよ。明日一日も狩れば魔物の数は安定すると思うのだけど」

「すぐに手配しよう」


 紙を一枚取り出し、ギルド長は何かを書きつけ始めた。許可証かな。


「それで、タロウの問題だが」


 俺はなんの問題も起こしていない。いないよな?


「現在は山の反対側、隣国沿いまで人を送っている。まだ戻る前でな。南の山脈方面まで出すと、通常の討伐に手が足りなくなる」


 魔震のせいとはいえ、なんともタイミングが悪い。まあ、もうしばらく気ままに、いや真剣に自身への課題を考える良い機会にしようと思っていたからいいか。


「だからといって、これ以上延期するほどでもないだろう。シャリテイル、君がいるのもちょうど良い。依頼者の変わりに引率を頼めるか」


 へ。強行すんの?


「任せて。大船に乗った気でいなさい!」


 また、シャリテイルと一緒か。

 どうにも不安になる気持ちが出ないよう、どうにか抑えつつ、よろしくと返していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る