072:苔草討伐

 魔震の後始末で砦の兵も忙しいだろう。依頼の話は延期かもな。

 なんて思いつつ、事前の連絡はなかったから予定通りに宿を出た。


「来たなタロウ!」

「こっちだ!」


 普通に、メタルサとヴァルキは砦前で待っていた。

 俺の姿を認めるや、大声で呼びかけつつ手を振ってくる。そんなことしなくても見えてるからやめろという念をこめて、軽く手を上げた。

 ぎこちなく横目で砦とは広場を挟んだ逆側を見る。トキメに魔震の対策本部があると聞いてるし、いつもより人が多いだろう。そんな所で目立ちたくない。


 確かに積まれている木箱や荷車の一角が開けられ、地面に置いた巨大なすのこが露わになっていて、そこにテントがあった。出入りする冒険者の姿もあるが、それ以上に周囲には、これまた普通に坑夫だろう人族と護衛らしき冒険者の集団が行き交っている。そいつらがチラチラとこっちを見ては笑い、山へと進んでいった。


 俺は見た。

 見覚えのある冒険者たちが俺を指差して、人族に何かを話しているところを!

 ぴょろりーん。タロウは知名度がむだにあがった。


 仕事を止めるほど魔震の影響はなかったなら喜んでおこうか……。

 げんなりして砦のもとへ辿り着いた。近くで見ると、二人はでかい竹編みっぽいカゴを背負っていた。

 ゴミをつまめそうな道具も手にしている。いや、はっきりとゴミばさみだ。

 木でも金属製でもない。ざらざらとした表面とこの軽さは、どうやら殻素材製のようだ。意外と汎用性高いな殻。

 それと殻製のヘラ。ガムを剥がすのに手ごろそうな、細長いやつだ。


 ご丁寧に、俺の分まで用意されていた。町内会主催の掃除会に参加させられている気分だ。文句言っても始まらない。渡されるまま受け取り、カゴを背負う。


「今日はよろしく頼むぜ!」

「こっちこそ。魔物の方は頼みます」

「おうよ。それが仕事だからな。任せろ!」


 なぜか言い方がフラグに思えて信用ならない。


「出発!」


 どうも、様子がおかしい。

 普段の真面目くさったイカツイ雰囲気は、どこへ消えてしまったのだろうか。この依頼の経緯自体、ノリのような気配があったし今さらだけどさ。

 これまでにない朗らかな笑顔を不気味に思いながら、移動を始める二人の後に続いた。




 さぁて本日の依頼は?

 タロウと愉快な砦兵二人と一緒に、鉱山入り口周辺で苔草むしり大会です!


 というわけで入り口付近へ向けて、山腹を回り込むような坂道を上っている。先頭をメタルサが歩き、俺、ヴァルキと続く。少ない砦の兵を護衛に草むしりとは、なんとも贅沢だ。

 収支がおかしくないか。

 俺の懐が痛むわけでもないからいいけど。


 人が擦れ違える程度の幅しかない砂利っぽい道は、歩くとざくざくと音がする。

 特に舗装らしい舗装はないが、森の中と比べればかなりマシな道だろう。山登りらしい苦労はない。

 木々に遮られないため、上るほどに見晴らしのよい景色が拝める。吹き上げたり吹き降ろす風が、肌寒いくらいだが心地よい。


 同時に不安も湧く。

 道の端から、そっと下をのぞき見た。崖といっていい急斜面。その底は岩がごろごろし、木どころか草のクッション材すらない地面だ。

 おっかねぇ。

 端は大ざっぱに石を並べてあるだけだ。なるべく離れて歩こう。


 顔を上げれば、開けた場所に人の動きや箱が積んであるのが遠目にも分かるというのに、なかなか近付いている気がしない。

 位置的にはジェッテブルク山の裾になるが、それなりに距離はあるようだ。


「けっこうかかりそうだな」

「そう見えるだけだ。実際は一分目もかからん」


 一分目いちぶめとは例のマグ水晶に引かれた十二本の線の、メモリ一つ分を指すらしい。金持ちアイテム専用の単語か。セレブな言葉使いやがって。


 それはともかく、先を歩いている人族と護衛の集団の背を感心して眺めた。毎日往復徒歩二時間の通勤とはご苦労様だ。

 もう少し山について距離など尋ねてみたが、何合目だとか、そういった基準は無いようだった。


 基準は無いらしいのに、心の中でとはいえ俺が何合目といった言葉を思い描けるのが不思議だ。脳だけ元の世界に生きてたりしたら気持ち悪ぃな。

 そんな残念な状況を考えなくとも、多分、概念的に捉えてなんとなく流してるんだろうけど。


「タロウ。山は初めてか」

「ここは初めて来る。隣の小山、あの辺の洞穴に行ったくらいだ」


 東周りに上っているため、昨日行ったと思われる山々も見えている。なんとなくの場所を指差して答えた。上から見ると、なだらかに連なる山並みが網のように連なっているのは分かる。ただ、実際にどの辺から洞穴に入ったのかは、よく分からん。


「ほう。そりゃ驚いた。こちらの仕事も楽になるな」


 そこを期待されても困る。あれはシャリテイルの勢いというか、遊びだったらしいし。とんだエクストリームハイキングだったぜ。

 いや……まさか、俺の仕事を見越しての予行演習だった?


「冗談だ。渋い顔をするな」


 ふと振り返ったメタルサは、俺のげんなりした表情を勘違いしたようだ。


「俺達だけでなく、鉱山の内外は冒険者が警戒している。しかも人族向けの入り口は、魔物ランクの上がる手前に設けている。これまでに事故の報告はない」


 そんなもんかと頷いたところを、背後のヴァルキが遮った。


「確かに、完全に運営が始まってからはないらしいな」

「今、さらっと怖いことが聞こえたぞ」

「はっはっは、何事も新たな挑戦に失敗は付きものだろう?」


 そりゃ、こんな場所に道通すだけでも、最初は大変だろうけどさあ。加えて魔物の猛攻撃がありそうな場所だ。

 崖から転げ落ちるのと、無残に切り裂かれてマグの肥やしにされるの、どっちがマシかね。

 気を紛らわせるように山を見上げる。岩山だから木々に隠れることなく、道らしき陰影まで確認できる。


「坑道入り口は、上まであるのか?」

「いや、そこの一つだけに絞っている」


 警備の関係とヴァルキは答えたが、俺の見る先に気付いたメタルサが言葉を被せる。


「ああ他の道か。あれは、邪竜を封じた祠に続いているものだ」


 思わず頂上を見た。

 そういえばシャリテイルから、祠は二つあるようなことを聞いた。突然現れたもんと戦うのに道を通したのか?


「好奇心は分かるが、さすがに連れて行けんぞ」

「あ、ああ、悪い。急ごうか」


 苦笑しながら咎めたメタルサの声に、足が止まりかけていたのに気づき視線を振り切る。

 なにやら色々と疑問は湧くが、そんなことばかりだ。何ができるでもない俺には、この指名依頼をやり遂げる方が大事だよな。


 遠い目をしつつ、景色を眺めている内に入り口についた。

 巨大な横穴の横に、田舎のバス停留所のような場所がある。壁の無い屋根だけついた小屋のようなやつだ。そこに小さな机と背もたれのない椅子が置いてあり、ごつい顔した人族の男が立っている。そこに向けて、メタルサは声を張り上げた。


「マインス!」


 近くに行ってから伝えるんじゃダメな決まりでもあるのかよ。


「許可証に承認を頼む。今日は零区域を回る。この三人だ」

「メタルサとヴァルキは分かるが、ほう、人族の冒険者かい。タロウス・ミノ?」


 通行管理人とやらのマインスは、すでに許可証に書き込まれているらしい俺の名を読み上げた。またしても区切り方が怪しかったが、俺の名前はここの言語だとよっぽど座りが悪いんだろうか。この際無視しようかと思ったが、一応言い直そう。


「タロウが名前だ」

「あぁ、タロウで分かれるんか」


 やっぱり素だったよ。


「ほい、ランタンだ。気ぃ付けてな」


 メタルサが許可証と、番号を刻まれたランタンを受け取り、入り口をくぐった。


「洞窟とは思えないほど、広々としてるな」


 天井までは、特別でかい炎天族でも、手を伸ばして届くかどうかといった高さがある。入り口が広いからか、日が入り込んで明るい。

 ただ、それはこの辺だけのようだ。そこそこ広い場所だが、すぐ奥は壁だった。

 壁の下の方には、背の低い通路が幾つかに分かれており、通路にはカンテラらしき灯りが、一定の間隔でかけられている。

 灯りの数が少ないせいだろうか、行き先は暗さで見えない。


「こっちだ。通路内ではよそ見すると危険だからな、真っ直ぐ歩けよ」


 ヴァルキに促され左手の道に進むメタルサを追う。少し歩いたところで、メタルサが足を止めた。


「ちょうど良かった。見ろ、こいつだ」


 メタルサがランタンを地面に近付ける。

 板状の岩を貼り合わせたような通路で、大きくひび割れたような窪みに、緑色の塊が見えていた。

 手のひらに収まる程度のサイズだ。


 つやつやした肉厚の巨大椎茸。

 ただし色は薄汚い緑で、表面には黄色い水泡のような模様が彩られている。いや椎茸よりマンジュウヒトデだったか、そいつに似てるかも。

 ヘラの先でつつくと、粒々から液体が漏れた。

 きめえ!


「これ、ほんとに毒じゃないんだよな?」

「それは大丈夫だ。少し青臭いが、かぶれたといった報告はない。それどころか虫よけの効果があるぞ」

「そうか」


 こんな風に進化するほど洞窟内に虫がいるのかと、そっちのが気になってきたじゃないか。


「これは、この道具で剥がすのか?」

「剥がすでも、引き抜くでもいい。大きさによるな。これより小さいなら、剥がす方が楽だろう」

「了解。試してみる」


 確かに、ぬめっているから掴みづらい。

 苔草の傘の下にヘラを滑り込ませて持ち上げ、引っぱった。ぬぽっと飛んでいった。

 マジできめえ……。


「なんと、一度で習得するとは」

「さすがは特級草刈り冒険者だ」

「棒読みでおだてるな」


 どんなやつかは分かった。敵であることに間違いはない。


「よし、あとはどんどん進むぞ。道すがらに発見しても、ひとまず無視する。目的地はこの奥だからな」


 そうして、奥へと歩を進めた。




 暗く細い坑道をしばらく進むが、他のやつらや道具類を見ない。

 入り口の受付に零区域に行くと言っていたな。零ってことは、採掘とは関係ない場所なんだろうか。


 すっかり入り口の明るい穴が見えなくなってから、ある重大な違和感に気が付いた。思わず前を歩くメタルサの肩を叩こうとして、カゴが邪魔だったためカゴを掴む。


「ちょっと待った! メタルサ、俺は確か、鉱山入り口周辺の苔草取り依頼と聞いていたと思うんだが?」


 疑問形だが、依頼書にもそう書かれてあった。

 曖昧な書き方だが、ある程度広範囲だからと受け取っていた。だがここの場合は山の入り口なんて、実際は街を出てすぐのところになってしまう。

 あくまでも確認のつもりだが、つい恨めし気なニュアンスがこもってしまった。


「山は裾野が広いし、中は中で広いからなあ。この辺もまだまだ入り口のようなものだぞ」


 くっ、はぐらかしやがって。

 歯ぎしりしていると後ろからヴァルキの補足が入った。


「ここは連絡路だ。鉱床のある区域とは別でな。先は、高難度の魔物が出る区域に通じている。通れればいいと、なかなか手が入れられなくってな。助かるぞ!」

「そんな場所に!」


 飛び上がってそわそわと辺りを見回す。途端に、あちこちの暗がりが不気味に見えてきた。


「ははは、落ち着け。その手前が目的地だ」


 二人の笑い声が反響し、微かに別の物音が重なった気がする。幻聴でありますように。

 暗く足元の危うい中を魔物の気配を気にしながら歩く。

 気まぐれにシャリテイルと洞穴に行ったが、本当に予行演習になったな。




「ついたぞ、ここだ」


 メタルサが、ランタンを掲げると、少し広めの場所が浮かび上がった。

 そこへ踏み入れた途端に、足が止まり、息をのんだ。


「なっ……なんだよ、これ。こんな、ことがありえるのか」

「うむ。異様だろう」


 強張った表情のメタルサとヴァルキを見て、責めずにはいられなかった。


「なんで、こんなになるまで放っておいた!」

「タロウ、俺達だってどうにかしたかったさ。だがな、手が足りなかった……」

「よせよメタルサ、言い訳なんて。悔しいが、力が及ばなかったんだ」


 暗く沈んだ二人の声に滲み出た無念は本物のようだ。

 改めて、通路があるはずの場所を見上げた。

 寝心地良さそうだとか言っていたから、ベッド並みとは思っていたけどさあ……縦じゃん。


「このやろう、隠しやがって!」

「いやぁ、別段隠したつもりはなかったんだがなあ。ちゃんと言ったろう?」


 ベッドはベッドでも、炎天族サイズだろこれ。

 あのグロ椎茸が、これでもかと積み重なったキングサイズのベッドが立ててあるって、もう柱だろ!

 キノコ柱なんか立っても縁起が良いとは思えない。


 なにか裏があるとは思っていたけどさ!


「くそぅ、やって、やるぜ」


 恐る恐るキノコ塗りの壁に近付くと、粒々ぬめぬめとした緑色の物体が潰れながら折り重なっているのが分かる。したたった汁のせいで、足元からびちゃりと音が鳴った。

 グロだこれ。


 グローブ越しでも触りたくねえ。

 胞子や変な汁が飛んできたら嫌だ。布を取り出し、鼻から口を覆って頭の後ろで結んだ。

 今一番欲しいのはゴーグルだな。でも街中の誰一人としてメガネすらかけてるやつを見たことが無いから、存在しなさそうだ。


 キノコ柱の隅に、人が背をかがめて通り抜けられるだけの隙間がある。切りつけられた跡が生々しい。通る時だけ削ってる感じか。

 ちょうどいいから、ここから切り取っていこう。


 隙間の前に立つ。

 渡されたヘラなんか、役に立つとは思えないな。

 ヘラは腰のベルトに差し、代わりにいつものナイフを取り出して、振り返った。


「やるぞ」


 二人が静かに頷き返したのが合図だった。





「ぐっ、相変わらず頑丈なやつめ。ただ硬いだけならまだしも、わずかに弾力があるところがどうもな」

「ああまったくだ。フッ、悪いな。俺はもう腕があがらないぜ」


 メタルサとヴァルキは、揃って退避した。


 こいつら……枕ほどしか切り取ってないだろ。

 いや、種族特性だ。多分。仕方がないことなんだ。そうに違いない。


「二人は辺りを警戒していてくれよ。切り取ったら呼ぶから」


 気配どころか、ときおり叫びだとか物音があからさまに聞こえてるんですが。

 そのたびにビクッとしてしまう。


「よし、その任務は俺に任せろぉ!」


 特に、キノコ防御壁の向こうから不穏な気配を感じるからと伝えると、ヴァルキはうきうきと隙間を通って行った。

 あの野郎。


 物音は壁を伝わって大きく聞こえるだけで、実際は距離があるとのことだから、怯えを追い出しキノコ削りに集中した。


 ぐちゃりぐちゃりとした水気の音だけが続く。

 なにこれ精神力が削れる。

 こいつもう魔物でいんじゃね。どう見てもMP削りに来てるだろ。


 ナイフを壁にざきゅざきゅとツッコミ、四角く切り込みを入れては掻きだしていく。床に落としていった欠片を、メタルサが丁寧に集めていった。


 力加減も慣れてきて、喋る余裕が出てきた。


「それ、使うのか」

「さっき少し話したが、こいつの効果を利用するんだ。虫よけの薬ができる」

「へえ。気持ち悪いが、役に立つだけマシなのかね」

「それに、この辺に捨てられても困るからな。カゴが埋まったら入り口まで持ち出す」

「分かった」


 これだけの塊だ。持ち出さないと自分が埋まりそう。運び出す時間もあるなら、もう少し急ぐか。

 しばらく切り出していると、メタルサから話を始めた。


「タロウ、一つ聞くが」

「どうした」

「本当に疲れないのか。不安定な体勢で、ずっと切り結び続けるとは、見ているだけで疲れ、いや圧倒される」

「本音は聞こえた」


 力を入れ過ぎると滑りそうだから、やや腰を落として、切れ目を入れたキノコ壁に拳を突き入れたりしている。やけだ。


「場所が悪いから。ここで働いてるやつらだって、似たようなもんだろ。水気が無い分、マシだろうけどさ」


 こんな無理な体勢を続けるかは知らないが、足場が悪い中を掘り進めるのだって大変そうだと思う。まあ大変そうだと言いつつ、人族ならこれくらいは問題ないんだろうなと、今なら分かるけど。

 つい以前の感覚で考えてしまうから、どうしても作業の見積もりがおかしくなる。


「そうかもしれないが、彼らはきっちり休憩を挟んでいるぞ。だからタロウも、遠慮せず休憩をとれよ」

「水が飲みたくなったときにでも、ついでに休憩するよ」


 昼休憩だけじゃないんだな。

 向こうは大所帯だし、毎日の仕事だから、その辺は無理なくやるんだろう。


 その後も二人はたまに手を貸しては休憩を兼ねた警備をし、一杯になったカゴを交代で外へ運びだしたりと分担してくれた。

 そんなバックアップを受けつつ、俺とグロキノコとの削り合いは続いた。





「こんなもんか」

「ああ、完璧だ」

「大したもんだ」


 まじまじと惨状を眺めた。

 悪のキノコが綺麗さっぱり取り除かれて、通路は普通の狭い通路に戻った。

 ただし黒い岩の壁には、茶色がかった緑色のキノコかすが、まだらに模様を作っている。酸味を加えた刺激臭もひどい。

 おえ。吐きそう。


「一日では難しいだろうと考えていたってのに……まさか、時間が余るとはな」

「さすがだタロウ! これは本気の煽てだ。俺たちだけでは、ありったけの覚悟をかき集めてさえ三日ともたずに飽きて放置になったものを」

「ヴァルキ。その言い方は聞こえが悪くないか?」

「そうか? とにかく助かった!」


 感激してくれたようで、メタルサとヴァルキは口々に感嘆の声を上げた。


 カゴにつめた最後のえぐい物体を外へ運び出して、用意された箱に詰める。

 さすがに、腐ったような臭いを発している部分は使えそうもないらしく、捨てられることになったようだ。

 大量の虫よけ剤になると期待していたメタルサは気を落としていた。


 ふと不思議に思ったことを質問する。


「今さらだけどさ、これって兵の仕事なのか」


 しかも虫よけ素材拾いって、冒険者とやってることは変わらない気が。


「何を言うか。後方連絡線の維持は重要なものだろう」


 いやいや、もっともらしく言っているが、それサボってたからな。

 巡回時の緊急連絡のために道を確保するのは分かるけど、虫よけは……やっぱり虫が多いんだろうか。


 暗闇の中、それまで平気で歩いていた場所に、ランタンの灯りに浮かび上がる壁一面に蠢く虫。そんなもんを見てしまったら、叫んで転げながら逃げる自信がある。

 意地でも腰を抜かす真似はしないからな。




 一旦、生ごみを抱えて外へ出た。

 箱に蓋をしたヴァルキは、受付係のマインスに台車で運んでもらう手配をする。何箱もあるから、どうやって持ち出すのかと思ったが、定期的に鉱石を運び出す荷車がある。それの一つに便乗するようだ。

 ヴァルキが戻ると、メタルサは次の行動を指示した。


「まだ時間が残っているな。あとは、その辺の苔草を除去しよう」


 予定通りに時間を消化したいとのことで、また通路に入り込む。

 歩きながら、その辺の窪みに埋まっている傘を見つけては引っこ抜いていった。

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