070:聖なる獣

 魔技を放ってハエもどき軍団を殲滅したシャリテイルは、全弾命中したのがよほど嬉しかったらしい。

 それって、普段は滅多に当たらないってことですかね。


 まったく。

 それでも範囲攻撃持ちが羨ましいぜ。


「その杖、魔技も使えたんだな」

「魔技も、じゃなくて魔技用よ。決まってるじゃない」


 いやいやどう見ても棒術用途だろう。

 戦いぶりを見たら、誰だって同意してくれるはずだ。

 おまけに強力な魔技まで放てるなんて、汎用性高いな。


 しかし通常は補助程度にしかならない魔技が、実際にここまで使えるものとは思わなかった。


 以前目にした魔技といえば、西の森低ランク冒険者の一人であるデメントのものを思い浮かべる。

 小型の杖で埋め込んだ水晶も小さいせいだろうか、一度か二度の魔技を使用したら、マグ補充用の魔技石を取り出していた。


「補充だっけ、しなくていいのか」

「あっそうね、回復しなきゃ。ありがとう、忘れるところだったわ。こんな敵に大盤振る舞いしすぎちゃった」

「こんなって程度だったのか……」

「いつもなら、そのまま走って行っちゃうから」


 ああ、そうか。俺がいるから、念入りに倒してくれたのか……。


「やだ洞穴の中で辛気臭い顔しないで。薄気味悪いわよ?」

「ほっといてくれ」

「普段は節約しながらってだけよ。たまには思い切り行かないとね」


 でもそれは、いざという時に使えるようマグを温存するためだろう。

 それに、これだけ規模がでかい技を使えるんだ。


「マグ補充石かなにかだって、安くはないだろ」

「平気へーき。見てて」


 シャリテイルは杖を抱きしめて目を閉じた。

 杖の柄が、見事な天然のクッションの狭間に埋もれるのに目が行く。

 それを阻むように、杖の先端が淡く輝きはじめた。


「うむむーでろー」


 だとか、シャリテイルがむにょむにょと口の中で呟いていると、石から光が漏れ出た。

 マグだろうとは思うが煙ではない。

 杖の上に留まって、徐々に何かを形作っているような?


 シャリテイルが目を開けると共に、杖の上の謎物体がぽよんと跳ねた。


「ぽんっと!」


 いや、そんな音はなかったから。


「って、なんだよ。そいつ」

「ぴやぴゃーって? そいつ、じゃないよ失礼ねって言ってるわ」

「腹話術すんな」

「ええっなんで分かったの? 完璧に会得したと思っていたのに!」


 思いっきり口が動いているし、同じ声で騙せると思うなよ。

 シャリテイルが腹話術の訓練をしはじめたのを無視して、杖の上でぷよぷよと体を揺らしている物体を凝視する。


 半透明の水滴だ。

 末広がりの底部は手のひらほども巨大で、上の方は細くなっているが、そこになぜか緑色の葉っぱが二枚付いている。杖とおそろいのつもりか?

 見れば見るほど……黒蜜をかけたら美味そう。


「殺気を感じたわよ?」

「気のせいだろう」


 それはいいが、顔らしきものがあるのが気になる。

 黒いマジックで書いたように、点々とした二つの目と口らしき一本線。

 ぽやーんとした雰囲気は、とても魔技の一種とは思えない。


 そもそも、なんだこの要素。

 ゲームにこんなのあったか?

 記憶を懸命にたどる。


 中盤以降に各種族が使えるようになる武器の強化オプション。

 それのアイコンに、葉っぱのやつがあったな。

 説明書では、なぜか妖精のような絵が武器の周囲に描かれていた。

 確か、各属性を表現していたはずだ……あれか。あれなのか?


「お、おおお……!」


 遅れて、背筋にぞわっと来た。


「これぞ、ファンタジー要素!」

「また破廉恥なこと言って」

「なんでそんな意味になってんだ!」


 ファンタジーな世界だから、その言葉が別のことを指すようになってしまったのだろうか。

 別の方面でいうなれば、確かにエロはファンタジーだが。

 人前で使わない方がいい言葉だってのは覚えた。


「そんなことはどうでもいい! それ、そのオプションはなんだ」

「タロウはよく隣国の訛りを使うわよね」


 隣の訛りって……カタカナ言葉?

 まあ、実際にカタカナなわけないから、隣国の訛りをそう認識していたのか。

 つうか外来語は主に隣からだったんだな。


「また話が逸れてる!」

「ちょっと待ってね。集中力が要るから、少し疲れるの」

「え、そうなのか」


 そういえば、呼び出したのか作ったのか知らないが、なんのためなんだっけ。

 ゲームの仕様だと、装備強化の上位版ってところだ。

 通常の強化が攻撃力などとすると、属性による特殊効果がつく。

 森葉族はマグが自動回復するものが……ああ、回復か?


 じっと見ると、水滴おばけの体が薄っすらと光った。

 しかもそれは見覚えのある――。


「青い、光」


 それって聖質の魔素ってことじゃないのか。

 まさか、俺の、コントローラーと同じようなもんなのか?

 ただ、かなり薄い色だ。祠の石を覆っていた淡い光よりも薄い。


 そういえば、マグによる強化も、濃度によって効果が変わるようだった。

 やっぱり、違うものなんだろうか。


「よぉし、いいわよ。マグの回復はばっちり。これでまた空間いっぱいに魔物が居ても戦えるわ」


 シャリテイルが杖をトンと地面につくと、上部に乗っていた水滴は杖に吸い込まれるように消えていった。

 幻想的だ。これこそ魔法要素と言っていいんじゃないか?


「いやだから」

「なによ?」


 俺が感動している隙に、さっさと先へ進もうとするな。

 正体を聞こうと指差すと、シャリテイルは忘れてたといった体で軽く答えた。


「ピッちゃんね!」

「本物の名前じゃないよな」

「もちろん私が名付けたのよ。この子はね、聖獣なの」

「せいじゅう……ええと、聖質の、魔素が関係あるのか?」


 まずい誤変換をしそうになりドキドキするが、それよりも、コントローラーとの共通点があるのかどうかが気になる。


「さっすがタロウ。珍しいものなのによく知ってたわね。その通り、聖質の魔素で形作られた魔物よ」


 は?


「魔物?!」


 邪質の魔素で形作られるのが魔物で、聖質で作られるのが聖獣。


「なんで邪物とか邪獣じゃなくて魔物で、聖物じゃなくて聖獣なんだよ」

「気になるところ、そこなの?」


 思わず取り乱してしまった。


「魔物に対する存在として、生まれたものなのか?」

「うーん、詳しいことは分からないようよ。ただ、うまく発見して契約できれば、その人に居ついてくれるの」

「契約? それって、まさか、意志があるってことか?」

「ああもう、すごい剣幕ね。本当にそういったことに関する知識には目がないんだから。ほら唾飛ばしてないで場所を考えて」


 しまった。

 その通りだ。

 つい気が緩んでいたが、この安全はシャリテイルが居てこそだ。


「そうだった……ごめん。ええと、じゃあ移動するか」




 周囲を見回すと、崩れた岩の上には一抱えほどもある胡桃のような殻が、砕けて散乱している。

 砕けていると言っても形状は元のままに近い。

 素材として使えそうな気もする。


「この殻、どうする」


 カラセオイハエは飛ぶというか浮いてるから、視界一杯に埋まって見えた。

 なんとなしに殻を数えてみたら十数匹ほどだ。もちろん俺には多いが。


「穴が空いちゃったから、使えるところないと思うわよ」

「それもそうだな」

「その辺に放置しておけば、また魔物が体にするんじゃない?」

「なるほど」


 その手法、すでに発見済みだったのか……。

 ツタンカメンの甲羅で悩んでいたが、こんなこと先人が思いついてるもんだよな。


「ささ、行きましょうか。この先の魔物は、もう少し強いのがわささーっと出てくるわよ」

「なんだと。ま、待った!」


 せっかく連れて行ってくれるという機会だ。

 奥に行きたくないはずがない。


 ただ、ここまで魔物とのレベル差を感じると、俺が何かヘマしてしまうんじゃないかと不安でしょうがない。


「無理はしたくないんだ。せっかくなのに悪いけど」

「そう? 遠慮はしなくてもいいんだけど。でも……そっかーそんな判断ができるようになったのね」


 なぜかシャリテイルは微笑まし気に俺を見ている。

 やめろみじめになるだろ。

 俺は膨らんだ道具袋を示した。山道で集めた素材だ。


「ほら、もう袋もいっぱいだし、納品がてら一度戻ったらどうだ」

「そうね。なら素材を分けましょうか。欲しいものがあれば選んで。いらないものは引き取ってもらうわ」

「いや、それもいいよ」

「でも強引に付き合わせたのに」


 やっぱり無理矢理だったのかよ!


「そう。だから持っていっていいのよ」

「本当にいいから。本来なら来れない場所まで連れてきてもらったんだし、護衛代金を支払ってもいいくらいだろ」


 拾ったものくらいじゃ足りないような気がするけどな。

 魔物に指一本触れてないというのにもらってたまるか。


「そこまで言うなら、しょうがないわね。じゃあ、ありがたく頂いちゃうわ」

「そうしてくれ」


 にこにこ顔のシャリテイルと、恐らく血の気が失せている俺は、大して進んでない洞穴の中から踵を返した。





 前を歩くシャリテイルの淡い金髪が、さらさらと背で揺れているのを眺める。


 なるほど。

 シャリテイルが、ソロで活動できる一つの理由。

 それが、マグ回復。というか、隠し技といっていいのか。


「……聖獣か」


 一部の人間だけが持てる力。

 未だ詳細は分からないらしいが。

 どんなものかに想像を巡らせながらも、ものすごく納得していた。





 洞穴を出た俺は、シャリテイルの後について山道を下りていた。

 急な坂を下るのは、行きがけよりも辛いものがある。

 魔物に注意しつつも、木を掴みながら慎重に歩いた。


「あの水滴おばけ……じゃなかった、水の聖獣? 青い光を放っていたが、問題ないのか」


 人間のマグも邪質なら、聖質は反発するはずだと思うんだ。


「もうタロウったら、ピッちゃんよ。そういえば、種類は森の雫と呼ばれていたわね」

「種類って、種族みたいなもん?」

「そんなところね」


 そっちを最初に教えてくれよ!


 それから一通り説明を聞いた。

 シャリテイルの聖獣ピッちゃんこと森の雫種とやらは、マグを回復したり、マグの使用を肩代わりしてくれたりする能力を持つようだ。

 要はマグ回復の魔技石と変わりないと思えるが、そう言ったらうるさそうなので黙ておこう。


 そして青い光は、聖獣自体が能力を使用している結果が見えているだけだから、人体に影響はないらしい。

 だが、それもごくわずかな量だからだとのことだ。

 大量に使用するようなことはできないから、分からないらしい。


「魔技の仕組みと似たようなもんか」

「ああ、そうかもね。私の場合だと、必要な分だけマグを回復してもらうけど、魔技石の大きさ以上の回復は出来ない。そういった制限のせいもありそうね」


 必要もないだろうしな。


「それに、さっき見ていて分かったと思うけれど、ちょっと時間が必要だし疲れるのよね」

「それも魔技みたいに、マグが減るのか」

「マグも、でしょうね。実は、回復をお願いするときだけじゃなくて、呼び出してる間ずっと集中してるのよ。そんなに限界まで使ったことはないけど、長時間だと疲れて倒れちゃうかもしれないわね」

「それなりに代償はあるんだな」


 ますます、魔技と違いが分からないな。

 まあ、シャリテイルの場合、魔技石で賄うよりは便利な感じもするが。


「一通り討伐を終えたときなんかじゃないと、呼び出す機会がないから難しいところだけれど、呼び出すために利用したマグよりも多くを回復してもらえるから。使い方次第なのよね」

「なるほど」


 これで分かったのは、どうやら聖獣が契約主に力そのものを与えるというものではないらしいことだ。

 シャリテイルにマグ回復能力を付与するのではなく、聖獣が充填してくれる。

 便利なガソリンスタンドだな。

 魔物に個々の特殊能力があるんだから、対の存在といえそうな聖獣にあってもおかしくはないか。


 だけど自ら働くなんて、使役されてるってことだよな。

 なんとも都合のいい存在がいたもんだ。



 うーん、聞いた限りだと、青い光を伴うのは聖質の魔素を行使するときのみか。

 そう考えれば、コントローラーとの共通点がなくもないが。

 いや、コントローラーはずっと点きっぱなしの問題もあるな。



「後ろ! 避けて!」


 シャリテイルが振り返って叫ぶと、即座に横へ移動し背後を振り返った。

 目線の先。木に張り付く、ハリスンが跳んだ。


「わっと!」


 無意識に剣先を向ける。


「クェキャ!」


 尖った先が、ハリスンの胴を掠った。

 だが突き抜けることはなく、ぶつかった衝撃をもろに受ける。


「ぐっ!」


 剣が手から飛ばされていく視界を、杖が遮った。


「クェッ!」


 杖に叩き落され、再度地面で殴られたハリスンは、甲高い悲鳴を上げて消えた。


「ふぅ危ない。ちょっと注意が遅かったかしら。ごめんね」

「いや、助かったよ」


 普通の冒険者なら、十分に対応できるタイミングだったと思いますよ。ええ。


 それより、今。か、掠ったよな?

 マグの煙がシャリテイルに絡まっていくのとは別に、俺の方にも向かっていた。

 すっごく薄いが。

 どうやらダメージを与えられたらしい。

 さすがにレベルアップはないが。


「よっしゃ!」

「なに喜んでるのよ?」

「なんでもないです」


 呆れ顔のシャリテイルが先を進み、また追う。


「聖獣っていうけどさ。どう見ても獣じゃないよな」


 なにごともなかったように、話を再開する。

 どうやらシャリテイルにとって、おしゃべりは暇つぶしらしい。

 一人ではないため、急いで移動できないからだ。申し訳ない。


「私のピッちゃんはまぁるくてもちもちして可愛いけど、種類によって形は様々なのよ。あ、でも力の強いものほど、巨大な動物に近いなんて話があったわね。最上のものから名付けたんじゃないかしら」

「へえ、だったら魔物だって、強いやつほど巨大な動物になってもおかしくなさそうなもんだけどな。あれ魔物もそうだっけ?」

「魔物もそうかしらね。ケルベルスだって四つ足動物の好いとこ取りって感じよ」

「好いとこ取り……そうなんだ」


 この世界の巨大な動物って、どんなのがいるんだろうな。

 魔物を見る限りだと、地球にいた動物と大して違いはなさそうな気もするが。


 邪竜はいわゆるドラゴンになるんだろうか。

 ゲームの画像では、ごつごつした岩のような鱗に覆われていながら、細部に宝石の埋まった金属の飾りがあったりして派手だった。生物ってより、ああゲームのボスだなーって思っていたな。

 さすがに現実では違いそうだが、さすがに人類滅亡クラスのボスなんか見たくはない。


「分類は、むかーしむかしの魔物研究者が決めたことだから、どういうつもりだったのか、今となっては確かめようもないわね」

「シャリテイルでも知らないことがあるのな。あ、もちろん、すごいなと思うよ助かってます」


 ジト目を向けられた。言い方には気を付けなければ。


「話を戻すけど、やっぱ中ランクの上位者となるには、聖獣と契約が必須とか?」

「そんなことないわよ。実力があればいいだけ」


 単純に強い者が勝つ、と……そうですか。


「聖獣はね、珍しいものではあるのだけど。そもそも見つけるのに、そこまで苦労しないというか」

「それって本当に珍しいのかよ」

「普通に街で暮らす住人が見つけられるものじゃないの。冒険者が行くような場所なら、そこまで珍しくないってだけ」

「やっぱり、魔物と関係あり?」

「魔物というより、魔脈と関係ありそうよね」


 なんだか、地味に深くあちこちに関係してそうだな。

 一つ聞くと、次々と疑問が湧いてくるじゃないか。


「なら、ほとんどの奴らが契約してるのか」

「ここで続けている冒険者のこと? それはどうかしら。低ランクは魔脈近くまで出かけることはないから、機会はないと思うわ。この周辺だと、もう随分と見つかったなんて話はないわね」

「そっか、そりゃそうだよな」


 冒険者街として何十年とあるんだから、掘り尽くされたんだろう。

 つうか、掘るもの?


「あちこち巡る冒険者の多くは、発見してるんじゃないかしら」


 だったら、宿に居た四人組も持ってたのかな。


「色んな場所を巡ってみるのもいいぞ、なんて話を聞いたよ。それも関係ありそうだな」

「そうね。様々な場所へ行きましょうっていうのは、そうしてほしい気持ちもあるからだけどね。ここほど危険な場所ではなくても、国外れにあるような村では、いつだって人手が欲しいはずだもの」


 ああ、そういうのもあるのね……。

 国の方針を受けて、そういった意識改革もギルドが手を尽くしてるんだろうな。


「多少は楽になるけれど、そこまで当てにできないと思うわよ」

「そうか? 使いどころが難しいのは、理解できたけどさ。選択の幅が広がりそうなもんだけどな」


 誰でも使いこなせるかは別だろうが、単純に、あるだけで心強そうだよなぁと思える。

 他にもなにか副作用でもあるのだろうか。


「なんだか物欲しそうだから言うけれど、危険な状況に陥ったときに頼れるようなものではないでしょ?」

「時間がかかるから、か」

「そう。だから、結局は自分自身を鍛えるしかないの」


 見透かされているような笑顔だ。

 それがあれば俺も少しは、なんて、そりゃ思うよ。

 夢くらい見させてください。




「ようやく、坂を抜けたな」

「やっと気が楽になるわね。そうだ、ミノタロウ!」


 ぱっと輝く笑顔でシャリテイルは振り返った。

 また、復活しやがった。

 ミノは余計だ!

 とでも叫ぶべきだろうか。


「そうじゃなくて。初めて会ったとき、話したじゃない?」

「出会った時? ええと、シャリテイルが名前を聞き間違えたことか」

「間違ってないわよ? 姓名をくっつけちゃっただけで」

「それは間違ってるって言いませんかね」

「ほら、もうじれったいわね」

「はいはい。なんだっけ。ミノタウロスだ」


 そうそう、ミノタウロスは人族に伝わる話がどうとかいう架空の設定を忘れるところだった。


「そっちじゃなくて、タウロスの方。何かの図鑑で見たのよねぇと思ったら、聖獣の項目だったわ」


 なんと。

 ミノタウロス伝説は人族の隠れ里の奥地に現れ里を守った聖獣の話だったのかとか、肉付けした方がいいだろうか。

 いや嘘話を増強してどうする。


「小さなころだったから、あまり思い出せないけど、確かタウロスが最上級の聖獣だと思うわよ」

「ほう」

「あら、反応がつまらないわね」

「まだ、続きがあるのかとね!」

「続きね……うーん、他になんて書いてあったかしら。不気味な絵が強烈で内容が頭に入らなかったわ」

「はは、そういうことあるよな」


 頭を小さくぽかぽかと叩きながら、シャリテイルはまた歩き出した。

 殴ったってぽろっと出てくるようなもんではないと思うが。


「思い出したわ! 七色鱗羽牛よ!」

「なんだって?」


 なないろうろこばねぎゅう?

 長いし、ぎゅうって牛? いんのかよ牛。


「あーすっきりすっきり。さあ森の外まですぐそこよ。早く戻りましょう!」

「元気だね……」




 かなり話を聞けたとは思うが、十分とはいえない。

 聖獣が聖質の魔素とどういった関係性を持つかといった詳細は分からず、したがってコントローラーとの類似も見当はつけられない。

 さすがに、些細な事実に飛びついて断ずるには情報が少なすぎるか。


 ビオたち聖者が、聖獣のことも何かしら調べているんだろうが、末端の一冒険者に聞ける機会なんかないな。


 前を見ると、杖をぐるぐると振り回して襲い来るケダマを弾き飛ばしている。

 木に跳ね返って飛んできた一匹を鷲掴みにすると、じっと眺めた。


「ケ、ケゥ?」


 ケダマはケダマ草を模しているらしいが、鳥の脚を持ち、こうして動いている。

 コントローラーは生き物ではないし、生物を模した魔物や聖獣とは別物だよな。

 感覚的なものに過ぎないが、根本的なことが違うように思う。


「タロウったら、ケダマと見つめ合うなんて。飼えないんだから、諦めなさい?」

「考え事してただけだ」

「ケぶぅ!」


 ケダマを潰して、また歩きはじめ、見えない答えを探して考え込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る