第11話小鯛妄想

本日の一品:小鯛の笹漬


小鯛を三枚におろして小骨まで抜いておく。この注文を魚屋で頼むと嫌がられるから三枚おろしまでに抑えておこう。

おろした鯛を皮目を下にして塩をまぶす。塩の量はがっつりまぶす人もいるし、軽く振りかける人もいる。その辺は鯛の鮮度と好みで選ぶとよい、塩がきいていると身が締まってねっとりとしてくる。

そしてしばらく置いていくと身から水分が出てくるので頃合いを見て(二時間から半日程度、気温が高いと漬け時間を短めにしたほうが良い。)塩を洗い流す。好みで酒で洗うのもよい。

よく洗って水気を切ったら、鯛を酢に漬ける。甘いのが好みならば甘酢を利用するのも一つの手だが私は酢そのままで利用するほうが好みである。漬け時間は半日・・・・・・・・・・

酢からあげて、水気を切ったら適当に切り分けて供する。

あっ!笹を使うの忘れていた。笹の香りが好みのものは、塩からあげた時に笹に挟み込んで一時ほど置くのが一法。酢に漬けるときに笹と共に漬け込むのが一法。


切り分ける前に皮目を軽く焦がしても美味。


きりりと冷やした日本酒がよく似合う。



本文


 俺様つえーといいません。


 正月が明けてやっとこさ休みが取れたのであります。年末なんかで鯛の需要が上がってくるのですが、小さな鯛を求められるお客様が多数見受けられます。狙いとしては鯛の姿焼き、新年の膳に相応しい一品なのでありましょう。大きな鯛を焼くほどのグリルがないとか、一匹焼いても食べきれないといった事情も見え隠れ。その辺は理解しているつもりですので生暖かく見守っておくだけにしておきましょう。

 面倒だと感じられるお客様は焼きあがった鯛を購入される場合が多いようで、飾りとしてならば一匹二千円弱、縁起物としてはよろしいかと。焼きあがった後冷凍された状態でこちらに入荷いたしますので冷凍庫に放り込んで使うときに解凍して・・・・・・・・・等と早々と購入されるお客様もちらほら。なんだかんだとお客様の性格が見え隠れするようで面白いものでございます。


 さて、鯛の中でも小鯛と称されるものについて今回は騙りたいと思いますが小鯛とは何かといいましたら鯛の類の中で小さいものを大雑把に売っているだけというだけの話で真鯛もいれば血鯛もおりますし連子鯛なんかも小さいものを小鯛と称して販売している店もありましょう。最近では種別を正確に等と指導するお役所の方々のお蔭で面倒くさい・・・・・・おっと本音が、失礼。小鯛と称する売り方が見られなくなっておりますが、通称として売り場でやり取りされておるものでございます。

 お客様の方でも『小鯛イコール小さな鯛』という認識なのか「小鯛はないの?」という問い合わせは時期を問わずちらほら。笹漬にしたいからというお客様はあまりおられませんが、鯛めしにしたいとかお孫さんのお食い初めに使いたいとか、強者になりますと鯛の干物を作るには大きな鯛よりも小さな物を開いたほうが美味だといわれる方も・・・・・・


 この鯛の干物を作るのだといき込んでいたお客様は大層な左前で・・・・・・・・・買い物かごの中には一升瓶が鎮座していたのが印象的でございます。あの程度の量ならば一晩で・・・・・・・・・・


「飲み屋で一升瓶二つ転がしていたにーちゃんに言われたくない。」


 それはそれということで・・・・・・・・・



 話がそれました。鯛というものは売れる時と売れない時に差が激しいように思われますが無ければ無いで煩いというか問い合わせが来るものですから天然養殖問わずに少量でも置いておく商材なのであります。面倒だと思っている店では冷凍庫の片隅に焼鯛の冷凍が永眠していたりとか・・・・・・・・・げふんげふん。


 この鯛のおいしい見分け方なんて言うのは店の方々にお聞きすればよろしいので割愛するとして、注文するときに焼鯛にすると言うときは祝い事なのか自宅用なのかをはっきりとしておいて欲しいものでございます。特に魚に対する知識もないくせにチーフだのマネージャーだのと昇格することが多いスーパー等では祝い鯛をお腹を大きく開いて作る暴挙を行う馬鹿がおりますので(そういう特定の魚種の特殊な調理法を教えるスーパーは殆ど無く、古参の職人さんの口伝に近い状態で教わる機会があれば幸運というのが現状。)お客様の方でもある程度の知識を持っていただけるとありがたいなというか・・・・・・・・・あまり気にしていらっしゃらないようで。

 とある店にいた時に


「鯛をえらわた抜きにしておくれ。」

という注文を店のパートのばあさんが受けまして、私が

「えらわた抜きは良いけど祝い事なのかどうかは聞いたか?」

「聞いてない。」

と答えたものですから

「さっさと聞いて来い!自宅用ならば良いけど、祝い事だったらお客様に恥をかかすんだろうが!何年魚屋やっているんだ!」

と怒鳴るとパートのばあさん、慌てて

「先ほど鯛のご注文をされたお客様ぁ~!」

と飛び出していった。


 その間に流石にそこだけで手間かけるわけいかないから祝い事用に腹を裂かないおろし方で・・・・・・・・・

出来上がるころにお客様がお見えになられて


「うちの者が祝い事かどうか聞かなかったものですからこちらで祝い事用に処理させてもらいましたけど宜しゅう御座いますでしょうか?」

 と尋ねると

「嗚呼、私の方でも言い忘れていましたわ。今日、外孫のお食い初めで・・・・・・」

 等と返答が来るものだから危なかったと思いつつも表に出さず。

「それはそれは、おめでとうございます。」

 と寿ぐのであります。そのお客様のお連れには若い夫婦がいて幸せそうに眠っている嬰児が抱かれているのでございます。我ながら良い仕事をしてお客様の笑顔という追加報酬をいただいたのでございます。ここで、めでたしめでたしと行けばよいのですが・・・・・・・・・・・


 パートのばあさんが帰ってきたのが一時間ほど経った後である。どこをほっつき歩いていたのやら・・・・・・・・



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